第79話 可愛い本仮妻とプレゼント

 自室に愛しの彼女がベッドの上で横たわっていた。それも、実家のベッドというのがポイントが高い。だけど、掛け布団の中で行われていた奇行のおかげでマイナスポイントの方が大きかった。


 その後、中に引き込まれて抱きつかれた時は甘い香りと柔らかな感触に導かれて受け入れようかと思ったが、数時間前に愛し合っていたおかげで耐えることができた。というか、慣れるはずが無い。慣れていたら由季の相手はしていないのだから。



「由季の服……」



 良い匂いだ……。可能なことならずっと嗅いでいたいが、もしこの場に由季が戻ってきたら大変な目に遭うことは間違いないので控え目にしておく。



「これはどうするか……」



 ポケットの中から小さな箱を取り出した。その中身は指輪である。大人の玩具以外に頼んでいたサプライズ品の正体だ。


 仮の結婚式とは言え、結婚したのだから指輪は欲しい。というか由季の左手の薬指に指輪が嵌っていて欲しい。……そういう願望がある。


 要するに俺の女アピールをしたい。身と心を一つにできたのは嬉しいことだが、それを証明する形の物が欲しかった。



「あ、そういえばここに服があるということは下着姿で料理してるのか……」



 ないとは思うが、怪我とか火傷等されたら悲しい。俺に迷惑を掛けたと由季が寝込むかもしれない。



「見張りに行くか」



 と、口にしながらも俺の頭は由季の爆弾でいっぱいになっていた。あの破壊力は生涯、突破できる気がしない。そのせいか、俺は指輪の入った箱を置き忘れて台所に向かってしまった。




 **** ****




 由季に服を着てくるようにと告げた後、作られていた料理をリビングにあるテーブルに運んだ。最後にプレートのプラグをコンセントに挿して準備完了である。



「後は指輪をいつ渡すか……。あ、置き忘れた」



 もし中身を見られたらサプライズ感が無くなってしまう。いや、部屋に戻るのを計算したサプライズということにするのもありか……。



「でも、直接渡したかったな」


「これのこと?」


「うおっ!」



 ぬるりと背後から接近されて由季に抱きつかれた。相変わらずの柔らかさで心の中で拝んだ。



「大丈夫だよ。中身は見てないから」


「……一応聞いておくが何が入ってたら嬉しい?」


「コンドーム」


「ぶっ!」


「極限まで薄くした高級コンドームで生えっちと大差の無い快感を得られる物だと嬉しいな。勿論、ゆうが望むなら直接でもいいよ……?」


「そ、そうか。BBQの後に改めて渡すよ」


「楽しみにしてるね」



 由季は耳元でそう囁くと、象さんを一撫でしてから指輪の入った箱をポケットに入れてくれた。もしそんな代物があったら迷わず使っているということは心の内に秘めておく。



「じゃあ、焼いてこ〜」


「……」



 物凄い切り替えの早さで感心した。




 **** ****




「BBQなんて滅多にしてなかったけど、良いもんだな」


「私の実家では結構してたよ。お母さん意外と面倒臭がりだから」


「俺のところは手作り料理がメインだったな。父さんの胃袋を掴んでおく為にとかで。BBQなんてただ肉とか野菜を焼くだけだから愛情が籠ってないって」


「分かる気がするな。でも、私はそこまでじゃないけど」


「何か理由でも?」


「ゆうに愛されてる実感があるから」


「そ、そうか」



 聞かなければ良かった……。



「話変わるけど、ゆうの実家来れたのは良いけど、落ち着けるのはやっぱり私たちの家だね」



 二人暮らしを始める前は不安もあったが、今では……不安しかないな。主に性的な面で。それ以外については本当に良くやっている。


 炊事、洗濯、掃除等、家庭的なことは全てしてくれる。いや、これらも不安かもしれない。


 炊事については俺の使い終わった箸やらスプーンを舐めるし、洗濯は着た服が戻って来るのが遅いしで安心できるのは掃除だけかもしれない。


 でも、別に問題無いと思ってしまう俺は大分、由季に毒されているのだろう。その位の変態……じゃなくて、変人じゃないとそもそも興味を持たなかっただろうし。



「由季、付き合う前も付き合った後もしてないものがあってな」


「え? したい」


「デート」


「お家デートしたよ」


「お泊まり会だな、それは」


「いや、でも、神社以外は……」


「前報酬として、さっき持ってきてくれた、この小さな箱の中身をあげよう」



 俺は箱をテーブルの上に置き、由季に見える様にしてゆっくりと開けていく。



「生えっち同然の……」


「コンドームじゃなくて、結婚指輪」


「結婚指輪……」



 由季がフリーズした。

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