第61話 可愛い仮妻と結◯式⑨
流石に由季をお姫様抱っこして動き回るのは疲れてきたので、由季にマップを調べて貰い、早々に移動することにした。まぁ、一番体力を使ったのは由季とのキスなのだが……。
「……次右に曲がって真っ直ぐ直進」
「はいよ」
「……歩くの遅くなってきたけど変わる?」
「降りるじゃなくて変わると答えるのはどの位の割合なのかね?」
「ほとんどいないね」
そうして歩いている内に由季は神社のホームページを見て、ある部分に興味を惹かれていた。
「神前結婚式かぁ……。確か、
「他にも
「詳しいね。そんなに結婚に興味があったんだね〜」
分かっているのに、まるで分からないとでも言うような演技をする由季。そんな演技をされると、顔を真っ赤にさせたくなってしまう。
「当たり前だろ? 俺の花嫁になるんだから、世界一可愛い格好させるぞ」
「う、うん……」
「でも、どんなに可愛い衣装でも由季の可愛さには劣っちゃうけどな」
「も、もう……」
俺の褒め攻撃に耐えられず、由季は顔を赤くして背中をバシバシと叩いてくる。結構強めに叩かれているので普通に痛い。
「そんなこと言うなら脳殺しちゃうんだから……」
「ずっと悩殺されてるのに?」
「……虜にしてメロメロにしちゃうもん」
「ずっと由季にメロメロだよ」
「うぅぅ〜〜〜〜」
由季に言われたことは既に自覚している。由季が彼女になる前からそうだからだ。それに、見習い夫婦となった今では加速している。
「逆に聞くけど、由季はどうなんだ?」
「……ゆうが格好良いなんて、ずっと前から知ってるもん。私を守ってくれる前から、ゆうにずっとメロメロで悩殺されてるもん……。例え、私が普通に高校生活を送っていたとしても、それは変わらない。原因が変わるだけでゆうに悩殺されてメロメロになっちゃうの……」
「由季……」
「必ず──私はゆうのお嫁さんになっちゃうの。ゆうを愛しちゃうの……」
……いつもそうだ。
俺が何を欲しているのか気付いて与えてくれる。それが、どんなに小さなことでも必ず気付いてくれる。思えば、それは由季が引きこもっていた時からそうだったのかもしれない。
『嫌い』や『うざい』、『信用できない』等、色んなことを言われたが、一度も『来ないで』とは言わなかった。俺を拒絶する言葉は一度も使ってこなかった。
その言葉が一番傷付くと知っていたから。自分が追い詰められていた時でさえ、由季は無意識に俺のことを考えていてくれた。
その時だったのかもしれない。
俺の中にあった親や子に向ける愛情が恋人に向ける男女の関係になりたいという愛情に変わったのは。
「そんな由季だからこそ必ず──俺は由季の夫になる。由季を愛し続ける……」
そうして本殿に着いた俺と由季は願い事をする。
『『どうか、今世(来世)でも一緒にいられますように』』
**** ****
願い事をした後、俺と由季はお腹も空いてきたので『権現からめもち』という場所で食事を取ることにした。店内は混んでいたが、並ぶようなことはなかった。
「すっかり、店の中に入れるようになったな。昨日のレストランもそうだし」
「まだ一人じゃ無理だけど、ゆうがいるからね」
「一人で入る機会なんてあるのか?」
「ない」
検証のしようがなかった。まぁ、由季を一人にさせる訳がないのだが。
「それじゃあ、何食べよっかな〜。あ、決まった! ゆうは俺のうどん赤ってものにして、私はきつねそば。それから持ち帰りできる5食餅」
壁に設置されているメニューを見て、直ぐに由季は食べる物を決めた。しかし、俺の分まで含まれているのは解せない。
「由季さんやい? 勝手にメニューを決めるのはどうかと思いますが?」
「ゆうくんのことはお見通しです〜」
「その理由とは?」
「辛いの好きでしょ? 後は数量限定なのも効いてくる。よって選択肢は絞られるの」
それを聞いて俺もメニューを見る。
「……本当だ。でも、俺のつけめん赤ってものを頼んでいたかもしれないぞ?」
「それもあるかもしれないけど、そろそろゆうくんはうどんを食べたくなってきているの。私が作ってあげた豚汁うどんを思い出して」
「あれか……美味しかったな。でも、こうも考えられなかったか? 由季の作ったうどんだけしか食べたくない」
「もし、それが本当ならうどんに関わらず、私の手料理しか食べなくなっちゃうね。だけど、そんな私に負担を掛けさせることは、ゆうはしない」
「分かってるじゃないか」
「ゆうが私を独占したいように私もゆうを独占したいの。だから、自ずと考えそうなことは分かるよ。……例えば、食べさせ合いっこしたいとか。それで辛いの苦手な私に食べさせて、弱ってる私に優しくするとか」
「エスパーか?」
「違うよ──」
そして、由季は俺の耳元で囁く。
「……少しでも多く求められたい欲張りな、あなたの妻なの」
「っ⁉︎」
「なんてね」
嵌められた……。
そんな思いと同時に俺は由季に飛び掛かりたい衝動を必死に抑えた。
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