第77話 可愛い本仮妻と恋のキューピッド

「すぴぃ〜……すぴぃ……」



 規則正しい寝息を立てて、抱き枕を抱いて寝ているのは、一月前に仮の結婚式を経て、仮の妻となった由季だ。


 相変わらず寝る時はシングル分しか使わないので、ダブルベッドではなくシングルベッドでも良かった気がする。でも、寝返りを打とうもんなら転落する可能性があるので、このままでも良いだろう。



「ん……ゆうぅ……んむっ……」



 抱き枕を俺だと思っているようでキスを抱き枕に浴びせている。夢の中でも俺とキスしてくれるのは嬉しいものだ。お礼に本物のキスを交わしてやれば、ほっとした表情になった。



「それにしても、最高だな……」



 俺の変態度にも磨きが掛かり、今は寝ている由季の胸を揉んでいる。これが無ければ一日が始まった感じがしないのだ。前は何かと理由を付けて揉んでいたが、そんなものはもうない。そこに由季の胸があるのだから揉むのだ。


 山があるから登る。それと同じく自然の摂理である。


 それに起きたとしても怒られることはない。何せ、俺に触られることに慣れてしまっているからだ。二人暮らしを始めた当初はお互いに恥ずかしがっていたが、今では大分無くなった。慣れって言うのは素晴らしいものでもあるが、恐ろしいものでもあると実感する。



「んぁ……」



 っと、考え事をしていたら手が勝手にパジャマの中に侵入していた。由季は寝る時にブラジャーを着けないのでダイレクトにその柔らかさと大きさが伝わってくる。



「柔らかい……」


「んんっ……」



 女性の体は不思議だ。こんなにふわふわで柔らかいものがある上に良い匂いがするのだから。


 本当に最高だ。


 無我夢中で由季の胸を揉みまくる。飽きることのない柔らかさが癖になってくる。途中からは首筋の匂いも嗅いで全身で由季を感じることに集中していた。



「由季……んちゅ……」


「んあっ……」



 だが、そうしている間にも漏れる由季の声には艶が含まれるようになっていく。


 そして、



「もう無理……」



 散々いじられて我慢できなくなった由季は舌舐めずりすると、一気に距離を詰めて反撃してきた。



 **** ****



「動けない……」



 由季に反撃された俺は干涸びそうになっていた。体力が無い由季でも夜の運動だけに関しては桁外れの体力を有していた。


 まぁ、今は朝だけど。



「はわぁ……」



 その肝心の由季は心ここに在らずの状態になっていた。散々、絞るだけ絞って自分の世界にトンズラである。なんて悪魔的行動。この前なんてドラッグストアで洗剤と一緒にコンドームを買っていた。あまりにも自然過ぎて何も言わなかったけど。


 それに、慣れてきたのかコンドームの付け方も……いや、この話は止めておこう。



「よくもやってくれたな」


「むにゃぁ〜」



 由季と愛し合った後は無性に可愛がってやりたい気分になるので、首元を擽ってやれば、ごろんと転がって頭を差し出してきた。散々、弄ばれてしまったので今度はこちらがペットとして扱ってやらねば不公平というものだ。



「ほれ、ここが良いんか?」


「う〜う〜」


「そうか……」



 だらしない姿を晒しながら、気の抜ける声を出してペットになりきる元女子高生。絵面的に何だかいけない事をしてる気分になって来るが、止めることなど到底できそうになかった。

 


「右の方もにゃぁ〜」


「……」



 突然、リクエストされると止めようかと思うことはあったが。




 **** ****




 そんな幸せな朝の出来事があったというのにお昼時の今はピリピリ……とまではいかないが、いつもの雰囲気と違ったものがあった。それも由季が元同級生である彼女を家に招いたからだ。


 何でもナンパに襲われていたところを助けたそうだ。なぜ、襲われているところを助ける場面に遭遇するのか疑問だが……。


 その後はナンパから逃亡して、大丈夫だと判断した後に自宅前まで戻ると、そこで彼女とばったり再会してしまい、更には表札も見られて、正体を気付かれてしまったと。



「えっと、そもそも襲われていたのは天海さんで……。願い事をする為に集中していたようで気付いていなかったのかと」


「今年は自殺者が多いようだな……。まぁ、それは一旦置いておくとして、どうして助けたんだ? 普通は関わりたくないと思うのが普通だが」


「……私が天海さんをイジめていた人の中の一人だからです。九重君が印刷してばら撒いていた物を書いた張本人でもあります」



 あれか……。だが、由季がイジめられたことに関しては、思うことはあるがもう怒ってはいない。由季とこうして二人暮らしできているのも今までの出来事があったからこそだ。



「……そのことを伝えるメリットはない筈だが?」


「ずっと謝罪をしたかったんです。……ここで言うのも可笑しな話ですが、私は九重君が好きでした」


「む……」



 彼女と出会う経緯を話した後、静観していた由季が動きを見せた。



「二人は覚えていないのかもしれませんが、小中も同じ母校でした。夫婦コンビと言われてたのも羨ましかったんです」



 そこで彼女は由季に視線を移してから、話を続けた。



「九重君の想いにずっと応えなかった貴女が嫌いでした。何も見ようとせずに素っ気無い態度を取る貴女が嫌いでした。他の人と自分は違う人種だと思っているような貴女が嫌いでした」


「思い出した……。やけに突き刺さるようなことを言ってきた人。そっか、貴女だったんだ、ありがとう」


「え……」


「私がこうしてここにいられるのは、ゆうが救ってくれたのもあるけど、貴女の言葉でもあるの。だから、貴女は私とゆうを繋げた恋のキューピッドでもあるの」


「……」



 恋人ができないのに、カップルを作ることはできる。なんとも皮肉な話だ。でも、今回は心から嬉しいと思った。


 それは一度、傷付けてしまった相手だからなのか、それとも好きだった人が幸せになってくれていたからなのか。或いはその両方なのか分からないが。



「……なら、謝罪はいらないかな」


「うん。今更謝られても誰も許すつもりなんてないから」


「そっか……。最後に一つ聞いてもいい?」


「なに」


「神社で呟いてた内容を推測するに、もうアレな関係なの?」



 アレな関係……。その言葉が連想させるのは夜の運動を共に行う関係のことだろう。今朝も夜の運動ならぬ朝の運動をした。良い汗をかいたものだ。しかし、他人に伝えるようなものではない。



「そうだよ」



 だが、相手も同じ人を好いている。だから、ここで認めて諦めざるを得ない状況にしてしまえばいい。体を一つにしたからと言っても心はいつまでも一緒にいるわけではないのだから。



 **** ****



 話が終わり、彼女が家を出て行くと由季はぎゅっと俺に抱き付いてきた。だが、由季の体は震えており何かに怯えているようだった。



「どうしたんだ」


「ゆうのこと好きな人がいたから思っちゃったの。もし、私じゃなくて他の子を好きになってたら今頃も学生でいられたんじゃないかって」


「そうだな……」


「面倒臭くなくて、気兼ね無く他人と接することができて、立ち回り方も上手くて……そのような人を好きになってたら普通に……」


「暮らせるな。でも、そんな普通の人は好きになる前に興味も持ってないな。それと同じように由季も俺と出会わなかったら、誰かに気を許すようなこともなかっただろ?」


「うん……」


「それこそ、由季が俺と出会わなかったら傷付くこともなかった」


「違うよ、ゆうは……」



 そこで由季は気付いた。悠が言わんとしていることを。



「そう言うことだ。例え、時間が巻き戻ってやり直せたとしても俺は由季と恋人になるよ」


「ゆう……私もゆうと同じように恋人になる。何度でも初めて捧げるから」


「そ、そうか」



 どうして、とは言わない。



「ゆう……したい。いっぱいしたい……。めちゃくちゃにして……」



 由季が発情してることなんて。

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