Scene15 -3-

 巨体に似合わない速度で加速していくクライシス=ストライカーが向かうのは、A国の機動兵器たちが戦うラーグの居る地。


「セガロイドを視認。距離三百メートル地点に着陸する」


 突如上空に現れた見慣れない機動兵器にA国軍も動揺を隠せない。識別コードも一致せず、新たなイミットかと隊員たちが肝を冷やしたとき、作戦責任者であるマーキス=ジョーンズ大佐が後退の指示を出した。


 A国機動兵器のパイロットはホッとしつつもすぐさまセガロイドから距離を取る。後退する機動兵器ライノを追おうとするラーグだったが高エネルギーのビームが行く手を阻み、その足を止めた。


 目に入るモノをただ破壊する。そんな単純明快な思考で力を振るっているラーグの目がクライシス=ストライカーを捉えた。わずかな間も開けずにラーグはストライカーに向かっていく。


「セガロイドがこちらを補足したようだ。迎撃に移る」


 ガイファルドすら苦戦するセガロイドを相手に冷静に対応するパイロットの名前はターナー=ルイス。元陸軍の三十三歳。数々の訓練と試験を乗り越えてストライカーのパイロットになったつわものだ。短い期間ではあるがストライカーでの訓練でその性能を実感し、自信を持ってこの戦いに臨んでいる。


 クライシス=ストライカーは世界軍事同盟が配備する機動兵器同様に大半がAIによって制御されている。少し違うのはパイロットの人格コピーによって作られたAIのため、より滑らかに、より正確にパイロットのサポートをおこなうことができる。簡易的な動作と命令によってストライカーは右腕をラーグに向けた。


「さぁここからが本当の人類の反撃だ!」


 ヘルメットとコックピットモニターの照準が同期した瞬間に右前腕を囲うように取り付けられた四つの砲身から強力なビームが発射された。


 ラーグはゴルンに比べて敏捷性が低い。その上、力任せの直線的な戦い方をするため、そのビームを避けるつもりもなかった。そのラーグにストライカーのビームが直撃して激しい光が弾ける。


 ビームの熱によって空気が膨張した音と閃光が終息するとラーグは後ろにひっくり返りそうになるのをなんとかこらえている状態だった。


 逆にビームを撃ったストライカーは背部と脚部のスラスターによってラーグに急接近。ガイファルドには及ばない速度だが、その重量に任せた左の拳が突進の速度に乗って振るわれる。その攻撃に対してラーグは両腕を前にブロックするのだが、そんなブロックを物ともせずに、ラーグを討ち飛ばした。


「No way! 」


 そう叫んだのは数十秒のタイムラグでその映像を観ているルークだった。その横でアクトも「うっそだろー」とつぶやく。


 レオンとノエルの攻撃に耐えたセガロイドをブロックする腕の上からとは言えセガロイドをぶっ飛ばしたことにガーディアンズ一同はさすがに驚いていた。


 ハッキングした映像からではデータは取れない。わかるのは巨漢のセガロイドよりももうひと回りくらい大きな機動兵器であることと、おそらくA国製であるだろうという予想だけだった。


 倒れはしなかったがラーグは足をバタつかせてバランスを取る。そして、戸惑う様子もなくストライカーに向かって再び走り出した。


「打ち合いがお望みか?」


 ターナー=ルイスはストライカーに拳を握らせた。そのマニュピレーターにはメリケンサックのような凹凸おうとつのカバーが被さる。


 ラーグの拳がストライカーの胸部へ打ち込まれると『ぐおぉぉぉぉん』という衝撃音が鳴るのだが、拳は胸部には接触していない。少し間を置いて拳が接触したときにはその勢いはほとんどなくなっていた。


「ヌゥゥゥゥ」


 そういった唸りを発するラーグの頭部にストライカーの右フックが炸裂。反対にラーグはその衝撃によって飛ばされ、今度こそその背を大地に付けた。


 そのラーグに向かって脚部のコンテナからミサイルが発射され追い打ちをかける。モクモクと上がる黒煙に向かってストライカーは腰を落とし背中に折りたたまれていた砲塔を前方に展開した。


「会って間もないがお別れだ。だがお前の仲間もすぐにあとを追わせてやる」


 ルイスの指がトリガーを引くとガイファルドのバリアブルガンが放つフルバーストとは違うエネルギー波がラーグに放たれた。大地をえぐり溶かすエネルギー波は3秒程度で止まるとコックピットのモニターにはビーム兵器に使うエネルギー残量が0近くまで下がっていることを知らせるアラートと表示されているた。核融合炉が生み出すエネルギーを一気に放出するほどの攻撃を受けた古代の巨大人型兵器ラーグはというと、溶けた地面に埋まりながらも原型をとどめていた。


「頑丈な野郎だ」


 とは言え装甲の融解はあり、ダメージは見受けられる。


「可動効率六十八パーセント。トドメを刺してやる」


「グググググゴゴゴアァァァ」


 唸りから叫びに変えて立ち上がろうとするラーグに向かって再び右腕の四つの砲門を構える。エネルギーの集束に少し時間が掛かっているストライカーに上空から炎弾えんだんが降り注いだ。


 その炎弾はストライカーに届く前に弾けてしまうが、衝撃が機体揺らし、足場を崩した。


 ストライカーを攻撃したのは鳥型の機械獣ストレニックスだった。


 あるじの危機に飛び込んで来たのではなく、ヴィーショッグからの電信を受けてラーグを回収するために降りて来たのだった。


 ストレニックスはラーグの両肩を掴むと勢いよく上昇していく。


「(なにをする、離せ!)」


 上空で待機するようにと命令されていたストレニックスが自分を引き上げたことに少々驚くラーグだったが、その耳にヴィーショッグから電信が届きおとなしくなった。


 ストレニックスの行動はヴィーショッグの命令を受けてのものだが、本来は上位であるラーグの命令の方が優先される。しかし、危機的状況と判断し命令が上書きされたことでこの行動に至った。


「(馬鹿な真似を。ラーグ、暴れたい気持ちはわかるけど、本来の力が出せないのではスッキリしないでしょ? せっかくゴルンが治してくれたのにまた動けない状態で休眠ですよ)」


 そう言われてラーグは「(ヌゥゥゥゥゥン)」と唸った。


 ストライカーの飛行速度ではストレニックスには追い付けないためルイスは空を見上げて舌打ちする。


「仕方ねぇ。だが次は必ず仕留めてやる」


 ガイファルドが苦戦するセガロイドを撃退した謎のメカに世界は震撼しんかんした。それはガイファルド二体をKOした新たなセガロイドが相手だったために強さの比較として明確だったこともあり、人々の認識する強さランキングが変動したことで、良い意味でも悪い意味でも盛り上がった。


 数時間後にその機体がA国関連であるとわかった世界軍事同盟軍はその性能におののきつつ、その情報共有を要求するのだが、A国はそれを拒否。正確には拒否というよりもその機体を管理する組織がA国との繋がりを拒否した。これは元々そういう筋書としてA国が用意していたモノだ。


 つまり、この組織を意図的に日本のGOTと同じ立場にすることで、この技術を同盟軍に開示することを拒否する理由にしたというわけだ。


 この独立組織の名は【Peace(平和)】。エリア132の地下深くで古代文明の遺跡や地球外知生体の技術と思われるオーパーツの研究をおこなっていた機関である。


 数十年の研究ではほとんど解明できず利用できなかったオーパーツではあったが、GOTの機動重機から得た中間と成り得る技術を手に入れたことで解析に成功。GOTの高度なテクノロジーを超える超高度なテクノロジーによってクライシス=ストライカーは建造され完成した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る