第8話

「じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわよ、公爵閣下。

 ちょっとは女心を理解しなさいよ。

 いくら自分を助けるためだとういっても、女は好きな人に秘密を持たれるのを嫌うものなのよ。

 ましてそれに他の女が絡んでいると許せないの。

 今後は若奥様のいる前で連絡してきなさい」


 賢女ゾーイの言う事はもっともかもしれませんが、私を苛立たせます。

 女心が分からないキャスバル様という言葉の意味は、自分の事も分かっていないという、賢女ゾーイのアピールがあるのです。

 私に対する挑戦です!

 賢女ゾーイもキャスバル様の事が好きなのです!


 キャスバル様は大陸一といわれた貴公子です。

 恋焦がれない令嬢などいませんでした。

 いえ、夫のいる夫人でさえ、密かに文を届けたという噂がいくらでもありました。

 そんな噂を聞くたびに、胸を痛めたモノです。

 私のような持病持ちには届かぬ方だと……


「アルフィン!

 そんな顔をするんじゃありません!

 コーンウォリス公爵のような貴公子の妻となったのです。

 言い寄る女の一人や二人、毎日現れるのは当然です。

 それにいちいち気をもんでいては、本当に死んでしまいますよ!

 それに今あなたが生きていけるのは、賢女ゾーイの創り上げてくれた魔法陣のお陰なのですよ。

 その賢女ゾーイに嫉妬するはしたない姿を、コーンウォリス公爵に見せるなど、本当に愛想をつかされても仕方ないのですよ!」


 母上が激しく私を叱責されます!

 確かにその通りです。

 私がいま生きていられるのは、賢女ゾーイの創り上げた魔法陣のお陰です。

 それなのに、お礼も言わず嫉妬するなんて、人の道に外れます。

 そのように育てたのかと、父上と母上まで悪く言われてしまいます。

 全てを話すための、わざわざ公爵家まで足を運んでくださった、父上と母上の行為を無駄にしてしまう、恥ずべき行為です。


「申し訳ありません。

 本来なら直ぐにお礼を言うべきところを、嫉妬にかられてて見苦しいところをお見せしてしまいました。

 どうかお詫びする機会をお与えください、キャスバル様」


「いや、いや、大丈夫だよ。

 ゾーイはとても気さくな性格だからね。

 これくらいの事では気を悪くしたりはしないよ。

 だから気にしなくても大丈夫だよ。

 どうしても気になるといのなら、一度食事に招待して詫びる機会を設けよう。

 ゾーイはああ見えて大食漢なのだよ」


 ああ、全然分かっておられないのですね。

 今まで気がつきませんでしたが、本当に女心を理解されていないのですね。

 ゾーイがキャスバル様を慕っている事も、まったく分かっていなのですね。

 ゾーイの事が少し可哀想になりました。

 本当にほんの少しですが。

 こんなキャスバル様に一目惚れされるなんて、私はなんて運がいいのでしょうか!

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