第57話 可愛い仮妻と◯◯式⑤
「そろそろ立ち直りませんか? 由季さんや」
「無理だもん……。あんなのえっちなんだもん……」
現在、ホテルから出ている神社周辺まで行くバスに乗り、景色を見るのを楽しんでいるのだが、正気に戻った由季が現実逃避を始めていた。
「えっちじゃないって……」
「あ、あんな、襲われてもゆうのことを受け入れるって変態なんだもん……」
「大丈夫だって。それに変態の一面もないと由季も困るぞ?」
「困らないもん……」
「変態にならないと子供は作れないよ?」
「うぐっ……」
変態にはなりたくないが、俺の子供を欲しいと思っている由季にとっては難題な問題である。しかし、この程度で変態だと思っていては可愛いものだ。
「逆に聞くけど、どうしてそこまで変態が嫌なんだ?」
「こ、このままゆうの思惑に流されて、ちょろい女だって思われたら嫌だもん……」
「思惑って……まぁ、俺以外の人がその思惑を実行したら由季は嫌だろ?」
由季は目を瞑って思案するが、直ぐに目を開けて俺に強く抱きついてくる。その目は若干潤んでいた。
「寒気がする……」
「そうか……。まぁ、分かったと思うが俺以外の人にとって、由季は高嶺の花どころか、攻略不可能だからな。ちょろいなんてレベルじゃないよ。それに、由季が思ってる変態も愛情の一種だから気にしなくて良いんだよ」
「……愛情なの?」
「そうだ。好きだからこうして抱きついてる。キスもえっちも愛してるからしたい。その愛情が深まるから一緒に暮らしたり、子が欲しくなる。その動機は全て愛情から来てるだろう?」
「うん……」
「それに変態っていうのは他人の下着の匂いを嗅いだり、使用済みの箸を舐めたり……って、由季さん?」
俺が例え話を言い始めれば、由季は俺から離れて山一面の景色を見始めた。
しばらくすれば、下手な口笛が聞こえてくる。しかし、歌は上手いのに口笛は下手なんだな。
そのギャップに可愛く思うが……これは、アウトだな。
「いつからだ?」
「そんなことしてないもん」
「まだ俺はなにをしたのか言ってないんだが?」
「し、知らない……」
「怒らないから白状して」
すると、由季は小さな声で話し始めた。
「……同棲した初日からゆうが使い終わった箸を隠れて舐めていました。……お母さんの仕業でゆうが風呂に乱入してきた日に濡れたシャツを嗅いでしまいました。……同棲してからはパンツにも手を伸ばしてしまいました……」
「他は?」
「もうないです……」
しゅんとして落ち込んでいる子犬のように見えるが、内に秘めているものは全く別のものだ。
「まぁ、なんだ……怒ったりはしないけど、微笑ましいことでもない」
「うん……」
「だけど、悲しいかな。由季が隠れてそんなことをしてたのが」
「ごめんなさい……」
「良いよ」
そう言って俺はそっぽを向く由季を後ろから抱きしめる。
「だけど、する時は一声掛けて欲しい」
「そんな恥ずかしいこと……」
「全くだ。だから俺も同じことする」
「え?」
予想外のことだったのか由季は驚く。
「俺も由季の下着の匂い嗅げばお互い様だろ?」
「……ゆ、ゆうは私の下着の匂い嗅ぎたいの?」
「由季がしてるように愛しい人の匂いは嗅ぎたくなるんだろ?」
「……うん」
「なら今度、脱ぎたての下着嗅ぎ合うか?」
俺は半端、冗談で口にしたが……。
「……うん。じゃあ、箸も一膳で食べさせ合いっこしようね」
「わ、分かった……」
まさかの許可が出てしまった。
しかし、由季の下着の匂いか……。甘くて美味しそうな匂いなんだろうな……。まぁ……こんな考えが浮かんでくる時点で俺も変態だな……。
そうして、嬉しそうにはにかむ由季とは対照的に俺は内心、落ち込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます