第75話 可愛い本仮妻とチェックアウト
軽い朝寝を経て、目が覚めれば由季にキスされていた。何かしらの反応を返すべきなのだろうが、気まずくて寝たフリを続けている。
「はぁ……ゆう……んっ」
「好き、好き……ちゅっ……」
このように無我夢中で唇を奪ってくる。キス魔にしてしまったのは俺が原因だと思うが、由季のせいでもある。キスしたそうに俺のことを見てくるし、何よりキスしたくなってしまう仕草をするのがいけないのだ。
「あなた……」
「由季……」
「あ、起きた……んむっ……」
遂にはあなた呼びされてしまい無視できなくなった。そして、慣れてきたディープキスをする為に口を開けたが、一瞬の間に舌を持っていかれた。
「んんっ……はむっ……」
舌が絡み合い唾液の送り合いが加速して頭がぼーっとしていく。目覚めたばかりなのにまた眠くなってくる。既に止めさせる気力は無く、由季の思うがままになっていた。
「ん……ふぅ……」
満足したのか唇を離した俺と由季の間に銀色の橋が掛かる。
「……いきなりキスしてきてどうしたんだ?」
「いきなりじゃないよ……。あなたが寝てからずっとしてた」
「そ、そうか。それって……」
「1時間半ぐらい。だから、大分経ってるよ」
そう言って嬉しそうに微笑む由季を見れば、まぁ良いのかと思ってしまう自分がいる。頭を撫でてあげれば気持ち良さそうに目を細めた。
「にゃ〜」
「大きい猫だな」
「わん」
「犬にもなれるのか」
「ミ〜ンミンミンミ〜」
「動物じゃなくて次は虫か。でもそのセミの物真似、懐かしいな。あの頃の由季さんは清楚だったな……」
「それはどう言う意味?」
聞き捨てならなかったのか、由季がジト目で見てくる。そのままの意味なのだが、そんなことを言ったらどうなるか分からない。
「仮に私が清楚じゃなかったとしたら、ゆうのせいなるけど」
「それは……」
「きゃー汚されちゃったー」
棒読みで言われても心に来るものはあるのだ……。
「……そうだな」
「冗談だよ。私も望んだことなんだし汚されたって思ってないよ。逆に汚して欲しいって思ってるよ……」
「由季……」
「してもいいよ……」
「……」
本当に策士だ。
でも、俺もしたいと思ってしまうから人のことは言えない。そうして、由季と愛し合うのも三度目になろうとしているところで、部屋に設置されている固定電話からブルブルと音が鳴り響いた。
由季の膝枕で眠りに落ちたのは10時くらいからで、そこから1時間半が経過している。
この時間帯が意味するのはおそらく……。
「チェックアウトの時間忘れてたな」
「延長する……?」
「しません」
**** ****
「ぶぅ~」
本当なら愛し合っていた時間がチェックアウトというものに邪魔された由季は不貞腐れていた。
「ライバルはいない筈なのにどうして……? 環境が私の敵になるの?」
「何言ってるんだ……?」
「だって、昨日だってお腹の音で止めちゃったし、他にもしようと思った時も何かと都合があってできてなかったりするもん」
「まぁ、そうだな……」
俺はそうは思っていないが由季に合わせないと変に突っ掛かってきそうなので同意しておく。そんな中、同じような話し合いをしている男女が一組ロビーにやってきた。
「ねぇ、あなた? 延長しないの?」
「いやいや、チェックアウトの時間にはロビーで集合って連絡していたからね……」
「チェックアウトって嫌な言葉ね……」
その男女とはもちろん、由季の両親である。
「あら? 由季ちゃんおはよう」
「おはよう、お母さん。私もチェックアウト嫌い」
「流石、私の子ね。チェックアウトなんて無くなれば良いのよ」
そうしてチェックアウト嫌い組を残して、ホテルのカードキーを返却しようとしたところで透さんが話し掛けてきた。
「チェックアウトっていいものだね」
「どちらでもないですけど、連絡を貰ってない上に俺と由季がロビーにいたのを見てから集合と言いましたね?」
「合わせてくれると大変に助かる……」
「貸し一つでお願いします」
「そういうところは裕人にそっくりだね……」
まぁ、父さんだったらもっと自分の立ち位置を有利にできるような取引をすると思うけど、この場にはいないから考えても仕方ないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます