Scene15 ー1ー

 3体目のセガロイドが解放されたことが未確認機動兵器のインパクトを上回り、新聞を始めとしてあらゆる情報ツールで取り沙汰された。その中には少ないながらガーディアンズの中傷もあり、それを読んだルークは激しく怒りをあらわにしていた。


 ようやく世界の国々が機械虫と互角に渡り合える力を手に入れたところではあったが、機械虫の上位と思われる機械獣とそれを従えるセガロイドが新たな脅威として人々の心に不安の影を落とす。その影がはっきりとしたモノになったのは、先日放送されたムー帝国を名乗ったセガロイドたちの宣戦布告からだ。


 謎の未確認機動兵器の出現も相まって、対機械虫という名を冠する世界軍事同盟はよりいっそうの軍事強化を余儀なくされた。


 世界が慌ただしく揺れている頃、ムー帝国を名乗ったセガロイド陣営はゆっくりだが順調にことを運んでいた。


 ヴィーショッグがゴルンの居る部屋に訪れると、巨大なハンガーラックに解放されたばかりの3体目のセガロイドが固定され修理を受けていた。


「ゴルン、貴方のお遊びでオルガマーダたちは泡を食っているようですね。でも彼らの機械人形を研究してどうするんのですか?」


「なに、ビストールよりも汎用性が高い端末があった方が使いやすいと思ったからだ。それに……」


「それに?」


 ゴルンは不自然に言葉を切った。


「いや、確かに今はお前の言うお遊びだ、気にするな。それより、ここでもこの時代のオルガマーダの言葉を使うのだな」


 今彼らが交わしている言語は日本語だった。


「えぇ、せっかく貴方がこの世界の情報と言語データをくれたので読み込ませてもらいました。この言葉を使っていいるのはあのバルドたちが使っていた言語なので。まだろくに挨拶もしていませんから、次に会ったときのためにね」


「そうか、次で最後になるかもしれんが、次は俺も名乗ることにしよう」


 半分冗談で言ったヴィーショッグに対して、ゴルンは真面目にそう返した。


「ところで、ラーグの状態はどうですか?」


 ラーグ。先日ヴィーショッグが解放させた新たなセガロイドの名だ。


「残念だがしばらくは動けんな。俺よりもさらに劣化が進んでいたにもかかわらず高出力可動したせいでコアの制御系が負荷で損傷してしまった。これでは四肢にエネルギー伝達がされず、自己修復だけでは時間がかかり過ぎる上に歩くのもままならん」


 ラーグは現在はハンガーラックに固定され、休止モードといった状態で眠っている。解放されたものの、まともに動けるようになるのはセガロイドたちの基地であるムー帝国の動力炉が始動してからになる。


「サブ動力炉の稼働までもう少しです。そうなればラーグはともかく貴方のボディーはなんとかなりますね。それまではオルガマーダの機械人形遊びで暇つぶしですか?」


「こいつを俺たちに近いレベルに造り上げる」


 人類にとっては脅威となる機動兵器を機械人形呼ばわりするヴィーショッグに対して、ゴルンは『そう』とも『違う』ともとれる言葉を返したのだった。



   ***



 アクトが共命者になってから数か月。桜が咲いていた季節から紅葉の季節も終わりを迎えようとしていた。1年前からすれば、そのわずかな期間で世界の状況は激変したと言っても過言ではないだろう。


 世界の守護者ライゼインの敗北を皮切りにガイファルドの登場、連結機械虫、機械獣、セガロイドの出現。中破したガンバトラーを接収したA国はそのデータから独自の巨大人型機動兵器を製造し、その技術を同盟軍に引き渡したことで世界の大国は機動兵器を量産製造。神王寺だけが持っていたオーバーテクノロジーの多くを世界が持つに至った。


 そして今、その機動兵器を模倣し強化した未確認機動兵器が世界各国に同時に現れ、世界軍事同盟の機動兵器たちがその機動兵器たちと戦っていた。


 人類の相手は知性のない機械虫ではなく、人類の造り出した脅威の機動兵器へと移り変わっていた。


 未確認機動兵器はその行動原理からムー帝国が差し向けたモノと断定。いつしか侵略機械歩兵端末(Invasion Machine Infantry Terminal)と言われ、その略称からI.M.I.T.(イミット)と呼ばれるようになった。


 これはガーディアンズの柳生博士が名付けたものではない。その名の裏にはimitation の省略形imit. (模倣)という皮肉が込められていた。


「自分たちが機動重機をコピーして機動兵器を造ったくせによくも未確認機動兵器にそんな名前を付けたもんだわ!」


 そう怒るのは神王寺舞歌だ。


 愛する機動重機ガンバトラーからデータを取って機動兵器を作り上げたA国軍。憶測ではあるがそのA国軍はガンバトラーを分解、解体した証拠を隠滅するために機械虫に襲わせて破壊させたであろうこともあって激しくご立腹だった。


「あいつらなんか自分たちで名付けたイミットにやられちゃえばいいのよ!」


 それは人類の敗北に近づくことになるのだが、舞歌の怒りは治まらず暴言が飛び交っていた。


「そんなこと絶対にSNSに上げてはだめよ。神王寺の信用はGOTの信用。世界軍事同盟に目の敵にされている私たちが存続するのには世論の力は必須なのだから」


 そう言って舞歌をたしなめるのは神王寺の長女でありGOTの司令官でもある翔子だ。


 ライゼインとガンバトラーの居ないGOTも新たな仲間を得たことでようやく本格的に作戦活動が再開できるようになってきた。イミットの出現もさることながら、セガロイドの解放によってより厳しい状況となることは分かりきっている。ガーディアンズと連携し、少しでもガイファルドの負担を減らそうと彼女は慎重にことを進めようと考えていた。


「私も機動重機のパイロットとして一緒に戦わせてよ。雷翔らいとには及ばなくても光司よりは適性試験の点数高いんだから、少しだけどね」


 ずいぶん前から姉の翔子にそう訴えている舞歌だったが翔子はそれを了承しない。

 雷翔らいとがゼインと共に戦うことを父親も兄弟たちも反対していた。もちろん舞歌も反対していたのだ。その舞歌が雷翔らいとと同じ道を進もうというのだ。より厳しい戦いに移行した現状、戦場に出れば雷翔らいとの二の舞になることは大いに考えられる。雷翔らいとの意思を継ぐために訓練に励んでいる弟の光司が戦場に出られないのは、雷翔らいとと同程度の力に達していないからに他ならない。だが、雷翔らいとの能力が異常に高かったことが幸いして、光司を機動重機部隊に入れないための理由が成り立っていた。


「舞歌には会社の経営の一部を引き継いだでしょ。そこで実績を出すことが神王寺コンツェルンの、いてはGOTのためになるのよ。それがあなたの戦いです」


「はーい……」


 GOTの司令官である翔子に言われては舞歌もそう返事をするしかなかった。


 神王寺がコツコツと着実に小さな進歩をする一方で、ある大国ではその技術を躍進的に高めていた。後日、世界の人々はその成果を見届けることになる。


 ムー帝国が差し向ける侵略機械歩兵端末イミットは日々強くなっていき、各国の巨大人型機動兵器がその対応に追われる中、機械虫たちがエネルギーを奪っていく。不幸中の幸いなのはエネルギーは奪うものの施設は破壊されなかったことだ。それは何度もエネルギーを奪いに来るためであるのだが、万が一原子力施設を破壊されるようなことになれば、その被害は計り知れない。


 各国は戦い末にイミットに勝つことはできても、機械虫のしんこうを止めることができないでいた。


 12月24日。機械虫やイミットとの戦いで軍は疲弊する中でも、いまだ明確に人類に対しての直接攻撃をしてこないムー帝国。宣戦布告での「人間を支配する」という宣言が言葉通りなら、ムー帝国の目的が人間の虐殺ではないという心の逃げ道になっていたために、人間たちはまだ、クリスマスという祭りを楽しむ余裕を持っていた。


 イブが明けクリスマスを迎えたその日、A国の地にバーサーカーと呼ばれるようになるセガロイドが降り立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る