第48話 サボりのちグラウンド
いよいよやってきた、体育祭の当日。
天気は晴天。
雲一つない炎天下はまさに真夏のお祭り日和といった感じではあったが――俺は一人、グラウンドから離れた部室棟の端っこまでやってきて、地べたに寝転がっていた。
このあたりは木々が覆い茂っていて日陰が出来ており、直射日光を避けて涼むのに最適だ。
――怠い。
クラスのやつらは体育祭で盛り上がってるが、正直俺はああいうノリについていけない。
もともと、みんなと一緒にとか、共同作業をとか、そういうのが苦手で陰キャを気取っていた人間だ。
最近は風間や春日井とよくつるむようになったが、以前はクラスの連中とはほとんど接してなかったくらいである。
そしてその風間も春日井も、何気にこういうお祭りごとが好きなので、今は他のクラスメイトたちと一緒になって盛り上がっている。
というか、あいつらって陽キャなんだよな。
「まあでも、盛り上がってるやつらを横目に学校の隅で涼むのも一興、か」
ふああと欠伸をしながら、木々の屋根を見上げる。
ふと、なんだかいい気持ちになってきたので瞼を閉じた。
このままここで、一休みでも――。
「――やっぱりここでしたか」
声が聞こえて、慌てて瞼を開いた。
すると、俺を見下ろす見覚えのある幼なじみの顔。
「白雪心愛……そなたも陰の者だな。お前も脱けだしてきたのか?」
「誰が陰の者ですか。悠、そろそろ出番ですよ。リレーに出てましたよね」
「……なに? 出番?」
「そう。次はリレーです。というか、紙代先生が悠のこと探してましたよ。もう並ぶ時間ですからね」
「…………」
すっかり忘れていた。
クラスの連中から逃げてだらけることばかり考えていたが、俺も競技に参加していたのだ。
「というか、どうしてこの場所がわかったんだ?」
「悠の行きそうな場所なんてわかりますよ。悠に詳しいですから」
「……なるほど」
その言葉だけで納得してしまう。
そうだった、心愛は俺に詳しいのだ。もしかしたら、俺自身よりも。
「というわけで、ほら、グラウンドに戻りますよ」
「そうだな」
心愛が手を伸ばして来たので、それを掴んで引っ張られるようにして立ち上がる。
「せっかく私が鉢巻きを縫ってあげたのに、競技に出ないなんて許されませんから」
「はは、確かにそうだな。心愛にわざわざ縫ってもらったんだ、頑張らないと」
「です。頑張らなかったら、なんのために私が縫ったのかわかりませんから」
直射日光に参りそうになりながら、そのままグラウンドへ。
「あ、きたきた。もーっ、なにやってたんですか!」
グラウンドに入ったところで、俺を探していたらしい紙代先生が近付いてきた。
「どうせサボろうとしてたんでしょう、言われなくてもわかるんですから。はやく所定の位置に行って並んでください、そろそろ怒られちゃう時間ですから。白雪さんも、ごめんね。沢渡くんを連れてきてくれてサンキューだ」
「気にしないでください。悠を管理するのは私の使命ですから」
いや、すみません、サボろうとしてたんじゃなくて、マジで忘れてただけです。
と、言い訳している暇もないので、さっさと所定の位置に向かう。
「じゃあ、頑張ってくださいね、悠」
「ああ」
当然、競技に出るのは俺だけなので、心愛とも別れた。
ええっと、リレーの列はここだよな。
知らない顔が多いが……それもそのはず。
このリレーは学年別に行われるものではなく、ブロックによる対抗戦だ。
ブロックとは各学年を四等分してつくられたチームのことで、同じブロックになった他の学年制ともポイントを共有し協力し合いながら自分のブロックの優勝を目指す、というのが我が学校の体育祭のルールとなる。
まあそんなわけで、今のこの場所には、まったく顔を知らない他学年の学生の方が多いというわけになるんだが――。
「……あれ、お前」
そんな中、自分が呼ばれたような気がしたのでそちらを向くと、よく見知った顔の生徒がいた。
ああ、この人、よーく知ってるぞ。
好意なんかはなく、むしろ嫌悪感しかない。好きか嫌いかでいうと嫌い。そんな相手ではあるが。
「ひさしぶりだな、早乙女」
俺の言葉に、綺麗な顔立ちの生徒のこめかみがピクピクと震えた。
――どうやら、大変面倒なやつと、同じ競技をやるハメになってしまったらしい。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
ミスがあったので修正しました。なぜか早乙女くんが先輩に。
すぐ読まれた方申し訳ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます