第21話 可愛い彼女とご挨拶③
由季のご家族と朝食を食べ終えた俺は由季の部屋でのんびりとしていた。家に帰るのは夕方頃で良いかと思ったからだ。
そして今現在は、由季が甘えに甘えまくってくるという幸せな状況に陥っていた。やっと二人きりになれたというのも効いているのだろう。
俺の膝を枕にして由季はスリスリしている。
「格好良かったよ、ゆう」
「そうか?」
「うん。『逃がさない』って言われてキュンってしちゃった」
「惚れ直した?」
「元々、惚れてます〜 だからね、もっと好きになっちゃった」
「なっちゃったか」
「なっちゃったの! ……ちゅ!」
由季に不意打ち気味に唇を奪われた。ちょこんと唇を触れ合わせるだけのキスだったけど、幸福感でいっぱいになる。
「好きだよ、由季」
「私も好き。ゆうが大好き!」
言葉で通じ合えるのは良いな……。由季の口から直接、『好き』だと言われるのは何ごとにも代え難いものがある。
「これからもよろしくな」
「こちらこそ、今後とも末長くよろしくお願いします」
由季が礼儀正しく座礼してきたので、俺もそれに倣うように座礼した。
「喧嘩することもあると思うけど、笑い流せるような家族になれるといいね」
「家族か……」
最初は無表情以外の表情を見たいと思っていただけだった。だけど、構っていく内に彼女のことをもっと知りたい、触れ合いたいと思うようになっていった。
そして今は──彼女が欲しい。
笑っている表情も怒っている表情も拗ねている表情も全て独り占めしたい。
それぐらい、由季の存在は俺の中で大きくなっている。
「由季が欲しい……」
「待ってるから……だから、早く貰いに来てね?」
「あぁ、由季が手に入るならなんだって……」
そこで俺は視線を感じ取ったので、言葉を切る。俺の直感は当たっていたようでドアの隙間から由佳さんが覗き見していた。
「今度は何の話ですか?」
「ゆう? ……お、お母さん! 何で見てるの!」
遅れて気付いた由季は俺からすぐに距離を取った。
「あら、良いのよ? 悠君と引っ付いていても。恋人同士なのだからそれぐらい普通よ?」
「変な知識教えないで下さい。それで用件は何でしょうか?」
「用があるのは私じゃないの」
「じゃあ、誰が……母さんか」
俺が呆れたように言うと、ひょっこりと母さんが現れた。早速、ニマニマ顔のお出ましだ。今度は何を弄られるんだか……。
「おめでとう〜 聞いたわよ? 由佳から全部」
「そうか……」
「流石、私の子ね。それと……」
母さんが由季に視線を向けるとビクッと震えて俺の背中に隠れた。そう言えば、由季は母さんと会ったのずっと前だったか。
「会うのは幼稚園以来だったかしら? こんにちは、悠ちゃんの母です」
母さんがそう告げると俺の隣に移動した由季が頭を下げた。
「お、お義母さん! こ、こんにちは。ゆうの彼女の天海 由季と申します。将来、ゆうのお嫁さんになります。よろしくお願いします」
「はい、よろしく。悠ちゃんのこと頼んだわね」
「勿論です。……反対とかはしないんですか?」
「しないわよ。でも、捨てたらどうなるか分かってるわよね?」
怖っ!
若干、目元がヒクヒクしているのが怖過ぎる。その視線を浴びた由季はビクつきながらも両手をギュッと握って母さんに視線を返す。
「捨てません。捨てられる訳がありません。ゆうは私にとっての……」
「──やっぱりダメね」
「え……?」
母さんの口から信じられない言葉が告げられた。
「行きましょう、悠ちゃん」
「母さん、どうして……」
「来なさい」
その瞳は有無を言わせないものだった。こうなった母さんは何を言おうとも聞く耳を持たない。でも、こうするのは必ず俺に利があるものでもあった。
「分かった……」
俺が立ち上がって部屋を出ようとすると。
「ゆう……」
悲しそうで辛そうで弱々しい声が俺を呼び止める。それを受けた俺は身を引き裂かれそうな思いで立ち去った。
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