可愛い本仮妻編

第67話 可愛い本仮妻と初めて①

 本物の仮妻となった由季とその場で軽く抱き合う。暫くしてから、そろそろ良いかと思い辺りを見渡せば、由佳さんと透さんは何処かへと行き、母さんもいなくなっていた。


 残っているのは式場に設置されている長椅子に腰掛けて、楽な体勢でいる父さんだけだ。



「結婚おめでとう。と、言ってもいつかは本当の結婚もするとは思うが。それと悠のタキシードも一応あるが着るか?」


「まぁ、あるなら……。由季は着て欲しいか?」


「そのままの方が良いけど、折角だからね」


「分かった。じゃあ、行ってくる」



 俺は父さんに更衣室の場所を聞き出すと、着替えに向かった。



 **** ****



 悠が式場から出ると、その場には裕人と由季が残った。将来のお義父さんになるのだから、何か話題はないかと頭を回す由季だが何も出てこない。


 だが、それを悟ったのか定かではないが、裕人の方から話し掛ける。



「今は幸せか?」


「あ……はい。とっても」


「この前は舞香が悪かった」


「いえ……」



 未だに体から力が抜けていないのを察した裕人はとっておきの話をしようと決意する。



「今では悠は僕の大事な息子でもあるが、産まれた当初は望んではいなかった。舞香が勝手に産んだからね」


「それは聞いたことがあります。無理矢理されたとか……」


「悠にはしないでくれよ?」


「しませんよ……たぶん」



 悠には誤魔化していたが色々と触られていた為に、由季は限界寸前だった。ちょっと危ないどころか、二人きりの密室になったら迷わずベッドに連れ込む自信があるほどだ。



「だが、悠は相当惚れ込んでるから、無理矢理しても乗り気になると思う」


「無理矢理はしません。私はゆうと心から愛し合いたいんです。体が目的ではありません」


「そうか。それを聞けて安心した。悠には僕みたいになって欲しくないからね……。では、これからも悠を頼むよ」


「はい。いつまでも仲良しでいます。お義父さん」


「良い響きだ……」


「何でしょうか?」


「いや、何でもない」



 由季は裕人と話して何だか悠と似ている部分があって、今まで感じていた緊張感が嘘のように解けた。それから由季は悠との楽しい生活を裕人に話していれば、急いで着替えを終えた悠が由季の側に戻ってきた。



「なんか嫌な予感がして早く着替えて来たけど、何かあったか?」


「ふふっ、少しだけ話してただけだよ」


「そうだ。それより折角の新郎と新婦の姿になったんだ。会場を見て回ると良い」


「あ、あぁ……」


「ほら、ゆう。エスコートして?」


「行きましょうか、お嬢様」


「はい、旦那様」



 悠と由季の二人は腕を組んで、イチャつきながら式場を後にした。一人になった裕人だが、二人が出て行った出入り口……ではない方の出入り口を見て呟く。



「出ておいで」


「あなた……」


「涙脆くなったものだな」


「だって……」



 裕人は舞香の姿を見て思い出したことがあった。



「好きだ、舞香」


「え……」



 一度も聞いたことのないストレートな好意の言葉に涙が引っ込み呆然となる。



「ずっと見てきた。僕に頼らず一人で悠を育ててきた姿を。その姿を見ていたら僕は舞香のことが好きになっていたようだ」


「あなた……」


「今度は僕の為に……子供を産んではくれないか?」



 また、突拍子のないことを言うものだから、今度は倒れそうになる。



「っ⁉︎ また、無理矢理しちゃうかもしれないわ……」


「いつものことだ」


「今度は甘えちゃうかもしれないわ……」


「今まで甘えてこなかったからな」


「あなた……あなた……」


「愛してる。舞香」


「馬鹿……裕人のアホ……。でも、大好き……」



 そうして裕人と舞香の二人は遅過ぎる両想いを経て、初めて想いが籠ったキスを交わし合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る