第28話 可愛い仮妻と料理③

「もう、ゆうったら、フンだ!」


「ごめんごめん、悪かったって」



 不意打ちをもろに受けた由季は恥ずかしさを隠す為にぷんぷんと怒り出してしまった。だけど、気持ちを切り替えたのか直ぐに冷静になる。



「……もう良いよ。『好き』って言って……」


「もう良いの?」


「ゆうに不意打ちされるなら、常に言われるって思っていた方がダメージが少ないことに気付いたの」


「そうか。好きだよ、由季」


「私も好き〜」



 早速、仕掛けてみたが、なるほど……。


 対策してきた訳だ。


 だけど、直ぐに突破? してみたい気もするが急ぐ必要もない。


 これからは由季と……。



「どうしたの?」


「何でもないよ」



 あっぶない……。


 変に意識して気取られてしまうところだった。これからは帰る場所が由季のいる家だということに動揺して。



「ゆう?」


「何だ?」


「さっきまで私怒ってたけど、笑って洗い流せたよ? 少しずつ家族になっているんだね……」


「っ⁉︎」



 先程まで思っていた帰る場所が家族という言葉に結び付いてしまい、俺は反応せざるを得なかった。


 その反応を見逃すほど、由季は優しくはない。



「あぁ〜 ゆうが動揺した! 私の勝ち!」


「これも勝負だったのか……」


「そうだよ。でも、私は6戦中4敗だから残り一回勝ってもゆうには勝てなかったけど」


「……だったら、延長しよう」


「え?」


「期限は一生。勝敗は自分か相手が負けを認めた時。罰ゲームの内容は自分も相手も幸せになること。これでどうだ?」



 例え、勝っても負けても結果は一緒。だけど、勝負にすることで一緒に暮らしていく中の楽しみになればいいなと思ったから、俺は延長を申し込んだ。



「もう、勝てる気がしないよ……」


「……それでどうする?」


「やる……。ゆうに勝って幸せになってもらうし、私を幸せにして貰う」


「決まりだな」


「うん!」



 こうして、人生を賭けた俺と由季の勝負は幕を上げた。



 **** ****



 楽しい時間はあっという間に過ぎて、新しい家となるマンションの一室の前に俺と由季はいた。


 表札には新しさを感じる『九重』という漢字。



「じゃあ、開けるか」


「う、うん」



 俺は鍵穴に鍵を差し込み回そうとしたが、一度引き抜いた。



「どうしたの?」


「……いや、念の為だ」



 俺はインターホンを押した。



「よし、いないな」


「ど、どういうこと?」


「親なら合鍵は持ってる筈だろう? それにこの場所は、俺と由季の家もかなり近い。家の中に潜伏してる可能性がある」



 その俺の言葉に背後から声を掛けられたことで確信に変わった。



「……流石、裕人の息子のだけはあるね」


「お、お父さん⁉︎」


「でも、中までしか警戒していなかったな。外からやって来るのは想定していなかった」


「父さん……。それで、どうしてここに?」



 父親二人は俺と由季が帰って来るのを待っていたようだ。その理由は呆れることしかできないものだったが。



「「逃げてきた……」」



 やっぱり……。



 最初は由季と二人で家に入りたかったけど、所有者は父さんの物であるから、遠慮し辛かった。


 なので、四人で入った。



「ほぉ、意外と広いな」


「少ししたら出てってくれよ?」


「あぁ……」


「あの時知らせたのに、父さんが墓穴を掘ったんだぞ」


「耳が痛いな……」



 そうして、父親二人は俺と由季に告げた。



「悠が出て行った後な、その家が……」


「由季が出て行った後、そのどことは言わないが『揉んで!』と迫って来て……」


「「怖くなった……」」


「「あぁ……」」



 少ない言葉数だったが、俺と由季は父親二人の言葉の意味が分かってしまい、同情する声を漏らしていた。

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