第10話 可愛い幼馴染とお泊まり会②

 由季さんと約束を交わした『毎日、お前の味噌汁が飲みたい』二日目のメニュー、油揚げとわかめの味噌汁はソファーから椅子に移動してから頂いた。



「……」


「お、美味しい?」



 不味くても由季さんの料理なら美味しいと言ってしまうような気もするが、ここは素直に言っておく。



「うん。優しい味がする。豚汁うどんの時よりも美味しく感じるよ」


「よ、良かったぁ。実はね? 色々と調べてみたの。味噌汁って意外と奥が深くて火加減とか具材を入れるタイミングとかで決まってて──」



 楽しそうに味噌汁の話をしてくる由季さんの姿を見ていると微笑ましく感じる。それと同時に俺のことを思って調べてくれたことに益々、由季さんを『心の底から欲しい』と思ってしまうし、『好き』だとも思ってしまう。だが、俺はその気持ちに蓋をして、由季さんの頭を撫でる。



「ありがとな」


「えへへ、どう致しまして。それで、これから何する? 今日は家に誰もいないからリビングでのんびりと過ごせるね。味噌汁食べたばかりだけど、ゆうくんの料理の練習でもいいし、ゆったりテレビでも見てもいいし──」



 由季さんは俺と話しをするだけで幸せなオーラを放っている。まるでしっぽをぶんぶんと振っている子犬のようだ。だが時折、



「──なんなら、いつも通りゆうくんのお勉強でもいいよ。計算問題が苦手なゆうくんは私に解き方をいっぱい教えて貰わないといけないね。いっぱいハグできるから私も嬉し……うぅぅ〜〜〜〜」



 自爆していく。その様子は見ていて飽きないし、面白く思う。だけど、今の俺に耐えられるものではなかった。



「ごめん、由季さん……」


「え、いきなりにゃ……!」



 俺は無意識に由季さんを抱き寄せてハグしていた。自分からするのは初めてだ。だけど、気持ちが溢れて止められなかった。


 空になっていた汁椀がテーブルから落ちて、フローリングの床を転がっていく。だが、それを拾おうとする者はこの場には誰もいない。



「しばらくこうしていたい……」


「うん……私もゆうくんと……」



 それから俺と由季さんは椅子から立ち上がると、再びソファーに向かい倒れ込みながら抱き合う。


 俺は由季さんの背中に手を回して力強く抱きしめる。女の子特有の柔らかさと甘い香りが五感を刺激して意識が朦朧としてくる。


 顔を上げると由季さんは俺の胸元に顔を埋めてひょっこりとこちらを見つめていた。


『幸福』


 その言葉が真っ先に思い浮かんでくる。大好きな人が俺を大好きでいてくれる。片想いでは得られない充実感が心身に染み込んでいく。『好き』という想いが止めどなく溢れてくる。


 お互いの心臓はドキドキと破裂しそうな勢いで高鳴っていく。

 だけど、それは二人には関係なかった。お互いを昂らせものにしかならない。



「ゆうくんの鼓動また速くなった……」


「由季さんのも速いよ……」


「うん……いっぱいドキドキしてる……」



 溢れてくる感情が抑えきれない。こんなことは初めてだった。それに今日は二回も初めてを体験した。


 由季蝉を捕まえた。

 自分から初めて由季さんにハグをした。


 俺は心の中で密かに思う。


『もっと由季さんとの初めてが欲しい』、『もっと由季さんとの想い出が欲しい』と。


 だからだろうか。


 俺は改めて決意する。


 何も心配するものが無くなった時。


 その時は──


 由季さんにプロポーズすると。


 だから──


 今のこの時間だけは由季さんを独り占めしたい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る