EX3 可愛い姉妹と3000日後
ある日のリビングでのこと。
ソファーの上で
「由美、聞いてくれますか?」
「どうしたのおねえちゃん?」
これで何度目となるのかと由美は心の底で思った。朧げではあるがずっと前からこの愚痴を聞いている気がする。おかげで他の同年代よりも考える力がかけ離れて高いと自覚している。
「パパとママがラブラブです」
「いつもどおり」
「わたしと由美が見ていないと思うと、平然とイチャイチャします」
「それがどうかしたの?」
「うらやましいです。わたしもイチャイチャしたいです」
「ほほえましいことだとおもうよ?」
「おかしいです。カップルは赤ちゃんを産んだら次第に仲違いしていくはず……」
「わかれちゃうね」
「そうです。その傷を癒したわたしとパパは愛し合うはず……」
「きゅうてんかいだ」
「それどころかパパとママの隙間は離れていくどころか密着していきます」
「なかいいね」
ドンッ!と悠季は柔らかいソファーを勢い良くポスっと叩く。
「パパはママだけの人じゃないのに! 由美にはありませんか? パパとの結婚願望」
「好きだけどそれほどじゃないかな」
由美がそう口にすると驚愕を露わに悠季の表情が驚きに変わっていく。
「嘘……ですよね? パパ以上の男の人はいません」
「しんすいしてるね」
「それとこの間、由美はパパに『癒しだ』って言われていました」
「はなしがきゅうにかわった。でもいってたね」
「ずるいです。わたしもパパに『俺の愛人だ』って言われたいです」
「よめとかこいびとじゃないの?」
「由美に教えてあげます。愛人の方が本妻より愛してくれます」
「そうなんだ」
また一つ、偏った知識が身に付いてしまった。
**** ****
リビングにて悠季が偏った知識を由美に教えている中、由季が寝室から廊下に出てきた。由季が二人に気付くと微笑を浮かべながら二人の下に歩いていく。
「今日は二人とも早いね」
「おねえちゃんにおこされた」
「ダメでしょう? 気持ち良く寝てるんだから……」
「ママが気持ち良く寝ていても、パパがイタズラして起こしたら嬉しく思います」
「それは例外」
「そろそろパパを譲ってくれても良いと思います」
「それはダメ。パパは渡さない」
まさか自身が産んだ娘がライバルになるとは人生何があるのか分からない。だが、悠季を身篭った時からその予感はあった為、戦う準備はできている。
「ママはどうやってパパを手に入れたんですか?」
「どうやったのかな……あの時は何もかもがどうでも良いって思ってたから」
「ということはパパもどうでも良い存在ですか?」
「パパはよく分からない人だったかな。あの時の私は何の興味も持てなかったつまらない人だった。そんなつまらない私に興味を持ったのがパパだった」
懐かしいと思いながらも由季は話を続ける。
「今はこんなでも高校生に上がった頃、虐められて心が折れたの」
「じゃあ、パパが虐めに厳しいのって……」
悠季は現在、幼稚園に通っているが遊び半分で軽く引っ叩かれたりしている場面を悠に見られて、大変な目にあったのを覚えている。
「パパは虐めがトラウマになってるの」
「ママはどうなったの?」
気になったのか由美が話に入ってくる。
「部屋に閉じ籠ってた。何日も何十日もずっと。でも、パパは私に構い続けた。反応を返さなかった日も酷いことを言った日もあった。だけど、諦めずに私のことを最後まで見捨てなかった」
「それでママはパパのことを好きになったんですね」
「えっと、好きは好きだったんだけど、恋愛感情は持ってなくて……」
「え……ママって自分に鈍過ぎです」
「しょ、しょうがないじゃん。他人なんて信用できなかったし、ましてや本気で人を好きになることなんてないと思ってたし……」
「ママかわいい〜」
「もう、由美〜」
由季は照れ隠しで由美の小さな頬を優しく摘んだ。
「それでいつママはパパのことを好きだって自覚したの?」
「えっと、一緒にドラマを見てたことがあったんだけど、それが偶然にもキスシーンが流れて、キスってどんな感触なんだろうって思っちゃって、パパの頬っぺたにキスしてみたくなったの」
「そ、それで?」
「あと少しでキスできると思ったのにパパが振り返っちゃって……」
「ブチューですか」
「ぶ、ブチューです……。それから、パパへの好意に気が付いて勢い余って好きって言っちゃったの……は、恥ずかしい……」
「そ、それでパパの反応は?」
「俺も好きだって、付き合ってくれって、あなたの彼氏にしてくれませんかって……あぅ……」
どうして娘の前でこんな恥ずかしい話を赤裸々にしているのかと由季は思ったが、頭が沸騰して何も考えられていなかった。
「パパかっこいい〜」
「当然です。将来の愛人なので」
「こ、こら。パパはママの人だからね」
「わたし知っています。ママがパパに甘える時、『ゆう……』って可愛い声出して誘っているの」
「にゃぁ……」
「それで初めて赤ちゃん産む作業はいつしたんですか?」
「……旅行の時って……! 悠季はどうしてそんなことまで聞いてくるの〜」
「当然です。パパの赤ちゃん産む為の参考にしようかと」
「絶対ダメだから〜!」
由季は娘に口では勝てないと悟ると、寝室へと逃げ帰って行った。当然その後、悠季が言っていた可愛い声を出して悠を誘い、体の隅々までたくさん可愛がられたのは言うまでもなかった。
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