第64話 可愛い仮妻と結婚式⑫
現在進行形で襲われ待ちの由季を宥めつつも、何とか目的地である式場に辿り着いた。途中、何度か暴走しそうになった由季にはキスをしてどうにか抑えてもらった。
「良い場所だね」
あちらこちらに咲いている様々な種類の花に出迎えられ、由季は楽しそうにしている。花にはリラックス効果があるので、色々と発散してもらいたいものだ。
……と思っていたが、世の中そう簡単に上手くはいかない。
「花たちは良いよね。風に吹かれただけでおしべの花粉がめしべにくっ付いて受粉するんだから」
「由季さん?」
「私も風に飛ばされてゆうとくっ付いて受精しないかな」
「どんな神業だよ……」
ホテルでえっちなことは良いことだと教え込んだのは失敗だったのかもしれない。何度も迫られると手を出しそうになってしまうからだ。でも、それが由季の目的だから止めようもないが。
だが、教えないとえっちはいけないことだと思い込んで、ずっと溜め込んでいた筈なので結局言ってしまうのだろうが……。
「何か良い方法は……」
と口に出して言った時、閃いた。由季の興味を下のお世話から引き離す方法を。
「えっちな話は置いといて、子供の話をしないか? どんな子に育って欲しいとかさ」
子供が欲しいからえっちなことに興味を持っていると思ったので、そういった提案をする。
「どんな子か〜。ゆうにそっくりな子で甘えん坊が良いなぁ。そうすれば、甘える子供に嫉妬したゆうが積極的に私を求めるようになって……」
そこで由季は何かに気が付いたようにハッとした。
「二人のゆうに迫られちゃうの⁉︎ 耐えられるかな……」
由季の脳内では本物の悠と悠そっくりな子が自分を求めて迫って来る映像が流れ出して、絶賛幸せの真っ只中である。
「俺も迫る前提なのか?」
「私の予想では朝から夜はゆうの子に独占されて、夜から朝はゆうに独占されちゃうの」
「俺の場合は独占するの間違いでは?」
「独占されちゃうの」
「えっと……」
「独占されちゃうの」
「そ、そうか」
俺から求めることはない……いや、ほとんどないと思いたいが、由季の中での俺は独占するらしい。羨ましいとは思っていない、決して。
「ずっと独占されちゃう……。気が休まるところはトイレと寝ている時だけ……」
「凄いハードだな」
「もう、ゆうったら、そんなに求めたって子供しか出ないのに……」
「子供が出てるんだよな……」
見事に子供の話題でトリップした由季は近くに咲いている花弁をツンツンと触る。しかし、運が悪いことにその花弁にミツバチが来ており、刺激してしまった。
そのことに反射的に気が付いた由季は、トリップから抜け出て脱兎の如く逃走を開始した。
「ちょっ、待っ、早っ!」
全速力で逃げて行く由季を呆然と見つめていれば、ミツバチが俺に襲い掛かって来るのが見えたので、避けて由季を追い掛ける。
だが一向に距離が縮まらない。それどころかどんどんと距離が空いていく。小中の頃、意外なことにリレーのアンカーだったことを思い出した。
通り名は無の閃光。無表情が迫って来るとかそんなイメージだった気がする。
そうして俺が懐かしんでいる間に由季は式場のドアを開けて中に逃げ込んだ。
「本当早いな……」
遅れて俺も式場のドアを開けて中に入るが、由季の姿がどこにも見当たらなかった。
「由季?」
「由季ちゃんならこちらで預からせて貰ってるわ」
「ぐっ⁉︎」
気配を全く悟らせずに腹部に鋭い一撃が入ってきた。こんな芸当ができるのは母さん以外いない。
「弱くなったわね。サボり過ぎじゃないかしら?」
「くっ……」
油断していたとは言え、身を捻ることさえ出来なかった。
「ここで足止めを命じられたわ。だから、少しの間だけ、リハビリ兼遊びに付き合って貰うわ」
「冗談だろ?」
「私が冗談なんて言うと思ってる?」
「さぁ……どうだろうか」
母さんが手を握り締める。どうやら、冗談ではないらしい。因みに俺は勝負で母さんに一度も勝ったことがない。物理、口論、その他諸々全てにおいて。
「言っておくけど、私に勝てなかったら、由季ちゃんと夫婦になるのは諦めて貰うわ。だって、女より弱い男なんて恥ずかしいじゃない?」
……なんてことだ。俺は今日ここで母さんに勝たなければいけなくなってしまった。
「それは聞けないな」
「それは私もよ。ゆうちゃんに勝ったら……ふふっ……」
まるで反応が目の前に餌をぶら下げられた獣である。これは負けたかもしれない……。
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