第22話 可愛い彼女とご挨拶④

 私は部屋から去って行くゆうの後ろ姿を呆然と見つめていた。


 何もできなかった……。


 悠を抱きしめて引き止めることも、お義母さんを説得することも……。


 あの一瞬、私が『捨てられる訳がありません』と言った時、お義母さんの眉が歪んだ。待っていた答えと違っていたからだ。


 私には何が悪かったのか検討が付かなかった。


 分からない……分からないよ……。


 ゆう……。


 そして、また・・私は気づかない内に自然と助けを求めた。



 **** ****



「どういうことか説明してくれるか?」



 母さんに連れられ、俺はリビングにある椅子で優雅に寛ぎ出した母さんに問いかけた。一応、この家は人様の家であるのに。



「……由季ちゃんは悠ちゃんを本当の意味で好きではないわ」


「は……? 何言って……」



 そう言われた俺は真っ先に反論することができなかった。



「簡単に言えば依存ね。悠ちゃんがいなくなれば、由季ちゃんはまた塞ぎ込んでしまう。勿論、良い子だって分かってる。でもね? いくら良い子でも常に悠ちゃんが側にいられるか分からない」


「それは……」


「『人』って漢字は支え合うようにして出来ているでしょう? でも今の由季ちゃんは誰かに支えられながらでしか生きていけない。それも悠ちゃん限定の」


「勿論、由季ちゃんにも幸せになって欲しい。けれど、やっぱり私は悠ちゃんの親だから、悠ちゃんの幸せが一番大事なの」


「母さん……」



 普段はふざけた態度だったり、人の揚げ足を取るのが好きな母さんなのに、今の母さんは真面目に親の役割をしていた。



「それは戦いでも言えるの。ただ強くてもそれを活かす機転や考えがなければ意味がないの。それを教えてくれたのがあなたのお父さんよ」


「父さんが……」


「だから、私からは女を教えたわ」


「……最後ので台無しだよ。それに教えたんじゃなくて奪ったんだろ」


「そうね、最初は彼の人生に私のことを片隅にでも覚えていて欲しいって思っていたのだけれど、気付いたら欲張って彼を手に入れていたわ。ふふ、可愛い息子も産めたし私は幸せよ」


「急に惚気たよ……」



 本当、母さんはどんな状況でも変わらない母さんだった。だから、俺は少し安心できた。



 **** ****



 それから俺は今後、どういったように動けばいいのか母さんから聞いた。それを聞いた時は心の痛みでズタボロにされた。


 でもこれは由季が立ち直る為の試練だ。俺が根を上げちゃいけないし、由季に気取られてもいけない。


 だから、俺は練習する。演技臭くないように言うんだ。


 でも、心が痛い……。こんなに辛い嘘を吐いてしまったら、俺は泣いてしまうのかもしれない。だけど、その際は演技っぽくならないから良いのかもしれないが。


 はぁ……言いたくない。



「俺、海外に引っ越しすることになったんだ……だから、俺は由季と……グスッ」


「何泣いてんのよ。これ練習よ?」


「嫌なんだよ……。母さんだって父さんが夜逃げとかしたら嫌だろ?」


「嫌じゃないわよ?」


「どうしてだ?」


「そんなの……」



 その時、俺は産まれて初めて母さんの本当の姿を見た気がした。



「国外でも世界の裏側でも追いかけるわ。そして、自宅に連れ帰って枯れるまでえっちするわ……」


「……」



 俺は怖くなって何も言えなくなった。そして、父さんを一人の男として尊敬した。

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