第54話 可愛い仮妻と◯◯◯②
俺と由季はキスを終えると、料理を取りに行った。肉料理が多めの俺に対して、由季はバランスの良い食事だ。立派なものである。
それにしても、周辺から新たなカップル誕生とひそひそと小言が聞こえてくるが気のせいだろう。俺と由季はカップルではなく、見習い夫婦なのだから。
そうして、由佳さんの下に戻って当たり前のように料理を食べ始めれば、呆然としている由佳さんの姿が目に入る。この際なので聞いておこう。
「そういえば、あの人たちはどこに行ったか知りませんか?」
「あの人たちね……。それにしても気にしないのね」
「周りのことを気にするぐらいなら、その分を由季に向けた方が良いですからね」
ぽんぽんと由季の頭を撫でてやれば、目を細めて気持ち良さそうにする。
「今の言葉、私も言われてみたい〜」
棒読み風に言いながら、チラチラと由佳さんは透さんの顔を覗き見る。だが、その目線を何とか逸らしながらやり過ごしていた。
その姿を見て由佳さんは溜息を吐いた。
「本当、恥ずかしがり屋ね。まぁ、そこが可愛いのだけれど」
僅かに微笑んだ由佳さんはあの人たちの居場所を話し出した。
「あの人たちなら、朝早くにご飯食べて不気味に笑いながら、ホテルから出て行ったわ」
「また何か企んでるのか……」
旅行中にイタズラか……。それにホテル内にいないということは、外でイタズラ……。だが、イタズラを仕掛けた出先に向かわなければ何の問題にもならない。今日一日、ホテル内で過ごせば余計なイタズラに付き合うことはない。しかし……。
「由季はホテルにいたいよな」
「行ってみたいところはあるよ」
「なっ……」
驚きの声をあげたのは俺ではなく由佳さんだ。自分から外に出ることを言った由季に驚いているのだろう。
「あの由季ちゃんが外に出たがっている……」
「好きで外に行く訳じゃないから」
「それでも、外に行こうとするのは間違いじゃないわ」
由佳さんはとうとうこの日がやってきたのね……的な感動したとでも言うような雰囲気を醸し出すと目に涙を浮かべた。それを何もなかったかの様にさらっと無視した由季は俺に頭を差し出してきた。
どうやら、続きの撫でをご所望らしい。
当然、俺は反射の領域で撫でる。そうすれば、小さな声で由季の本音が聞こえてくる。
「……二つの神社に行ってみたいの」
「二つの?」
「縁結びと、あ、安産成就の……」
「安産成就……」
俺の子を身籠り、お腹の大きくなった由季の姿が脳裏に過ぎる。……なんて幸せな光景なんだ。
しかし、縁結びは見当が付かない。由季とは恋人になったし縁結びは必要ないと思うが……。
そんな俺の疑問には顔を赤く染めた由季がポツリと呟く。
「その……縁結びでゆうとの縁を強固にして、来世でもずっと一緒に暮らせるようにして、 安産成就でゆうの元気な赤ちゃんを産むの……」
「ほぇ……?」
「な、何、その反応?」
いやいや、ちょっと待ってくれ。
由季の中では来世でも俺と付き合って子を育むつもりなのか?
もしそうだったら、今世ではもう産むことは確定しているのか……。
「なんか、本当に愛されてるなって感じがしてな……」
「そ、そんなの、愛してるに決まってるじゃん……」
「そうですか……」
若干、愛が重い気がするが由季が愛してくれるのだ。悪い気はしない。なら、俺はその期待に応えよう。
「でも、来世って言っても同性に生まれるかもしれないし、もしくは逆になるかもしれないな……」
「同性なら同性婚して、逆だったら、ゆうが私の子産んでね」
「そ、そうか……」
俺が由季の子を産む……。いや、今考えるのは止めておこう。何かに目覚めてしまいそうだからな。
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