EX9 可愛い◯◯と4000日後
「あぅぅ〜」
「うぅ〜」
「あぅぁ!」
「いたっ……」
俺と由季の第三子の子供で初の男の子である
由季に唸る真似をされたのが気に食わなかったのかもしれない。
だが流石に三人目で慣れているようで、由季は悠里の鼻を摘んで離していた。
「もう……この子は噛み癖が多いから、ゆうみたい」
「それはとんだ風評被害だ。そんなに噛むなら哺乳瓶に入れてから飲ませれば良いんじゃないか?」
「それも考えたけど、やっぱり直接飲ませる方がこの子のお母さんになったんだって実感が強くなるから止められないの。噛むのも可愛いから許しちゃう。ふふっ、可愛いち◯ち◯」
「おい……」
由季が悠里のズボンを捲って、もっこりとした部分を見るものだからジト目を送る。だが、何を勘違いしたのか由季は俺の大事な部分を凝視して言う。
「安心して、興奮するのはゆうのち◯ち◯だけだから」
「興奮しなくても見ちゃダメだろ……。ち◯ち◯は見せるものだって勘違いしたらどうするつもりだ」
「確かに」
「あぅ!」
「「ん?」」
悠里はおずおずと立ち上がると、玄関まで歩いて行く。何をするのか遠くから見守っていれば、玄関のドアが開いて悠季が学校から帰ってきた。
玄関にやって来ていた悠里を見て、悠季は笑顔を浮かべて、悠里を抱っこする。
「あぁ〜 悠里お出迎えしてくれたの?」
「へへっ」
その場でぽんぽんと背中を叩いて、頬を擦り合わせる。悠里も嫌ではない様子だ。むしろ嬉しそうである。
「良い子にはちゅ〜してあげよっか?」
「あぅ」
「素直な子はお姉ちゃん好きだよ? ちゅっ……」
姉弟の仲睦まじい光景を見ていれば、何だかぽかぽかして温かい気分になってくる。
「そうだ、今日は悠里にとっておきの話があるの。聞きたい?」
「あぅ〜」
「じゃあ、お姉ちゃんの部屋にゴ〜」
洗面所で手を洗った後、悠季は悠里を連れて自室に向かって行った。だが、悠里を連れ去られる形になった由季は何だか寂しそうにしている。
「悠季と由美を産んだ時はこんな気持ちにはならなかったのにな……」
「由美の時は悠季も幼かったからな。って、由美も迎えに行く時間だな。今日は由季が迎えに行く番だけど、変わるか?」
「大丈夫、行ける」
「その声は行けない声だぞ? 今日は一緒に行くか。悠里は悠季が見てくれるし」
その提案に由季は呆れたように微笑む。
「本当、お見通しだよね」
「何年一緒にいると思ってるんだ?」
「いっぱい。ふふっ、ありがと。愛してるよ……今までもこれからも」
「俺も愛してる」
「「んっ……」」
子供ができても、何年経っても俺と由季の一番好きな人は変わらない。けれど、愛情はどんどん膨れ上がっていく。
**** ****
幼稚園に着いた後、由美のクラスであるちゅーりっぷ組の教室の前まで行く。偶然にもこの教室は由季と初めて会った場所でもある。
「あっ、九重さん。こんにちは」
「こんにちは」
「由美ちゃん? お母さん来たよ〜」
由季が幼稚園の先生と話している間に、俺は気付かれないようにドアの隙間から由美を探す。
意外にも由美は直ぐに見つかったが、いる場所がかつての由季と同じ場所にいて笑いそうになった。幼い頃の俺が見ていたら由季とそっくりな外見の由美だから絶対に由季と勘違いしていただろう。
その由美だが、先生に呼ばれても動こうとしなかった。壁を見つめながら何かに夢中になっているようでこちらに気が付いていない様子だ。
「由美?」
由季はかつての自分と同じような状態になっているのでは? と気になり始め、教室に入り由美に近寄っていく。
だが、その心配は杞憂だったようで由美は由季の存在に気付いて壁を指差した。
「あっ、これ……」
「パパとママ、この頃からラブラブなんだね」
「ふふっ、そうみたいだね」
壁を見ながら二人は笑い合っているが俺には全く見えない。俺も見に行こうかと思い始めた時には二人が教室から出てきた。
「あ、パパも来てた」
「中で何してたんだ?」
「それはママに聞いて」
「由季?」
「後で教えてあげる」
「あ、あぁ……」
**** ****
その後、買い物をしてから三人で家に帰ると悠季と悠里が腹を空かせてリビングで待っていた。
そこで由季が悠里に授乳させながら晩御飯を作るという荒技を決行したり、悠季が不要な知識を由美に教え込もうとするのを阻止したりと色々と疲れ果てた。
晩御飯を食べた後は悠季が由美と悠里を連れてお風呂に入ったので、今日は久し振りに由季と二人でお風呂に入ることになった。
「今日も疲れたな」
「うん……」
本日のお母さんモードの由季は使い切り、女としての由季が俺にしなだれ掛かる。そんな由季の腰を抱き寄せて頭をくっ付け合う。
「今考えてること分かる?」
「早くベッドに入って眠りたいか?」
「違う。正解は幸せだなって思ってた」
「えっちしたいじゃなかったんだな」
「それも正解だけど、本当の正解じゃないよ。それでね、昼のことなんだけど」
「あ……それ気になってた」
あの出来事を経てから由季の元気が復活したような気がしたので、気になっていたのだ。
「壁に相合い傘書いたのゆうでしょ?」
「相合い傘? あ……」
書いた覚えがある。無表情以外の表情を見る為には仲良くなる必要があったので、できることはほとんどやった。相合い傘はその一つだ。
「そんなに前から私のこと好きだったの?」
そんな訳はないが、まぁ気になると好きは近い感情だしな……。半分ぐらいだろう。
「好きになりかけてた」
「そっか。じゃあ、その女の子を自分の女にできて嬉しい?」
「嬉しいに決まってるだろ?」
「いやーん」
由季はスリスリと頬を擦り付けて体の全身を密着させてくる。
「大好きだよ、ゆうくん」
「俺も大好きだぞ、由季さんやい」
「これからもずっと一緒にいようね」
「あぁ、頼んだぞ。相棒」
「任された」
「「ふふっ」」
明日も二人でお父さん役とお母さん役をやるのだから、今だけは男と女の関係に戻っても良いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます