*格好良い仮夫とツンデレ
ブラジャー騒ぎという名のキスの日から二日後。
由季はとある漫画のキャラに興味を持っていた。よくある広告に目に付いた漫画があったからだ。
それも由季が気になったキャラは所謂、ツンデレキャラ。由季とは真逆のタイプである。
悠一筋、優しくするのは当たり前、酷い言葉は『えっち』しか言えない由季にとってみれば不思議で仕方がないキャラだった。
そこで、由季は近くにいる人物に聞いてみることにした。
「ゆう?」
「なんだ?」
寝転がってスマホを見ている由季の後ろには『胸のマッサージ』と言って、脇から手を差し込み、胸を持ち上げたり下げたりと、まるでダンベル代わりにしている愛しの彼氏の悠がいた。
暇があったら何かと理由を付けて胸を触ってくるようになったえっちな彼氏だ。そんな由季も影響を受けているのか、このような状況でも恥ずかしいと思うことはなくなりつつある。
むしろ、悠が触ってくれていることに喜びを感じていた。段々、悠のエッチなスキンシップに順応しているのだ。
「ツンデレってどう思う?」
「それは突然だな。結論から言えば可もなく非もなくと言った感じだ」
「ふ〜ん」
「そう言う由季はどうなんだ?」
「私は……分からないかな」
「それはどうして?」
分からない点は幾つか上げられるが一番、不思議に思うことは……。
「好きなのにどうして、『あんたのことは何とも思ってないから』とか言っちゃうのかな? 好きなんだから好意を伝えれば良いのに。だから、他の女の子に取られちゃうんだよ」
「おっと、意外と辛辣なコメントだ。そんな由季にもツンツンしてる時期はあったぞ」
「え?」
「あの時は荒れてたなぁ。「来ないで!」とか「うざい!」とか「しつこい!」とか……」
「ごめんなさい。私が悪いです。だから、もう思い出させないで……」
あの時の私は本当にトラウマなのだ。
悠は唯一、優しく接してくれていた人だった。
なのに、信じきれずどうせみんなみたいに私に酷いことをするんだと自暴自棄になって八つ当たりしていたのだから。
だけど、それすらも悠は受け止めて──
「でも、それを耐え切ったから、こうして可愛い彼女とイチャつくことが出来るんだから安い買い物だったよ」
「ふふっ、ゆうはいつもそうやって私が欲しい言葉を与えてくれるね……」
最初は一人だけしかいない世界だった。
だけど、いつの間にか一人だけだった世界に悠が入り込み、一緒にいるのが当たり前になっていた。
悠の前でなら笑えるようになっていた。
だが、複数の悪意によってその世界は壊された。
何もかもが怖くなり、逃げて、隠れて……。
だけど、それを物ともせずに安らぎをくれて、追いかけて、見つけてくれて……。
その悠の優しさに触れて、今まで生きてきた中で何の興味も持てなかった筈なのに、気付けば悠に夢中になっていた。
無色だった世界に悠という色が塗られていく。
こんな気持ちになったのは初めてだった。
味気なかった日常も悠がいるだけで何もかもが新鮮になり、楽しくて幸せだった。
しかし、それだけじゃ物足りなくて、もっと悠と一緒にいたい、色んなことを体験したい。
そう思うようになって自身の恋心を自覚した。
それからはアタックの日々が続いた。
常に引っ付いて、好意を沢山伝えたけど、欲求は減るどころか膨らむばかりで、遂には悠の唇を奪っていた。
だけど、それすらも悠は受け入れて、告白してくれて……。
恋人になってくれた。
「愛してる……ゆう」
「急にどうしたんだよ」
「伝えたくなったから言っただけ」
「そっか。愛してるよ、由季……」
「「んっ……ちゅっ……」」
どうか、この日々がずっと続きますように──
────────────────────
キスを終えた後の二人のお話
「せっかくだからさ、ツンデレキャラ演じてみてよ」
「えぇ……じゃあ、ちょっとだけだよ?」
「それでいい」
「なら、やってみる……」
由季は漫画の中で言っていたツンデレキャラのセリフを口にしてみる。
「ゆうのことなんて、全然これっぽっちも好きじゃないんだからね! むしろ、嫌いよ! フンだ! うぅ……」
「ど、どうした?」
「うぇぇぇぇん……」
「おいおい、どうした?」
見事にツンデレキャラを演じた由季だったが、目元が潤み始め、遂には泣き出してしまった。
「酷いこと言ってごめんね……。私はちゃんと好きだから……。ずっと愛してるから嫌わないで……」
「わ、悪かった。もう言わなくていいから。分かってるから!」
その日以降、悠は二度とツンデレキャラを由季に演じさせるべきではないと、心に誓った。
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