第31話 可愛い仮妻と料理⑥

「ゆう?」


「なんだ?」



 俺と由季はお互いに抱き合いながら、休憩していた。流石に長時間、キスを続けるのは息が持たなかったからだ。



「幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそう……」


「俺もだ……」



 そして、どちらからともなく抱きしめる力を強める。お互いの距離は0であるのにも関わらず、もっともっとと言うように密着する部分を増やしていく。



「……私のこと好きになってくれてありがとね」


「それは俺の言葉だよ。俺のやってたことなんてほぼストーカーみたいなものだったし」


「じゃあ、これからも私のストーカー続けてね?」


「嫌だな。俺は由季と愛を育んでいきたい」


「ゆう……」



 そして軽く唇が触れる程度のキスをした後、由季は上半身を起こした。



「オプションしてあげる」


「そのオプションとは……」


「耳の中をお掃除します。つまり、耳掻きだよ」


「じゃあ、さっきのは……」


「ゆう限定の裏オプションだよ……だけど、もう品切れです。次回の入荷をお待ち下さい」



 由季は胸の前で小さくバッテンを作る。俺はその可愛らしい仕草に頭を撫でて上げてから、再び由季の膝の上に頭を乗っける。



「思ったんだけどさ」


「なに?」



 由季は隅に置いてある綿棒の箱から一本取り出しながら返事をする。



「ダブルベッドなんだね……」



 あえて突っ込まなかったが、気絶する前にいたリビングに俺と由季はいなくて、ダブルベッドとドレッサー、二つのタンスがある部屋にいた。



「う、うん……。これから毎日、ゆうと一緒に寝る寝室……」


「そ、そっか……って、ここまで誰が運んだんだ?」


「お義母さんだよ……ごゆっくりって言うと帰っちゃったけど……」



 母さんの言う通り、本当にごゆっくりしちゃったよ……。



「そうだったんだ……」


「じゃあ始めるね」


「お願いします」



 それから俺は由季の膝枕の感触と耳掻きを楽しんだ。由季は真剣な表情で俺の耳垢と格闘している。こんな状態で変に由季に絡んだら、耳の中を乱暴に突かれると思ったので止めておく。



「気持ち良い……」



 耳掻きは上手い人じゃないと痛くて安心できたもんじゃない。それに比べて由季は優しい手触りで安心できる。だからこそ、何も考えずにこの時間を堪能できる。



「ふぅ〜」



 耳の中に由季の生暖かい息が入り込んでくる。その感覚はむず痒くて、なんとも言い難い気持ち良さ。


 それに何だか眠たくなってきた……。



「……大っきいの発見」



 その大きな耳垢を細かな動きで少しずつ上に運び込んでいく。その際に下に落ちていかないように細心の注意を払う。それに加えて、力まないように慎重に優しく丁寧に。


 この集中力の高さは悠のなでなで攻撃を受けながらも、料理を継続することが出来る応用技だ。その由季の巧みな技で悠の耳垢は除去されていった。


 そして、片方が終わった頃には……。



「ゆう、反対……」


「すぅ〜……」


「気持ち良かったのかな? なんか嬉しい……」



 由季は自分の耳掻きが眠れるほど、安心できるものだと、愛しい彼氏に言われた気がして幸福感に浸る。



「……じゃあ、反対側もお掃除しちゃうね」



 由季は悠を起こさないように体を反転させて、もう片方の耳掻きを始める。


 ダブルベッドの広さがある故の出来る回転技だ。



「♪〜〜」



 愛しい彼氏を膝に乗せ、幸せな気分に浸りながら、由季は耳掻きをする。


 密かに由季がしてみたいと思っていたシチュエーションの一つだ。


 だけど、やっぱり一番は『悠の子を産み、一緒にお昼寝をする』ことだ。


 愛しい彼氏との間に幸せそうに眠る我が子の姿を由季は頭の中に思い浮かべる。



「男の子でも女の子でも、ゆうの子供だから可愛いんだろうな〜……えへへ〜」



 今以上の幸せな未来の光景に由季はトリップするが、手元は一切の狂い無く、耳掻きを遂行した。


 由季は又もや、自覚無く神業を取得したのだった。

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