第42話 可愛い仮妻と旅行④
「うぅぅ……」
「由季? どうした?」
「いやだ……。怖い……」
「由季!」
その場で蹲ろうとした由季を抱き留めると、俺は安心させようと背中を優しく摩る。
だけど、場所が悪い。
先程、俺が反応した時に大きい声を出してしまったから、余計に周囲の注目を浴びてしまった。
だが、そのおかげでイチャついていた由佳さんと透さんがこちらに気が付いた。
最初はニヤけた顔をして眺めていたが、由季の様子を見て冗談ではないと気が付いたのか直ぐに駆け寄ってきた。
「どうしたのよ、由季」
「みんな見てくる……。『可愛い』って、『うざい』って、嫌な目で見つめてくる……」
「これは……悠君! 周囲の目がないところまで行って!」
「は、はい」
いつにも増して真剣な由佳さんの雰囲気に気圧されながら、俺は由季を背負って店の中から外に出た。
そうして、再び人気の無い店の裏側に回り込み、由季を降ろして顔色を伺う。
すると、幾分か落ち着いたようで顔色が戻りつつある。
ホッと息を吐きそうになるが、悲しげな由季の表情が見えてそれは引っ込んだ。
「大丈夫か? 由季?」
「うん……。少しだけ落ち着いた……。ごめんね、ゆう。いつも迷惑掛けてばかりで」
「そんなことは……」
俺は直ぐに反対するような言葉を掛けることが出来なかった。そのせいか、由季はどんどん自暴自棄になっていく。
「やっぱり、向いてないのかな……。ゆうの彼女……」
「由季……」
「頑張るって決めたのに、ゆうにばっかり背負って貰ってる…。いざとなっても、ゆうに頼りっきり。だから、もう……」
「そんな悲しいこと言わないでくれ……」
「ゆう……⁉︎」
俺は絶対に手放したく無いと伝わるように由季の唇を奪う。
荒々しくもちゃんと好きだと由季の心の底に刻み込むように俺は由季を求める。
由季が俺を必要とする様に俺も由季を必要としている。
だから、由季からその言葉を言わせなくはなかった。
「由季は俺と暮らせて楽しいか?」
「うん……楽しいし、幸せだよ」
「俺も由季と暮らせて幸せだ。もっと好きになったし、ずっと一緒にいたいって思ってる。それと、約束もしただろ? ずっと一緒だって……。それに罰ゲームも残ってる。俺から離れるってことは由季の負けになるってことだ。罰ゲームの内容覚えてるよな?」
「……自分も相手も幸せになること」
「そうだ……俺は由季じゃないとダメなんだ……。今までもこれからも由季じゃないと幸せになれないんだよ……」
俺が今思っていることを吐き出すと、由季は涙を流しながら応えてくれた。
「ゆう……ごめんね……。私、怖いの。ゆうに飽きられて捨てられるんじゃないかって」
「由季……」
「分かってる。ゆうがそんなことする筈がないって。だけど、やっぱり怖いの。興味持ったのも好きになったのも初めてのことだったから……」
「そんなの俺だって同じだよ。こんなに由季のこと好きになって。もし、好きじゃなくなって捨てられたらって思うと怖いよ……」
俺も怖がっていたことを由季は知ると、俺の目をまじまじと見つめた。
「……なんだ。ゆうも同じようなこと考えてたんだ……」
「当然だろ? それに言ってたじゃないか。『夫婦はだんだん似てくる』って」
「ふふっ、そうだったね……ゆう」
やっと見せてくれた。俺が大好きな由季の笑っている姿を。
そうして、由季は嬉しそうに俺の首に腕を回して、首元に吸い付いた。
その生暖かい唇の感触にドキマギするが本番はここからだった。
「んっ……ゆうにお願いがあるの」
「ど、どうしたんだ?」
そうして、急に艶かしい雰囲気となった由季は俺との関係を進める為、遂に切り出した。
「私をゆうの女にしてくれませんか?」
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