第7話 父さんと知りたくなかった事実
「あ、悠ちゃん? 今日は由季ちゃんの家にお泊まりしてね?」
「え?」
俺がいつものように由季さんのお宅に向かおうと玄関に向かった時、母さんからその様な御達しがリビングの方から聞こえてきた。仕方なく、リビングに向かうとソファーで寛ぐ母さんの姿があった。
「どうして?」
「由佳から連絡が来たのよ。『久し振りに、透君とイチャイチャデートしたいので、由季のお守りをお願いします』ってね」
「由佳さんがそんなことを?」
「そんなことって、悠ちゃん? 女の子はいくつになっても好きな男の子とはイチャイチャしたいものよ?」
「母さんも……いや、聞く必要ないか」
「ちょっと、どういう意味よ」
「何でもない。とりあえず分かった。荷物準備してくるよ」
平静を装いつつ、一度泊まりの準備をする為に自室に戻ってきた。その時、父さんの声が廊下から聞こえてきた。
「悠、ちょっといいかな?」
「いいけど」
そう返事をすると父さんは部屋に入ってくるとベッドの端に座る。
「……充分に気を付けてくれ」
「な、何が?」
あの根暗な父さんが震えていた。これは異常だ。人を陰から操って笑っている父さんがだ。
「既成事実だけは勘弁してくれ……」
「どういう意味だよ!」
「いいか? 女ってのは怖い生き物だ。同じ人間だと思うな。直感で動いてくる者ほど、怖い者はいない」
「?」
「ある男の話をしよう。そいつは人を操るのが大好きだ」
父さんじゃん。
「だが、ある日のことだ。物理で何でもかんでも解決しようとする暴力女が現れた」
母さんじゃん。
「不思議なことに男はその暴力女と手を組むことになった。代々、上級生が受け継いできたイジメシステムをぶち壊す為に」
ファンタジーか?
「男は上級生を一人一人、陰から誘き出して、暴力女がそれをボコしていく。とても簡単な作業だ。勿論、復讐とか出来ないようにたっぷりと恐怖を植え付けてね。それから学校は平和になった。笑顔が増え、イジメは無くなり穏やかな空気が流れた」
なんかいい話だ。
「でも、それで終わりではなかった。暴力女は何をトチ狂ったのか、その男を好きになったのだ。そして無理矢理、身ぐるみを剥がされ写真を撮られた。勿論、彼女は裸だ。これがどういう意味か分かるか?」
……。
「男はその写真で脅された。もし、流出すれば男が暴力女を襲ったと言い回され、権威や名声が地に落ちる。男に残された道はただ一つ。暴力女の恋人になる。その一択に。
これフィクションだよな?
「男は苦しんだ。嘆いた。だが現実だった。そして、男も何をトチ狂ったのか暴力女を好きになろうと努力を始めた。しかし、そんなものは関係なかった。意外にも料理が上手くて、綺麗好きで、家庭的な女性だった。男はその彼女のギャップに恋に落ちた」
「それから男は幸せな日常を送っている。でもそれは、彼女が魅力的な女性だったからだ。つまり、何が言いたいのかと言うと……既成事実だけは気を付けろ。以上だ」
それだけ言うと父さんは部屋を出て行った。結局俺はよく分からない惚気話と知りたくなかった両親の出会いを聞かされただけだった。
**** ****
悠の父、
「私は魅力的な女性?」
その一言から悠との会話を盗み聞きされていたことを裕人は察した。
「最低最悪の性悪暴力女だ」
「あら、予想外」
「思い出したら腹が立ってきた。絶対に屈服させてやる」
「良いわよ? 由佳のイチャイチャデートをする話を聞かされて私も我慢していたの。ベッドの上でなら屈服させられても構わないわ」
「……やっぱり嫌いだ」
「私はその性根が腐ってるところが大好きよ。……悠ちゃんが出掛けたら、私達もデートしましょ?」
「好きにしろ……」
「あなたのそういうところ、愛しているわ……」
「お前のそういうところは嫌いじゃない……」
二人の間では独特の雰囲気が醸し出されていた。
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