第60話 可愛い仮妻と結◯式⑧

前置き


イチャイチャ(大胆なもの)は一旦、こちらで一区切りです。



**** ****



「ゆう……」


「由季……」



 鳥居の下でのキスを終えて再び神社を彷徨う中、俺と由季はお互いの名前を言い合っていた。もし自宅かホテル内だったら構わず同時に飛び付くのだが、生憎ここは外だ。


 これほど憎らしいことはない。



「ゆう……」


「由季……」



 もう一度抱きしめてキスを堪能したい。由季の温もりを腕の中で感じ取りたい。


 触れ合う毎にどんどん欲求が強まっていく。記憶の限りでは手を握ったり、頭を撫でるだけで欲求は満たされていた筈なのに。


 今ではもっと濃密に触れ合いたいと思ってしまう。



「愛してる」


「っ⁉︎」



 不意打ちを受けた由季がぎゅっと俺の腕にしがみ付いてくる。何かに耐えるように悶えた後、静かになった。そして、由季が恨みがましい目をして反撃してくる。


 何か酷いことを言われるのかと思っていれば……。



「ゆう……えっちしたい」


「っ⁉︎」



 一瞬、何を言われたのか理解出来なかったが、言葉がゆっくりと頭の中に入って来るのと同時に耐えられない衝撃が襲ってくる。そして、限界を超えて俺の頭は拒否反応を起こした。


 前に聞いた『えっちしよ?』の提案するものではなく、『えっちしたい』という願望。即ち、俺への宣言。


 そのことに気付いた俺は今すぐにでもこの気持ちを解放して由季に飛び付きたくなった。だが、男としての意地が俺を何とか抑え付けることに成功した。


 深呼吸して乱れた呼吸を整えれば、俺の様子を黙って見届けていた由季が微笑んでいた。それも今まで見てきた中でも上位に入る素晴らしい笑顔だ。やり返してやったと言わんばかりの清々しい顔。思わずキスしてしまいそうだ。



「可愛いよ」


「知ってる」



 自分が可愛いことも知っているので将来は魔性の女に成長するのだろう。しかし、そうなったとしても俺は……。



「違うよ」


「なにが?」


「将来はゆうの女に成長するの」


「っ⁉︎」



 どうやら、由季は俺の内心を読み取るだけでなく、勝利ももぎ取っていくようだ。


 つまり、こういうことだ。



「由季!」



 男としての意地が消し飛び、俺は人目に付かなそうな茂みに由季を連れ込んで反応を待たずにぎゅっと腕の中へ抱き寄せる。そして、腕の中にいる由季の温かさを堪能して顔を綻ばせた。


 ……因みに勝利した由季は犬のように鼻息を荒くして、首元に鼻を擦り付け匂いを堪能し始めた。つまり、由季も我慢の限界だったようだ。



 **** ****



「「ふぅ……」」



 お互いが満足するまで堪能し合うと、そんな気の抜けた声が俺と由季の口から同時に零れ落ちる。



「これからは外でのキスは控えよ?」



 その由季の提案に俺は軽く頷く。あの由季が! と疑問に思うかもしれないが仕方のないことだった。言わば、キスは着火剤だ。想いを薪にして激しく燃え上がる。


 俺と由季の想いは無限にも近いので一度、着火してしまうと鎮火されるまでに多大な時間が掛かるのだ。



「その分、家とかそういう場所ではいっぱいしようね……」


「分かった。でもさっきのキスは何だか真剣じゃなかったというか、もし見られてたらって思って気が散ってたから……」


「それは私もだよ……。だから、今からするのは埋め合わせのキスだよ? 今後一切、言い訳は効かないんだよ? 本当に今回が特別……」


「「んっ……んちゅ……」」



 耐えられないと言わんばかりに俺と由季の唇は繋がる。求められて求める。鳥居は見渡しが良いので少しばかり警戒していたから、完全に由季とのキスに集中出来なかったのだ。


 でも今は人気も無いし見られる心配もない茂みだ。


 思う存分に由季とのキスに集中できる。



「由季……由季……」


「んっ……ゆう……」



 そうして俺と由季のキスは誰からも見られていない安心感からか、ヒートアップしていった。



 **** ****



「はぁ……はぁ……」



 30分本気で由季とキスバトルをしていれば、ぐったりと俺に体を預けてきている由季がいた。大きな爆弾を揉んだり、舌を引っ張ったり、頭を撫でたりと色んな技を駆使すれば、このように由季をへとへとにすることができる。



「俺は満足できたけど、由季はどうだ?」


「幸せ……」


「そうか」



 再び、俺は顔が緩んでいる由季をお姫様抱っこして、茂みから抜け出した。神社を回る前にスキンシップで合計一時間以上は使ってしまった。


 まぁ、家でのスキンシップに比べれば一時間なんてとっても短い方だが。



「さて、真面目に神社でも回るか」


「えへへ……」



 未だ夢見心地な由季を連れて、俺は箱根神社の本殿を目標に歩みを進めた。

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