第56話 可愛い仮妻と◯◯式④
子を育む約束を交わした後、俺と由季は外に行く為の準備を進めていた。
「ゆ〜う〜」
「どうした?」
由季が俺の名前を呼んだので反応するが、何か思案する顔で再び俺の名前を呼んだ。
「ゆう〜」
「……」
ただ呼んでいるだけかと思い、返事を返さないでいれば……。
「ゆうちゃん」
「その呼び方は止めて頂きたい」
とても好ましくない人を連想する。
「う〜ん、ゆうくん」
そうして由季は何か納得したのか『ゆうくん』と嬉しそうに連呼し始めた。
「急に呼び方模索してどうしたんだ?」
「気分に合わせて言い方を変えようかなって。通常時はゆうでマウント取ってる時はゆうくん。えっちな気分の時はあなた……」
「……お願いします」
「素直なゆうくんだね。 ん?」
これがマウント取ってる時の呼び方だろうか? 可愛くて馬鹿にされているとは思えない。それどころか顔を横に向けて挑発してくる為、柔らかそうな耳をペロリと舐めたくなってしまう。
でも、舐めてしまえば機嫌を損ねてしまう可能性が高いので我慢する。その代わり、耳元で囁いてやろう。
「……愛してるよ」
「うっ……効かないもん」
本当は効いていると思うが、ここは見逃してやろう。
「それにしても、ゆうくんって久し振りに聞いたけど、なんか良いな。由季さんや」
「私は他人行儀みたいで嫌いだったけど、今ではそんなでもない気がする」
「そりゃ、あの時は幼馴染の関係で言ってみれば赤の他人だったしな」
思えばこの短い間に随分と由季との仲は深まった。幼馴染の関係では満足出来なくて恋人になり、恋人の関係でも満足出来ないからほぼ夫婦の関係になった。それでも足りないものがあるから子を育む約束を交わした。
「そうだね……赤の他人である天海 由季はいつまで存在しているんだろうね?」
「すぐに九重 由季として俺の妻になるよ」
「えへへ、そっか。じゃあ、私が半人前のゆうを一人前にしてあげるからね」
「たった一人前なのか?」
恐らく、一度でも由季と男女の関係になれば色々と収まりが効かなくなる。そのことに気が付いた由季は顔を赤くして恥ずかしそうに呟く。
「えっち……」
「えっちなのは嫌か?」
「嬉しい。逆に聞くけどえっちな彼女は……」
「最高だよ」
愛しい彼女から自分を性交渉の相手だと見られるのは何ともむず痒くて嬉しいものであるからな。
「……そんな素直なゆうには私に着せる服を選ぶ権利を与えます。さて、この二つから……」
「ミニスカ駄目」
候補としては紺のブラウスにレース入りの白のミニスカート、白のブラウスにベージュのロングスカートだったが、外行き用で前者はアウトだ。
「心配性だなぁ」
「ミニスカは部屋着としては認めます」
それを聞いて俺の言わんとしていることが分かったようでクスリと笑った。
「ゆうは私を独占したいんだね」
「当たり前だ。誰が好き好んで他人に見せるか」
「安心して。私もゆうを独占したいから」
「そうしてくれ」
「良いの?」
「昨日のことはもう忘れたのか?」
由季の全てを貰う代わりに俺の全てを由季にあげたのだから、由季が俺のことをどうしようが勝手である。
「じゃあ、早速ゆうが選んだ服を着させて欲しいんだけど?」
「……早まったか」
「ほら、早く着替えさせて?」
「わ、分かった」
「あ、下着から付けたかった?」
今にも手を後ろに回してブラジャーのホックを外そうとする由季の腕を掴んで止める。
「止めて下さい……」
「ふふっ、もしこのまま押し倒して襲ってきても受け入れてあげるからね」
「そこは反撃じゃ?」
「愛しの人と繋がるのに拒否する理由もないでしょ? それとも、襲われたいの?」
「……」
「あなたに教えてあげる。女の子は好きな人が相手だと、どこまでもえっちになれるの」
「は、はい……」
俺はこの時思った。
中途半端に由季を刺激したら本気で襲われると。
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