第55話 可愛い仮妻と◯◯式③

 バイキング朝食を食べ終えた後、由季が定位置に戻るかのように俺の腕に引っ付いた。そのまま客室まで戻ろうとしたところ、由佳さんから『一緒に遊ぼう〜』と甘えた声を出して由季を引き留めたが、全く許していないのか『嫌』と拒絶する言葉を言って拒否した。



「悠君に由季ちゃん取られた……」


「私はゆうのものだもん」


「あなた……」



 うるうると悲しそうな表情をして透さんの胸元に顔を押し付ける由佳さん。一瞬、したり顔を見た気がしたので、透さんに甘える為の演技だろう。


 そんな光景を見送ると俺は由季と共に客室へと戻った。



 **** ****



 客室へ戻ると緊張が解けたのか由季はベッドの上に倒れ伏した。


 その隣のスペースに腰掛け、由季の頭を撫でてやればもぞもぞと動いて、俺の膝に頭を乗せてきた。


 由季はペットのように可愛がることもできるので、こうして愛でることができる。



「気持ちいい……」


「そうか」



 緩みきった表情をしており、今にでも溶けて無くなってしまいそうだ。



「ねぇ、ゆう?」


「なんだ?」


「子供とか本当のところはどうなの?」



 由季なら恥ずかしがって言ってきそうなものだったが、それは真剣な口調によるものだった。こうして体の力を抜いた時に本音が出るものだ。それを由季は確認したかったのだろう。だから、俺は本当のことを口にする。



「由季の子供は本当に欲しいと思ってる。でも、不安も感じてる。由季を嫌いになる確率はゼロだったとしても、子育てにはまだ自信が持てない。幾ら大丈夫だと言っても、年齢で言えば世間的にはまだ高校生だからな……。それに高校生で結婚して子供が出来たとしても離婚する確率は50%以上とか5年以内に離婚する確率は90%だとか俺には……」



 不安を垂れ流していた俺の口を由季は手で押さえ付けて止めると、体当たりして仰向けになった俺の上に馬乗りになる。



「今から言うことは滅多に言わないからね」


「な、何だ?」



 妙に迫力がある由季に気圧され身構えていれば、額に柔らかな感触が伝わった。



「あなたを好きになれて良かった」


「由季……」


「あなたが愛おしくてたまらない……。私はもうこれ以上の恋は体験できない」


「俺も人生最初で最後の恋だよ」


「うん……だから大丈夫。あなた一人なら50%くらい大丈夫なのかもしれないけど、私がパートナーになるんだから100%大丈夫だよ。ちゃんと考えてくれてありがと」



 俺の分の50%と、由季の分の50%を足して100%にした。凄く単純な話で簡単なものであった。



「それに攻略難易度最高クラスの私を攻略したんだから、自信持って良いの」


「そっか……」


「そうなの」



 初めは不思議な存在だった。

 だが、今ではこんなにも俺の心を占領する愛しい存在となっている。それも現在進行形で俺の心を取り込まんとしている。


 だけど、それでも良いかと感じられた。



「由季……恥ずかしいから、今から言うことは滅多に言わないぞ?」


「なに?」


「……俺の子を産んで欲しい」



 その俺のお願いに由季は満面の笑みを浮かべ……



「喜んで」



 引き受けてくれた。

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