EX4 可愛い母娘と騒がしい一日

 由季が悠季を幼稚園に預けに行っている間、俺は一人ソファーに深く身を沈め溜息をついた。



「はぁ……」


「パパ、どうしたの?」



 俺の頭を撫でてくれるのは俺と由季の第二子である由美だ。悠季とは違いパパLOVEではない為、一緒にいる時は気が楽で助かっている。



「最近、ママと悠季の好意が激しさを増してきてるような気がしてな……。子供が二人いるみたいだ」


「わたしは?」


「由美はママと悠季みたいにがっついてこないだろ?」


「ほどほどがちょうどいいの」



 そうして由美は俺の頭を撫でるのを止めると、ソファーの上で寛いでいる俺の隣で同じように寛ぎ出した。



「悠季だったら、迷わず俺の上に跨るぞ?」


「おねえちゃんはファザコンだからしかたない」


「どこからそんな言葉を覚えてくるんだか……」


「おねえちゃんがパパのおよめさんになるから、ゆみはファザコンでがまんしてだって」


「どうしてそうなった……。でも、年を取っていけば自ずと好きな人ができて、恋をして、時には失恋もして、色んなことを体験していくんだろうな……」



 俺の言葉に何か疑問に思ったのか、由美は唸り声をだして聞いてくる。



「パパはしつれんはけいけんあるの?」


「無いな。ママとの出会いは運命だった。由美には想像できないと思うが10年くらいはあのママは無表情だったぞ?」


「そんなに?」



 由美は自身の年齢の2倍以上の時間を由季が無表情だったことに驚いた。いや、正確にはあの由季がである。



「ねおきのパパのベッドのにおいをしあわせそうにかいでるママが?」


「そうだ……」


「いちにちいっかい、『ゆうちゃーじ』っていいながらパパのつかいおわったはしとかなめてるママが?」


「そうだよ……」


「ばれないようにかくしもってるパパの『パンツコレクション』をうれしそうにながめてるママが?」


「そう……ちょっと待て、それは知らないな」



 世の中の夫婦は離れることを心配するかもしれないが、俺と由季の場合は全く持って逆だ。近付き過ぎることを心配している。主に俺が。


 そんなことを考えていれば玄関から音が響いてくる。由季が悠季を幼稚園に預けて帰ってきたようだ。


 由季はリビングに入ると、ソファーで寛いでいる俺を確認すれば、嬉しそうに飛び込んでくる……前に俺は止める。



「由季、お座り」


「パパ、何を言って……」


「お座り」


「わん」



 有無を言わせず、お座りを要求すれば実の娘の前でも素直に四つん這いになった。そのままハイハイして俺の正面まで来れば、俺の手を見つけ続ける。


 どうやら、撫でてほしいようだ。だけど、それは良い子・・・だけにするものだ。



「お手」


「わん」


「パンツ」


「わ……」



 ロングスカートのポケットに手を入れて何かを取り出そうとした由季は正気に戻り、何も取らずにポケットから手を出した。



「出しなさい」


「くぅぅん……」



 そんな寂しそうな声を出しても困る。それに何度、俺がその声で見逃してきたか。今日という日は見逃してやらない。



「パンツコレクションも持ってきて」


「それは知らないよ?」



 そのことは覚えがないようでこてんと頭を傾ける。この状況なら俺は見逃していたのかもしれないが、この場には俺以外にもう一人いた。



「ママのしたぎがはいってるひきだしのいちばんしたにかくしてある」


「ゆ、由美? な、何を言って……」



 狼狽えるのを見逃さなかった俺はソファーから立ち上がると寝室へとダッシュする。直ぐに俺は由季の下着が入ってる引き出しを引っ張り出した。


 すると、由季の下着が俺の視界いっぱいに入ってしまう。


 その中には俺を誘惑してくる時に身に付けていた下着が多数、見えてしまいその時のことを思い浮かべて興奮しそうになるが抑えた。


 だが、大きい艶やかなブラジャーが由季の爆弾を脳裏に思い浮かばせる。……だが、それも何とか抑えた。


 ここで俺が破れればいつものパターン体を重ねるに入ってしまう。


 その前に由季の悪事を暴かねば!


 俺が由季の下着を退かして一番下にあるであろう『パンツコレクション』ならぬ物を目指していれば、寝室の鍵が閉まる音が鳴り、横から手が伸びてきて俺の進行を妨げた。


 その正体は由季である。



「抵抗するってことはあるんだな」


「ち、違うの。世の中にはさ、ほら、知らなくて良いことだってあるんだよ?」


「ゆーきー?」


「うぅ……分かった。だから、その、あんまり出さないで……恥ずかしい……」


「あ、いや……」



 気付けば、色とりどりの由季の下着が周囲に散らばっていた。どうも俺は恥ずかしがっている由季には弱い。だが、動揺して動きが止まっている俺を見逃すほど由季はできていない。



「ふぬっ!」


「うおっ!」



 見事に罠に嵌った俺はベッドに突き飛ばされる。直ぐに体勢を戻そうとしたところで由季が馬乗りになった。



「由季、なにを……んんっ……」


「んっ……あなた……」



 とても甘い匂いが俺の思考を鈍らせる。由季の引き出しの一番下を見なければいけないのに、そんなことすらどうでも良くなってくる。



「由季……」


「あなた……」



 今日こそはと決めた決断は由季の毒牙によって壊された。



 **** ****



 一方、リビングに取り残された由美は珍しく誰もいないリビングのソファーでゴロリと寛ぎながら一人呟く。



「パパってじょうだん・・・・・つうじないんだ……」



 しかし、それが冗談か冗談ではないかの判断は当事者である由季本人にしか分からない謎であった。

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