Scene15 -4-

 このところよくある出撃からのとんぼ返り。ガーディアンズは先日のA国の独立組織ピースについて話し合っていた。


 ガイファルドと戦ったときよりもセガロイドの状態が悪かったとは知らなかったわけだが、現代の人類科学で作り上げた機動兵器がセガロイドを撃退したという事実に驚くばかりだった。あきらかに機動重機から得た技術ではないピースの機動兵器を見て柳生博士はA国の策略を悟った。


 奪取した機動重機は最初からGOTへの返却をするつもりもなく、その後の批判など気にもせず解体をしてまで得た技術。その技術を使いA国が長年に渡り手に負えず解析できなかったオーパーツを解析し、その技術を手に入れる。


 予想通り世界から押し寄せる批判はGOTの機動重機の技術を提供することで黙らせ、自分たちはさらにその上を行く技術を得て他国を出し抜く。


 機動重機を上回る技術はピースという架空の独立機関をでっち上げ、軍事同盟での技術共有を拒否。


「いったい誰がこんなことを考えたのか」


 まるで最初から決められていた筋書のようなこの展開に博士は頭を抱えていた。


 現在博士は機甲合身のテストを終えたアクトと共に博士の部屋で話をしていた。


 アクトは博士に出された紅茶の入ったティーカップをぷるぷると震える手で掴み口に運ぶ。熱々の紅茶を少しすすり、カタカタと音をさせながらソーサーに戻した。


「副作用は弱まってきたようだね」


 同じように紅茶を口にした博士がアクトに確認する。アクトは微妙な笑みを浮かべながら拳を握って答えた。


「合身直後で紅茶が飲めるなんて夢のようです。初回のときは3日は動けませんでしたから」


「この疑似神経技術が向上すれば、レオンたちの強行型決戦兵装も造ることができるし、機動重機の性能向上にも繋がる。もちろんバルセイバーの性能向上は言うまでもない」


「三体目のセガロイドも出てきましたから。四体、五体と居るなら、そろそろ一体くらい倒しておかないと」


 底が知れないセガロイドの強さを思い、アクトの腕に鳥肌が立った。


「博士はピースの機動重機のこと、確かクライシス=ストライカーでしたっけ? どう思います?」


 アクトは先日ピースから正式に発表された超絶機動兵器の名前を口にした。


「正確な性能は計りかねるが、動力は恐らく核融合炉。機体構造は機動重機から得た技術を使い、システムの制御は非人格型のAIによっておこない、操縦を簡易的なものにしているんだろう。機動重機たちのように育成する時間はなかっただろうから、パイロットの人格をコピーしたモノから思考パターンを割り出せば、もっとも無駄のないサポートAIが生み出せる。現状では機動重機の簡易量産型を発展させたという感じだろうか」


 柳生博士の予想は的中していた。簡易量産型の発展系というのは、機動重機は人格となるAIとスピリッツリアクターを合わせた個性を持った個体だからだ。そこから個性を引き、性能を向上させたのが超絶機動兵器ということである。


「セガロイド、バーサーカーの攻撃を受けてビクともしませんでしたけど、あれってもしかして」


「そうだね、多分慣性制御だと思う。僕らもイカロスに使っているけど。あれだけの質量攻撃を相殺するほどのモノじゃない」


 イカロスにも加速や旋回による慣性を緩和するシステムを搭載している。イカロスの慣性制御は博士が独自に作ったもので古代の遺跡から得た技術ではない。そのため、戦闘に活用できるほどの性能ではないし、機動重機やガイファルドに使えるほど小型でもなかった。


「あれにはさすがに驚いた。クライシス=ストライカーがあれだけ大型なのはそのシステムを搭載したためかもしれない。僕が造ったらきっと80メートルくらいになっちゃうんじゃないかな」


「まだまだ大型のようだけど核融合炉も実用化しちゃいましたね。推進システムはやっぱりインパルスドライブでしょうか?」


「いや、そこまでの性能はないと見た。あれは核熱ジェットエンジンじゃないかな」

 話をしているうちにセガロイドの脅威など忘れ、ピースの超絶機動兵器クライシス=ストライカーの考察で盛り上がってしまう。


 ふたりが考察で盛り上がっているころ、F国に向けて大量の機械虫たちが押し寄せていた。


 最小のG級機械虫からA級の機械虫まで、多種多様な機械虫が海から上陸。その数の凄まじさもさることながら、その行動が今までとあきらかに違っていた。これまではなにかの目的、目的地以外には目もくれなかった機械虫たちが、目にする人間をひたすらに狩っているのだ。その光景はまさに地獄絵図。


 セガロイドたちがムー帝国を名乗り宣戦布告してから、バーサーカーと呼称した三体目のセガロイドの大暴れしたことを除けば、初めての機械虫の大侵攻。この光景は人間を支配するという声明にはまったくそぐわない。F国はすぐに機動兵器を導入して機械虫の掃討に繰り出した。しかし、あまりの大軍勢ということもあり、F国の機動重機では圧倒的に戦力が足りない。防衛線はどんどん下がる一方で、機動兵器もかみ砕かれ踏み砕かれF国とその周辺国は無残に壊滅し占拠されてしまうのであった。


 そして、F国のエネルギー施設や実験施設は乗っ取られてしまい、その場所には機械虫が集まり積み重なり、要塞のような建物が造られる。





「(グゥイン、ちょっとやり過ぎなのではないか? エネルギー施設の占拠が目的だったのにあの国の人間の六割は消えてしまったぞ)」


 ゴルンは暗い部屋の奥の透明のケースの中に居る胸像のようなセガロイドに言った。


 ボロボロな上に熱で溶けたようなそのセガロイドは体にたくさんのケーブルが取り付けれている。そのケーブルは背後にある大きなコンピューターに接続されていた。


「(いいのです。支配とは恐怖あってのモノ。まずは人間の人口が半分以下になるまで殺してしまいなさい。あなたから得た情報によれば人口が増えすぎて困っているというではありませんか)」


「(施設の働き手も必要だ。ほどほどにしないと支配に必要な技術者や人間の統率者がいなくなってしまうぞ)」


「そんなこと気にする必要はありません。そういった者たちは残った人間の中から湧いてくるものです)」


 グゥインはゴルンの言い分など意に介していないようすだった。


「(あの者・・・の入れ知恵か?)」


 その質問に対する返答はすぐにはなかった。


「ゴルン、ヴィーショッグ、ラーグを取り戻すことができてワタシは嬉しいです。今度はこの基地、ムー帝国でしたか? ここの機能を取り戻しましょう。そのためにエネルギーが必要です。今回得た施設と同規模の場所をあと三ヶ所は手に入れましょう)」


「(そうだな、俺もこの体ではもう戦えそうもない)」


 ゴルンはグゥインに背を向け、体から小さな異音を発しながら部屋を出た。


『(奴らはイミットと名付けたか。データ収集は上々。あとはやはり我らの基地の復旧だ。それがなされたときが本当の始まりだぞ、オルガマーダども。だが、その前にバドルとの決着だ)』


 ゴルンはムー帝国の目的よりも自らの目的に心を躍らせていた。

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