第50話 可愛い仮妻と混浴④

「す〜ん……す〜ん……」


「それは何の真似だ?」


「どこにも存在しない虫の泣き声」


「そうか……」



 由季がオムライスを食べ終わると、すぐにレストランを後にした。出禁にはなっていないものの注意を受けたからである。


 既に俺と由季は逃げ帰るように客室へと戻って来ている。だが、戻るとすぐに暗くなっている小部屋の隅で由季は丸くなってしまった。その隣の明かりが付いている部屋のベッドの上には俺が横たわっていた。


 光と闇。


 正にそんな言葉が似合いそうである。



「今日はどうしたんだ? いつもの由季らしくなかったよ」


「……あれが本当の私だって言ったら?」


「凄くえろ……じゃなくて……」


「そうだよ、私はえろいもん! ゆうのことになるとすぐに食い付いちゃうえっちな女なんだもん!」


「そ……そうなのか?」


「そこは違うよって言うところだよ!」



 そんなことを暴露されても、どう返したら良いか分からない。でも、今分かることは一つある。



「えっちでもそうじゃなくても由季は由季だ。そのくらいじゃ、いや、何があっても俺は由季のことを愛し続けるよ」


「うっ……もぉぉぉ! そんなこと言うから嬉しくなっちゃうの。キスしちゃうぞ!」


「しよっか」


「うぐっ……」



 全く動じない俺に由季はたじろぐ。


 だが、俺からすれば嬉しいことである。彼女がエロければそれなりの高度な要求……いや、止めておこう。



「とにかく、俺は由季がえろくても気にしない。逆にえろいってことは、その、俺とそういったことがしたいんだろ?」


「……いけないことだけど、そうだよ」


「だから、俺だって嬉しいって思うよ。好きな人に対して劣情とか抱くのは普通だって」


「……抱いて良いの?」


「当たり前だろ? 好きな人と一緒に気持ちよくなりたいって思うのは当然だよ。例えば、好きな人とキスするのは幸せだろ?」


「うん……ゆうとキスするのはぽかぽかして嬉しくなる」



 好きな人とぼかして言っているが、俺の名前を躊躇いもなく、言ってくれることに少し嬉しくなる。



「俺も同じだ。由季とキスすると凄く心地良くなる。えっちだって同じだ。お互いの気持ちを確かめて深め合うことができる。その感情をお互いに持って接すれば子供だってできる……」


「子供……!」



 由季は悠の子供を欲しいとは思っていた。だが、えっちなことはダメだと普通は気付くだろう矛盾を有していた。だが、今の悠の言葉でそれは解かれた。


 えっちはダメなものではなく、子供を作る大事な行為であり、愛を確かめ深め合うことができる一石二鳥の素晴らしい行為であると。


 その認識が変わった由季が何を言い出すか。


 俺は覚悟を決める。


 そして、由季の雰囲気が艶やかなものに変化していくと自爆特攻・強を言い放ってきた。



「えっちしよ?」


「かはっ!」


「あ、あなた⁉︎」


「ぐふっ!」



 その気になった由季からのえっちな誘い攻撃。覚悟はしていたが、想像以上の攻撃力に思わずダメージを負う。そこに追撃を掛けるのが、自然と発せられた由季からのあなた呼び攻撃。演技ではなく自然と放ってくるからこそ最大の威力となった攻撃が俺を貫いた。


 もう体力は0であった。



「あなた、どうしたの……?」



 暗闇の小部屋から出てきた由季がベッドの上で横たわっていた俺の姿を見ると、ニヤリと笑みを溢した。



「子供が欲しい恋人同士だから一緒に気持ち良くなるのは当然よね。あなた……」



 由季は内に秘められている馬鹿力を持ってして、俺を持ち上げると、どこか別の場所へと運び始めた。

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