第9話キャスバル視点

 私が馬鹿だった。

 最初から賢女ゾーイの言う通りにしていればよかったのだ。

 そうしていれば、もっと簡単にアルフィンを助けることができたのだ。

 アルフィンの心を傷つけないですんだのだ。

 なにより、イアンをこんな状態にせずにすんでいたのだ!

 全部、愚かな私の責任だ!


「賢女ゾーイ!

 どうか、どうか、どうかイアンを助けて。

 そのためなら私の命を使ってくれていいわ。

 全部私のせいだもの!

 私が嫉妬にかられて、妊娠しているにもかかわらず魔力を鍛錬したせいで、イアンの魔力が制御不能になってしまったのよ。

 賢女ゾーイなら知っているのでしょ!

 命を触媒にあらゆる願いをかなえてくれるという伝説の魔法を!」


「落ち着いてください、アルフィン様。

 確かに私は伝説治魔法を知っています。

 でもその伝説の魔法は一つではないのです。

 一般的には失伝されたという魔法を、いくつも知っているのです。

 なにも今直ぐ命を触媒にしなくても、いくらでも助ける方法は方法はあるのです」


 アルフィンが慌てふためいている。

 だがそれも仕方ないことだ。

 自分が隠れて魔力鍛錬していたことで、自分と同じ病がイアンに伝わってしまったのだから。


 でも、幼い頃に死ぬといわれていたアルフィンが、今目の前で生きているのだ。

 私の妻となり、子供まで生んでくれたのだ。

 誰に何を言われても、諦める必要などないのだ。

 アルフィンが不安に思わないように。

 自分をこれ以上責める事のないように。

 内心の後悔と不安と恐怖を押し殺し、平静を装っていたが。

 でも賢女ゾーイの言葉を聞いて、心底安心できた。


「嘘です!

 嘘をついてもわかりますよ!

 賢女ゾーイは私を動揺させないように嘘をついているのです。

 女の感、母の本能で分かります!

 他に方法があると言うのは嘘ですね!」


「嘘ではありません。

 確かに完全に癒すには命を触媒にした魔法が必要です。

 ですが、延命するだけならいくらでも方法があるのです。

 時間を稼いでいる間に、完全な治療法を見つければいいのです。

 自分の命を差し出すなど簡単な事です。

 イアンを母のいない子にしたいのですか?

 自分の母親の事を思い出しなさい。

 自分を生かすために、母親が死んでいたとしたら、貴女はどう思うのですか?

 命を触媒にするのは最後の最後ですよ!

 それに、そんな事をして、イアンが後妻にいじめられても知りませんよ」


 私はどれほど愚かなのだ!

 完全に賢女ゾーイの嘘に騙されていた。

 女性の勘、とくに母の本能は凄い。

 もう二度と隠し事をするのも嘘をつくのもやめよう!

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