EX8 可愛い妻とクリスマス

「最近寒くなって来たな」


「そうだね」


「何もやる気出ないな……」


「そうだね〜」



 リビングに設置したコタツに二人で入り、お互いに顔だけ出している状態でそんな気の抜けた会話をする。厚着をすれば済む話だが、コタツで温まりたいが為に、薄着でコタツに入っている。



「みかん剥いて」


「やだ」



 すっかりしたくないことは拒否するようになったので、本当に図太くなったものだ。これが一昔前なら、俺の為にみかんを剥いてくれた筈だ。


 でも、はっきりと自分の意思を示すようになった由季の方が好きなので嬉しい反応でもある。



「思えば、この一年で色んなことがあったな」


「籍入れて本当の結婚式を挙げて、本当に楽しかったね」


「そうだな。年明けたら何する?」


「う〜ん……神社巡りとか?」


「本当好きだよな」


「縁結びと安産成就は溜め込んでも得しかないからね」



 あの旅行を経て、由季はすっかり神社に興味を持って行くようになった。近場にある神社は一人で行けるほど成長している。



「もう縁結びし過ぎて、由季から逃げられないな」


「逃げるの?」


「逃がさない」


「ふふっ、私も逃してあげない。この先、生まれ変わっても必ず夫婦になるんだから」


「じゃあ俺は魂が朽ちるまで由季と一緒にいるよ」


「それ良いね。じゃあ私は魂の一欠片でも残ってたらゆうと一緒にいる」


「魂が残ってなくても一緒にいてあげよう」


「それもう赤の他人」


「「ふふっ」」



 でもそんな状態になっても本当に一緒にいそうだから、俺が恋に落ちるのは、どの生涯においても一度しかないのかもしれない。



「えっ」


「ちはしないよ」


「まだ最後まで言ってないのに……ぶ〜」



 クリスマス中のカップルはえっちするのかもしれないが、俺はしない派である。ただでさえ、毎日のようにえっちしているのだから、休みの日があっても良い気がするのだ。



「ほら見て? 0.02mのコンドーム」


「なんで持ってんだよ……」



 0.02と強調された新品のコンドームの箱を由季は寝そべっている俺の目の前に置いた。


 まるで投げたフリスビーを飼い主に渡す犬に似ている。それと同じようにこの箱を投げれば由季が追いかけるかもしれない。



「ほら、取ってこい!」



 前を遮られて邪魔だったので箱をスライドさせて遠くにやれば、次は0.01と書かれた新品のコンドームを目の前に置いてきた。



「こんな薄いの付けてえっちするんだったら生の方が良いよね」


「少しは避妊の努力をしませんかね?」



 こういうことは本来、女性が気にする筈である。だが由季は何かと生でしたがる。確かに生でのえっちは最高だったと認めよう。しかし、一時の感情でするものではない。



「じゃあコンドーム付けてしよ。今日は性夜のクリスマスなんだから」


「ニュアンスが違うぞ」


「もう……あ、そうだ」



 何か思いついたのか由季はコタツから出るとリビングを出て寝室に向かって行った。暫くすれば、驚くべき姿になって戻ってきた。



「じゃ〜ん、ミニスカサンタ〜」


「ちょっ……」



 ワンピースタイプのミニスカサンタ服を着た由季が白い袋を持って戻ってきたのだ。


 惜しげもなく晒された太腿が眩しい。それに最近、体型がむっちりしてきたというか、俺好みの体型に徐々になってきているので否が応でも男の部分が反応してしまう。



「じゃあ、今から聖なるプレゼントをしちゃいます」


「何かくれるのか?」


「そうです。では……」



 ゴソゴソと白い袋から細長い物を取り出した。それは先端に指が付いている指差し棒であった。



「これで何するんだ?」


「乳首当てゲームができるよ? やってみる?」


「魂胆が丸見えだが……やってやろう」


「じゃあ、どうぞ」



 由季から指差し棒を貰った俺は直ぐ様、爆弾の真ん中、導火線が繋がっている部分を突く。



「んぁ……正解♡ 早かったね」


「俺が間違える訳ないだろ?」


「履歴書に妻の乳首当て達人って書けるね……」


「発想がぶっ飛び過ぎだろ」


「じゃあ、次だね」



 再び、ゴソゴソと白い袋を漁る。そして、又もや長い物を出してきた。


 だが今度は、指差し棒等という遊び道具ではなかった。



「愛情込めて作ったよ。貰ってくれる?」



 由季が渡してきたのは赤と白の毛糸が使われた手編みマフラーだった。



「えっ、これ……」



 次もまたふざけた物だろうと思っていた俺だが、予想外の攻撃を受けてしまった。



「婚約指輪貰ったからさ、お返しがしたかったの。こんな安物しか用意出来なかったけど少しでも……」


「由季!」


「ゆう?」



 俺は我慢できずに由季を離してやらないとばかりに強く抱きしめる。本当は袋の中身が全部ふざけた物だと思っていたから尚更、反動が大きかった。



「ありがとう。大事に使うよ」


「うん……」


「由季、その……」


「したくなった?」


「……」


「寝室行こっか……」


「あぁ……」



 認めたくなかったが、由季のミニスカサンタ姿を見てから興奮して、このマフラーでトドメを刺されてしまったのだ。


 結局、俺はしないと決めたクリスマスも由季と一つになった。


 因みに白い袋にはまだ物が残っており、ことが終わってから確認してみれば全てコンドームだったことは一生、忘れないだろう。

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