第84話 可愛い仮本妻とキス

 顔出しも済んだので、由季が起きたタイミングで家を出ようと思っているが、中々起きてこない。疲れる様なことを最近は……しているな。


 旅行中に男女の関係になってからは、週に一回は自然と体を重ねていた。それがいつの間にか完全週休二日制だと言わんばかりに週五回となったが、すぐにサビ残が発生して休日がお無くなりになった。


 それを嬉しく思う反面、辛いと思う気持ちもある。


 ことに及んでいる最中は色々と分泌されて無敵になれるが、終わると疲れがどっと押し寄せてくる。



「うへへっ……」



 そんな俺の心情を知ってか知らずか、悪巧みを始めようとする声音が聞こえた。だが、それは寝言だったようですぐに寝息に変わった。


 しかし、その一部始終を間近で聞いていた由佳さんは頭を抱えていた。



「この子もそうなのね……」


「この子もとは?」


「その、言いにくいのだけれど、夢の中でも求めているのよ」



 知らなくてもいい情報だった。しかし、夢の中の俺ではなく、現実の俺を求めて欲しいと思ってしまうことは重いだろうか。



「無理に付き合わなくていいのよ」


「本当のところは?」


「構ってちゃんよ」



 なら構うしかない。そう判断した俺は由佳さんを枕にして眠っている由季を抱き上げた。その行動に何をするのか気付いた由佳さんはにんまりとする。



「夫との一時の為に全部屋防音設計なの。だけど、知っての通り由季の部屋は少し違うけど」


「……」



 引き籠もっていた由季に声が届くようにドアノブ辺りに小さな穴を開けていた。だから、由季の部屋は完全な防音ではないので使えない。なので俺が借りていた部屋を使う。


 由季の部屋の前に行くことは日課のようなものだったので、それに気を遣ってくれたのか隣の部屋を宛てがってくれていた。


 だけど、部屋の中は寝泊まりでしか使用していなかったので家具はベッドの一つしかない。



「ん〜……」



 早速ベッドの上に寝かせればクルンと半回転し、うつ伏せになって再び寝息を立て始めた。うつ伏せになった為、胸部という爆弾が押し潰されて横にはみ出していた。



「誘われてるな……」



 というのは冗談で由季の胸のお世話をしている者としては見過ごせない。直ちに由季の部屋から小さいクッションを持ってきて、体の下に差し込んだ。


 これで良い感じに空間ができ、胸元への負担を和らげることができるだろう。



「って、満足するな」



 気を取り直して俺もベッドの上に寝転がり、目の前にある由季の唇にそっと挨拶の口付けをするが、流石にキスの一つでは起きてこない。欲張りな白雪姫だ。


 普段なら由季の爆弾を揉んだり、耳朶を咥えたりと刺激を与えて目を覚まさせるのが多いが、今回は違う方向で攻めよう。


 というか、それをしてしまうと最後まで致してしまう可能性が高いので、できるだけ避けたい。


 そこで考えたのがシンプルなキスだ。身体を重ねている時のキスは由季が欲しくなり、どうしてもディープキスになってしまう。


 なので、健全なキスがしたい。


 ということで、早速行動する。


 挨拶のキスと同じように唇を重ねるのは当然だが、そこからは深いキスにならないよう調整しながら、由季と唇を重ね続ける。


 愛おしい気持ちが溢れて手を出したい欲求も確かにあるが、今はそれを鎮めて由季の唇に集中する。



「ん〜? ……んっ……」



 ある程度、時間が経つと違和感に気付いた由季も目を覚ましたようで、現状を把握してキスを受け入れてくれる。反射的に下半身に伸びてきた由季の両手を捕まえて、主導権を握らせないようにする。 



「んっ、ゆぅ……」



 キスだけで満足できなくなってきた由季は両手が使えないからか、舌先で唇をなぞってきた。


 それでも普通のキス以上のことをされないからか、顔を逸らしてキスから逃れた。



「ぷくぅ……その気にならない」


「今日はもうしたからな」



 正確には昨日、抱いている時に日を跨いだ。



「それに起こしたかっただけだ」


「むぅ……」


「夢の中の俺を求められても困るからな」


「いや〜ん、嫉妬深〜い」


「……」


「襲うぞ」


「ごめん」

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