第24話 可愛い彼女とご挨拶⑥
「それで、どうして父さんたちはここに?」
「それより、ゆうはどこに引っ越すの?」
「あ、あぁ、あれな……あれは……」
「あれは……?」
母さんもそうだが、俺は父さんに由季の家に来た理由を聞こうとしたのだが、逆に由季から海外への引っ越し話を質問されてしまった。
今からでも冗談だと言いたいが、勇気を出して一緒に来てくれると決断してくれたから、嘘だと言い辛かった。
だが、考えている間にも俺はこの話に介入してきそうな人物の注意を外してしまった。
「そのことね、それなら私知っているわよ?」
「お、お義母さん、一体、どこの国へ……」
「だけど、国外には行かないわよ?」
「え?」
待て待て、なんで母さんが介入してくる。この人が何かに介入すると碌なことが起きない。そんな事態になってしまうのなら、今からでも冗談だと……。
だがそれは一足遅く、母さんが俺にニヤッとした表情を一瞬、向けてきた。
「悠ちゃんね? 由季ちゃんと
なんて棒読みの発言なんだ!
でも、あれ? 由季さん?
思わず、呼び方が戻ってしまうのも仕方がなかった。
だって──
「そ、そうなんですか⁉︎ ゆうが私と二人きりで暮らしたい……えへへ、もう、ゆうったら、いつまで寝てるの? えへ、えへへ」
手を頬に添えると、ぽっと顔が赤く染まったのだから。
そして、由季は椅子の背もたれを撫で始めた。一体、由季の視界には何が映っているんだ……。
「あら、見事にトリップしたわ」
「なんてことをしてくれたんだ。これじゃあ……」
「益々、冗談だと言えなくなったわね?」
ニマニマ顔の母さんが腹立たしい。だけど、由季と二人暮らしという夢のような体験はしてみたい。だから、強くは言い返せなかった。
まさか、俺に海外に引っ越しという嘘の作戦を決行させようとしたのは全てはこの為か⁉︎
母さんのことだから、『もう立派に育てたから、後の人生はお父さんと二人きりで暮らしたいわ』と笑顔で言われる自信はある。
……いや、確実だ。
未だに、父さんにベタ惚れを続けている母さんだからこそ、それはあり得てくる。
だが、これを挽回する策はこちらだってある。
「俺はまだ、父さんに全てを教えてもらった訳じゃない」
「……そ、そうだな。まだ教え足りないことが山程あるな」
俺はそれとなく、父さんに視線で伝えていた。
『このままだと母さんと二人きりになるぞ』と。
いくら、母さんがずっと一緒にいたくても父さんは違う。適度な息抜きが必要なのだ。
そのことを全く分かっていない母さんは父さんにジト目を向ける。これがどこか別の人が原因なら視線で人を殺していただろう。死因は間違いなくショック死だ。
でも母さんは父さんにベタ惚れしているから、強くは反抗できなかった。
勝った……。
そう俺が確信した時だった。
「……だが、今の世の中ならビデオ通話でも可能だろう。それに二人で暮らしてみるのも良い刺激にもなるだろうし、体験にもなるだろう。勿論、僕が提案するのだから住処は提供しよう。透はそれでも良いか?」
「私は由季が良ければ大丈夫だ。由佳もそう言うだろう。……と言っても、由季は乗り気みたいだね」
あれ? 父さん? 俺の味方じゃなかったのか?
突然の事態に俺は呆然としていると、母さんは俺に今までに見たことのない最高級の笑みを向けてきた。
「頑張ってね? 私はいつでも悠ちゃんの味方だからね?」
どの口が言ってんだ、こら!
悪態を心の中で吐いた後、俺は由季に視線を向ける。
「えへへ……もう、違うって、包丁は猫の手で持つんだよ……」
どうやら、由季は俺に料理を教えているようだった。
その光景を見ていたら、まぁ、良いかと俺は観念の面持ちで由季との二人暮らしを受け入れることにした。
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