Scene15 -2-

 P州F郡に降り立った巨漢セガロイドのラーグは目につく者を手あたり次第に破壊していた。建物、車、当然人間もだ。クリスマスというイベントに緩んでいた人々の心は一瞬で凍り付いた。


 近郊に配備されていた部隊は次々に破壊されていく。阿鼻驚嘆の地獄絵図とはまさにこのことだろうと言えるモノがそこにはあった。


 当然このセガロイドに対しA国は巨大人型機動兵器を投入。投入されたA国の機動兵器は、近接戦型のライノ八機、中遠距離戦型のバイパーが六機、高機動型のジャガー六機で、それぞれ動物の名前が付けられ、試作型から正式量産型へと戦力強化されていた。


 他国よりも少し大柄な機体の機動兵器はその分出力も高く、兵装の攻撃力も高い。セガロイドのラーグを包囲するとすぐに一斉攻撃が開始された。


 バイパー六機の砲撃からジャガーの四機の射撃に繋ぎ、四機のライノが距離を詰めて打撃を加える。


 最初から打撃戦のみを考えて製造されたライノにはマニュピレーターはなくボクシングのグラブ状の巨大な拳になっていた。その拳で数発乱打したライノはすぐに後退し、すかさずバイパーが砲撃する。攪乱しながら交互に攻撃をし、控えていた4機のライノが入れ替わって前に出てラーグに攻撃を加えるのだが、その中の一機の上半身が四散し、残った下半身がフラフラと揺れて倒れた。


「(全部ぶち壊してやる!)」


 その叫びと同時に二体目のライノが破壊される。


   ***


「(ラーグ、ラーグ、どこに居る)」


 A国がラーグに襲われる少し前のこと。ムー帝国でゴルンが修復中のラーグを探していた。基地内で叫びながら仲間たちが使う電信機能によって呼び掛けるが反応はない。ということは電信機能が及ぶ範囲にはいないだろうと判断し、ゴルンはヴィーショッグに電信で意思を飛ばす。


「(ラーグが基地を出たかもしれん。すまないが連れ戻してきてくれ)」


 ゴルンは機能が完調でないためヴィーショッグにラーグの探索と強制帰還させるように頼んだ。ラーグはゴルンたちより上位の個体だが、3機の中で一番劣化が深刻な状態だった。応急対処で動けるようにしたとはいえ、現在の状態ではガイファルドと戦えるほどの力は発揮できない。


「(ウグイグルが居ないね。あの子に運ばせたようだ)」


 ウグイグルとは、ガーディアンズでストレニックスと名付けた鳥型の機械獣の本来の名前だ。


「(まったく困ったもんだ。連れ帰ったらしばらく眠ってもらった方が良さそうだよ)」


 電信から聞こえるヴィーショッグの呆れ声に、ゴルンは同じく呆れながら同意した。


「(私もラーグ解放での機能低下が残っていますからベリンジャーに乗っていくことにします)」


 ヴィーショッグはベリンジャーにまたがってラーグを探しに飛び立った。


「間抜けめ。あんな状態で出て行きおって……。それでもオルガマーダの機械人形に負けることなどないだろうがな」


 ゴルンは英語でそう口にした。



   ***



 三機のライノ、二機のジャガーを破壊したラーグ。A国軍が誇る機動兵器ではあったが不完全なラーグに対してもまったく歯が立たなかった。だが、ラーグが不調であることもそうだが、強行打撃型であるラーグは広範囲あるいは長距離攻撃を持たないため、A国軍の機動兵器の被害は小さい。だが、着実に一機ずつその拳によって殴り潰されていく。


「大佐、このままではっ」


 徐々に劣勢になっていく様子を見ていた作戦本部。今回その指揮を任されていたマーキス=ジョーンズは焦りを感じていた。


『全滅などあってはならない。なんとしても勝利しなくては』


 だが、根本的に攻撃が効かないのでは作戦の立てようもない。セガロイドが持つDゾーンの存在を知らないA国軍では、弱っているとはいえセガロイドとは圧倒的に格が違うのだった。


 セガロイドの出現情報を得たガーディアンズはイカロスでA国に向かっていた。しかし、地球の反対側まで飛んでいかなければならないため、いかにイカロスと言えども数時間を要する。セガロイドが相手であることがハッキリしているためGOTは出撃を見合わせ、A国近隣の部隊も理由を付けて出撃を取りやめていた。


 そんな状況の中で大統領宛てに秘匿回線で一本の連絡が入る。


「はい、かしこまりました」


 大統領にしてこの受け答え。つまり相手は大統領よりも格上の存在。


 その者からのあ指示を受けた大統領はデスクを叩き厳めしい目つきにいやらしい笑みを浮かべた。そして、秘匿回線を使って受けた指示に従いある場所に命令を伝える。


「大統領より承認が下りた。完成して間もないが最低限のテストも完了している。今こそ我々の力を世界に見せつけるときだ!」


 その掛け声にその場にいる者たちが力強く応えた。


「さぁ出撃だ、クライシス=ストライカー」


 出撃の指示を飛ばした男が見るモニターに映し出される人型兵器は、機動重機よりも機動兵器よりも武骨でさらに巨大だった。


 全長二十五メートル強、A国の機動兵器のふた回りは大きい。動力炉は核融合炉。機体自体も一部を除き機動重機から得た情報とは違う構造で作られている。


 プロトタイプということもあり、ほぼシルバー一色のシンプルなカラーリングだが、それが言葉では言い表せない威光を醸し出していた。


 クライシス=ストライカーの立つ天井のシャッターが開き、壁のレールに繋がれた台車が機体を押し上げていく。その速度はどんどん上がっていき、数百メートルの距離を上昇してクライシス=ストライカーを地上に連れて行く。


 そこはエリア132からそれほど離れていない場所だった。


「クライシス=ストライカー発進する!」


 その機体のコックピットで、パイロットが発進の意思を言葉にして強くレバーを押し込むと、機体背部と胸部下のスラスターを噴射して三百トンを超える巨体を浮上させた。


 基地内でそれを見ていた者たちは歓声を上げてストライカーを見送った。

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