*お母さんとお泊まり会

 先日、ある事件が天海 由季の身に襲い掛かった。


 それは天海 由季の中でこう名付けられている。


 ──ゆう中毒事件と。


 犯行内容は幼馴染であり、想い人でもある九重 悠が天海 由季に対して好意のマシンガンと爆撃を仕掛け、快楽の果てまで吹っ飛ばそうとした事件である。


 被害者である天海 由季さんはこう主張している。



「あと少しでゆうくんの虜になるところだった……。って、何言ってるのかな、私……」



 改めて、被害者こと天海 由季はベットの上で身悶えていた。少しでも油断すると脳裏にある言葉が浮かんでくる。



『好き』


『世界で一番好き』


『世界で一番可愛い』


『心の底から欲しい』


『愛してる』……。



 もおぉぉぉぉぉぉぉ! どうしてあんなこと言ってくるかな! そんな事言われたら私……。



「えへへ、ゆうくんが可愛いだって、好きだって。私もゆうくん好きだもんね。両想いだもんね。嬉しいなぁ〜 えへへへへ」



 は! これじゃダメだ! ゆうくんにこう言ってやらなきゃ!


 ゆうくんのバカ!

 好意の垂れ流し!

 おたんこなす!



「……そんなこと言えないもん。ゆうくんに酷いことなんてできないもん。うぅぅぅぅぅ〜〜」



 先程からこれの繰り返しである。確かに由季は悠が好きだ。それは覆らない法則である。この気持ちは決して揺れ動くモノではない。なにせ約10年という長い年月を経て生み出された気持ちなのだから。そこらにいるカップルとは熟成年数が違うし、愛の深さも違うのだ。



「でも、ゆうくんの方が私のこと好きだった……」



 普段はその真の姿を見せないが、本気になったら由季の好意如き、小指で弾き飛ばせるレベルだ。それが何よりも悔しかったし嬉しかった。



「もっと好きになっちゃうもん! ゆうくんの好意なんて骨抜きにしてやる! 私の方がゆうくんのこと好きなんだから!」


「その通りよ!」


「っ!! お母さん、い、いつから?」


「今はそんなことどうでもいいの。それより、私の娘なのだから愛の深さで好きな人に負けちゃダメよ。一点集中で攻めるの! 相手に隙なんて見せちゃダメよ! 見本を見せてあげる」



 そう言った由佳は夫のとおるを連れて戻ってきた。休日の昼間から一体、何をするのだろうか。



「母さん? 何だか凄く嫌な予感がするのだが? 由季の部屋に連れてきて一体……」


「あなた」


「な、何だい?」


「……いつもありがとう。あなたが精一杯、働いてくれるから私達は裕福な暮らしが出来ているわ。あなたと付き合えて、あなたの妻になれて私は誇りに思うわ。──愛しています、透君」


「「な……」」



 由季は幻視した。あの穏やかな母が一振りの小太刀を隠し持って、一思いに首を掻っ攫う姿を。


 透は涙して思い出していた。高校生の時にプロポーズした際に見せた幸せそうにする由佳の姿を。



「母さん……いや、由佳。今日は久し振りにデートしないか?」


「そうね。私も久し振りに透君とデートしたい。……そういう事だから、由季? 今日は悠君を呼んでお泊まり会でもしなさい」


「え! いきなりそんな……」


「大丈夫よ。向こうの両親には伝えておくから」


「そういうことじゃなくて……!」


「それじゃ、頑張って!」



 由佳は楽しそうに透は何とも言い難い表情をして由季の部屋から去って行った。

 そうして一人になった由季は突如飛来してきた、悠とのお泊まり会に身体中が熱くなるのを感じる。



「ゆうくんとお泊り会……。い、一応、ね、念の為に綺麗にしとかないと!」



 由季は両親がデートに出かけた後、念入りに身体を綺麗にするべく浴室に向かった。当然、勝負下着も持って。

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