EX14 可愛い母娘と5000日後①

 パパ、明後日に授業参観あるから見に来て


 悠季のその誘いがあったのは昨日の夕食の時だった。軽い誘いに軽く付き合うように許可してしまったが、悠季の授業参観は滅多に行ったことがない。一度、行ったことはあるが『集中できないから来なくて良いよ』と拒否られてしまったのでそれ以降行ってなかった。


 だが、由美の授業参観は(悪い虫が付いていないか確認しに)毎回見に行っている。悪い虫が付くにしてもあと20年ほどは俺の心の癒しとして側にいてもらいたいからな。



「二分の一成人式だって。悠季は10歳になったか〜」


「そう言う由季は30だけどな」


「ゆうもでしょ」



 三十路になっても由季の美しさは微塵も揺るいでいない。それどころか妖艶さに磨きが掛かり、日々の夜の生活が段々と長くなっていることについては気のせいだろうか。



「30になると魔法使いになれるらしいな」


「ゆうが童貞のままだったらなってたかもしれないね。過去に戻れたとしても魔法使いにはさせないけど」


「俺も魔法少女にはさせないからな」


「30で魔法少女はどうかと思うけど。ありそうなのは聖女じゃない?」


「由季が聖女か……」



 慈愛に満ちた表情で皆を癒したり、穢れを祓ったりするのだろうか。いや、逆に由季のことだから、穢れが溜まってしまうだろう。主に破裂寸前な爆弾を見て。



「本当、失礼なこと考えるよね」


「いや、悪気があるわけでは……」



 平然と俺の思考を読んできた由季はニヤリと口元を歪ませる。



「だけど強ち間違ってないよ。いけないことを考えたあなたの穢れを私は食べるから……」



 獲物を見つけた獣のように由季はじゅるりと舌舐めずりした。その仕草を見てやばいと思ったのも束の間、マウントを取られていた。



「聖女になるのはあなたと出会わなかった時の私であって、あなたと出会った私は性女あなたの女になるけどね」


「由季……俺の女」


「そう……私はあなただけの女」



 10年経った今でも進化し続ける由季の誘惑に耐えられる筈もなく、今夜も俺は由季の術中に引っ掛かってしまった。




 **** ****




 日課のように由季と一つになり、搾り取られた翌日、授業参観の日になった。


 今日も今日とて由季に濃厚なディープキスで起こされ、朝特有の現象も積極的に鎮められた。


 性の処理、食の充実さ、良質な睡眠を提供してくれる由季は、生活を送る中での掛け替えの無いパートナーとなっている。


 でも、性の処理が6割……いや、7割は占めていると思うが、慣れてしまったので何も問題はない。



「じゃあパパ、授業参観見に来てね」


「行ってきます」


「行ってら〜」



 悠季と由美の二人を見送った後、リビングに戻ればテレビを不思議そうな表情で見ている悠里がいた。由季が側にいないということは着替え中だろうか。



「どうしてテレビってつくの?」


「契約してるからだな」


「ちがくて、うつるのはどうして?」


「それは……アンテナが電波を受信してテレビに映るように変換してるからだな」


「どうやって、でんぱはじゅしんしてるの?」


「……」



 そういうものだからとしか言いようがない。これが専門家なら詳しく話してくれそうだが、生憎こちらは専門家ではない。やはり、不思議なことに興味を持つ悠里は俺の子だな。


 悠季と由美は、俺がきっかけを与えて由季が一人で産んだような子だからな。決して、俺が由季より弱いということではない。その気になれば由季なんてちょちょいのちょいだ。すぐに屈服させて……。



「無理矢理いかされちゃうね」


「あ……」



 背後から何度も聞いたことのある甘ったるい声が……。そして、耳たぶをペロリと舐められ、蕩けそうな声色で俺を誘惑する。



「今夜楽しみにしてるね。あなた……」



 その一言で昨日の由季との行為が思い起こされる。父親としての仮面が外れて男の部分が飛び出して来ようとするが何とか堪えた。


 俺には娘たちの授業参観を見るという役目が残っているからだ。



「む……外出前に発散させてあげようと思ったのに」


「今夜の話じゃないのか」


「昨日の夜のことを思い浮かべて、襲ってくれないかなって」


「はぁ……」



 やはり求めてくれるのは嬉しいが、そう何度も高頻度でされるのは辛い。だが、そんな俺の考えを悠里は吹き飛ばした。



「ママのことだいすきなのに、おねがいごときいてあげないの?」


「へ?」


「そうだ、そうだ。ママのお願い事は聞いてあげなきゃいけないんだよ」



 悠里の言うことに賛成とばかりに由季は気分を良くする。



「ママのおねがいごとはなに?」


「そ、それは、パパとね……」


「ダメ」



 意外なことに悠里はそれを却下した。



「どうして?」


「おねえちゃんがいってた。パパがママとなにかするならしかたないけど、ママがパパとなにかするのはダメだって」


「そうか。それなら仕方ないな」


「うぐ……悠季ぃ」



 悔しそうにしている由季には悪いが、俺には朗報である。由季のペースでやってしまうと体が持たなくなってしまうからな。




 **** ****




「……では、この問題解ける人いますか〜?」



 担任の先生の呼びかける声が通り過ぎる中、私はぼーっとしていた。先生の話をきちんと聞くべきなのだろうが、問題が簡単過ぎてやる気が一向に湧いてこないのだ。


 これもお姉ちゃんが宿題が分からないからと押し付けてくるのがいけないのだ。おかげで小学2年生なのに5年生までの勉強は分かるようになってしまった。


 お母さんのアホっぽい部分を継承し過ぎなのだ。


 でも、お姉ちゃんがあんな性格なのに対して、私は誰に似たのだろうか。



「ぼーっとしている、九重さん。答えは分かりますね?」


「42」


「正解です」



 掛け算なんて幼稚園に入る前にはマスターしている。もっと、問題という問題を質問して来てほしいものだ。


 例えば、面積を求める問題。あれは興味深かった。方程式を用いて答えを出す。簡単なことのようだが、難しいものである。


 平行四辺形を求める場合は底辺×高さ、長方形を求める時は縦×横で答えは導き出せる。では、その方程式が発見されていなかったら答えは出せるのだろうか。


 不可能では無いにしても、かなりの時間を要すことになるだろう。


 うん、とても興味深い……。

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