第11話 可愛い幼馴染とお泊まり会③

 もぞもぞ、もぞもぞと体の上を何かが這いずっている感触がする。



「──くん……好き……」



 何が好きなのだろうか?


 そう思っている内に再びもぞもぞ、もぞもぞと体を這いずり回る感触に襲われる。そして、額に湿った柔らかな感触が押し付けられる。



「大好きぃ……」


「っ⁉︎」



 瞬時に意識が覚醒する。そうして俺が瞼を開くと、そこには顔全体を真っ赤に上気させた由季さんの顔があった。由季さんの瞳はとろんとしており、正常な判断が出来ていないように見える。


 ぺたぺたと俺の顔を触り、頬を擦り付けてニヤリと微笑み、ゆっくりと口を開いた。



「ごめんね、ゆうくん。もう我慢、出来ない……」



 由季さんの唇が俺とキスしようと迫ってくる。その光景を俺は黙って見つめて──



 **** ****



「晩御飯ですよ〜〜ゆうくん〜〜」


「うわぁ!」



 突然の間近からの声に俺はびっくりして、ソファーから転げ落ちた。その痛みに先程の光景は夢であったと認識した。


 因みに何がとは言わないが、あとちょっとだったとは微塵に思ってもいない。



「痛ってて……」


「大丈夫?」


「な、なんともないよ」


「そう? じゃあ、一緒にご飯食べよ? 今日はゆうくんの為に頑張ったよ。お口に合うといいなぁ〜」


「あ、あぁ」



 俺は気恥ずかしさと幸せな感情に浸りながらも由季さんと食事を共にした。勿論、味噌汁以外の料理も俺好みで、着々と胃袋を摑まされにきている。



 食後は由季さんからブラックコーヒーを頂いて、先程までハグしていたソファーに座って寛ぐ。


 テレビは最近人気だと言われているドラマを映しているが、全く内容が頭に入ってこない。

 映像を見ていると話が佳境になってきていると思われるが、そんなこと今の俺には些細なことでしかない。

 現在の俺の状況の方が佳境とも言える。


「……由季さんやい」


「ん〜?」


「そろそろ──」


「やっ」



 むぎゅーっと俺の左腕を抱いて、離さないと視線で抗議してくる。まだ俺は何も言ってないのに……。


 仕方なく俺は理性を犠牲にして、二つの大きな膨らみが挟んでくる左腕の感覚を遮断する。一体、俺の左半身にどんな執着を持っているんだか……。


 そこで俺は気を紛らわせる為、気になっていたことを質問した。



「そういえば由季さんって、いつから料理できるようになったの?」


「つい最近だよ? 知識だけは無駄に身に付いてたの。閉じ篭もってる間は特に何もすることがなかったから……」


「えっと、やっぱり聞いちゃいけなかった話?」


「そんなことないよ。ゆうくんには知っておいて欲しい。それに、学んで身に付いた知識は無駄じゃなくなったから」



 そう言って由季さんは俺を見て微笑む。



「ゆうくんの為に役立っているなら、あの時間も無駄じゃなかった。ゆうくんのおかげで報われたの。何か言うとしてもありがとうだよ」



 俺は由季さんの笑顔を見て、あの時の行動は間違えじゃなかったのだと実感した。それに諦めなくて良かったとも。



「そうか……」


「そうだよ。だからありがとう〜ゆうくん〜」


「どういたしまして〜」


「「……ぷふっ」」



 二人して同時に笑ったが「あぁ〜笑ったなぁ〜」と自分のことを棚に上げて、由季さんは楽しそうに微笑んだ。

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