第44話 可愛い仮妻と旅行⑥
休憩も終わり、席替えを行うと再び車は箱根を目指して走り出していた。
昼食は店の中で食べれそうにない為、外にある売店でお高い肉の串焼き、イカ焼き、たこ焼きという大変ボリューミーなものを購入した。
主に由季が俺に食べさせる目的で。
「はい、あ〜ん」
「いや、どう見ても熱そうでしょ」
由季はたこ焼きを食べさせようとしてくるが、上に乗っている鰹節もゆらゆらと揺れているし、直視出来るほどの湯気が立っているのにそのまま食べさせようとしてくる。
この熱い状態で食べたら火傷してしまう。
「熱そうだったね。ふぅふぅ、はい、どうぞ」
今度こそとばかりに由季がたこ焼きをぐっと口元に持って来た。
そんな鰹節が飛ばないような弱い吹き掛けで冷める筈もない。しかし、由季が息を吹き掛けてくれたのだ。
……食べるしかないじゃないか。
うん、仕方ない。断じて由季の……。
「──食べないなら、食べちゃうもん」
「あ……」
「あむっ……ん〜〜!!」
「由季!」
ジタバタと動かれる前にたこ焼きが入った容器を回収すると、直ぐさまお茶の入ったペッドボトルのキャップを外して、手渡した。
「ん〜……ふ〜」
お茶の冷たさで落ち着いたらしい。
相変わらず、色んな反応を見せてくれるから面白い。そんな上の空の姿を俺に見られていると認識すると頬が朱に染まっていく。
「うぅ〜 ゆうも食べる!」
「ま、待て、由季。熱い! たこ焼きを擦り付けないでくれ」
「ほら、イカ焼きも!」
「それは食えそう。あむっ……ん〜〜!!」
熱い! 何でだ! って、これイカ焼きだけじゃない! どうしてたこ焼きも!
俺は涙目で由季を見るが、とても満足気な表情をしていた。
まさか……イカ焼きの後ろにたこ焼きを隠して……。
「はい、冷たいお茶だよ」
先程、手渡したお茶を由季は返してくる。それを素早く受け取ると口に含んで冷やした。
「はぁ……熱かった」
「ゆうが笑うからいけないんだよ」
「そうだな」
「ん……なんで頭……」
「あれ?」
俺は無意識に由季の頭を撫でていた。どうして頭を撫でるのか考えてみると、意外にも早く思い当たった。
「由季って、俺の嫌がることはしなさそうなイメージだったから、やり返してきたのがなんか意外でな」
「嫌だった?」
「嫌じゃないよ。前までは少し遠慮している感じがして距離を感じたからさ。だから、今の由季の方が近くにいる気がして好きだよ」
「そうやって嬉しい言葉をくれるゆうが私は好き……」
「毎日、美味しいご飯作ってくれる由季が好きだ……」
「もう……キスしても良い……?」
「たくさんしような……由季……」
「「んっ……ちゅっ……」」
何度も交わされたキス。けれど、好きな人だから、大切にしたい人だから、そのキスはいつも優しくて濃厚なものになる。
「「好き……んっ……」」
**** ****
「「「「……」」」」」
三列目の後部座席でお高い肉の串焼き、たこ焼き、イカ焼きを放置して二人だけの世界(物理)を作り出した初々しいバカップルに夫婦二組の間では何とも言えない空気が流れていた。
「遂に人目を憚らなくなったわね。由佳? 何かした?」
「な、何のことかな?」
「その反応だと図星ね。この二人は放置してれば良いのよ。どこかの焦ったいカップルとは違って、勢いがあるわ。ついこの間まで幼馴染の関係で満足してたのに、恋を知ると餌を求めて食い付く鯉みたいにくっ付いたわ。
「「「……」」」
流石に今のは滑ったと舞香は思ったので、無かったことにした。
「だから、二人は放っといても大丈夫よ。気が付いたら子供も出来るんじゃないかしら」
それは冗談なのか? と逡巡する由佳と透。だって二人は隠れて聞いていたのだから。
近々、二人が〝あれ〟をするということを。
娘の性事情に介入するつもりはないが、歳で言えばまだ学生だ。結婚も相手である悠が18歳以上ではない為、結婚することは出来ない。
だから、親としては〝あれ〟をするのなら、ちゃんと準備してからやってほしいものである。
「……それに
何やら企んでいる舞香の笑いが不気味に聞こえ、由佳と透の二人はビクつく。
やることを知っているだろう裕人は触らぬ神に祟りなしと言ったように我関せずの構えだ。
そして、話の中心である二人は未だにお互いに夢中になっていた。
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