Scene14 -1-

 機動兵器の配備以来、世界は順調に機械虫に対処していた。その期間、何度が連結機械虫が現れエネルギーを回収されることはあったが、なんとか自国と周辺同盟軍の戦力によって決定的な被害はなく、人的被害がほぼないことが機動兵器導入が正解だったという答えとなった。例えその技術が最悪の形で奪ったモノだとしても。


 日本が3体の機動兵器の運用で火の車となっていた頃、軍事大国は少しずつ量産を続け、その性能はともかくA国は30機、C国とR国は20機以上の機動兵器を配備するに至っていた。


 通常の国軍兵器も基本性能を向上させ、機械虫に対しては完全な防備が整ったと思った矢先に事件は起きた。


 R国に突如、所属不明の巨大人型機動兵器が現れたのだ。このことにR国は隣接する国の機動兵器が無断入国したのだと考えたが、少なくとも同盟軍に登録されている中に同じタイプはなかった。その機動兵器は素体に丸みを帯びた何の特徴もないプロテクターを取り付けただけの簡素な造りをしている。


 ただちに確認に向かったR国軍だったが、未確認機動兵器によって全滅。事態を深刻に受け止め、R国軍は機動兵器部隊を10機投入した。


   ***


「自爆した?!」


 R国に現れた巨大人型機動兵器と思しき者がセガロイドである可能性を考えて発進したガーディアンズ。ガイファルドを輸送するイカロスのハンガーに集まっていた共命者と共命体は、皆一様に驚いていた。


 R国の機動兵器に包囲された敵性機動兵器は10分とかからずにR国の機動兵器を全機破壊したというのだ。R国の機動兵器の特徴は人類の兵器にしては大火力の砲撃と、重量にまかせた近接打撃という両極端に偏った性能を持つ。


 対して敵性機動兵器はひと回り小型で、R国の物と比べて機動性と運動性が優れており、近接戦闘でR国起動兵器を圧倒しつつ最後は胸部に埋め込まれた大火力のビーム兵器の砲撃ですべての機動兵器を粉砕してしまった。


 R国軍はさらに12体の機動兵器を投入。さらには戦車隊、航空部隊と送り込んだ。

 完全に油断を捨てて再度挑んだ戦いは、R国軍の有利に進むのだが、1体の機動兵器が組み付いたところで大爆発を起こして残骸ひとつ残さないほど木端微塵に吹き飛んでしまったのである。それなりの損傷を負っていたとはいえ、爆発するほどのダメージがなかったことからそれが自爆だと断定。


 この未確認起動兵器の行動は、どこかの国が自国の起動兵器の性能は試すためにやったのではないかと同盟軍の中で疑心暗鬼を生じさせた。しかし、この被害にあったのはR国だけではなく、他国でも同じようなことが続いたため、最初に被害にあったR国の自作自演によって疑いの目をそらすことから始まったのではないかという憶測も飛び交うことになる。だが、そのために自国の貴重な機動兵器を10体以上も大破させるのはあまりに釣り合わないことから、憶測は憶測のまま終わった。


 軍事大国が何度かそんな被害を受ける中、機械虫の被害すら少ない平和な日本で、もっと大きな事件が起こる。


 世界各国が独自の機動兵器を配備することで、機械虫に対抗できるようになった一方、未確認の機動兵器が現れてその国の起動兵器に戦いを挑んでいた。


 最初こそ虚を突かれ大きな被害に見舞われたのだが、1体の機動兵器に対して複数の起動兵器で応戦することで大きな被害を生まずに対処できるようになっていた。しかし、最後には必ず大爆発を起こすので、制圧し鹵獲ろかくすることもできず、何ひとつ情報は掴めぬまま。


 そんな戦いを繰り返す中、ついに日本にも未確認機動兵器が出現する。この事態を不謹慎にも喜んだのは日本政府だ。


 日本の機動兵器ガンドールは機械虫との戦いにおいて満足のいく成果を収めた。もし、同盟軍各国の機動兵器が苦戦する未確認機動兵器を倒してガンドールの性能を示せれば、同盟軍内での立場は大きく飛躍する。そして、繋がりの強いA国からの援助を受けて部隊の拡大もおこなえる。なにより、今まで大きな顔をさせていたGOTを解体できないまでも封殺することはできるだろうという目論見も持っていた。


「目的地はY市じゃなかったな」


 顎を人差し指と親指で挟み怪訝な顔をするのはルーク。それは未確認機動兵器の出現場所が東京でなかったことに対してだ。


 海岸から上がってくる機械虫とは違い、突如上空から降下してくる未確認機動兵器は直接内陸に降り立つ。しかし、その場所は以前機械虫が目指したY市ではなく、遠く離れた京都の琵琶湖付近。工業が発達した場所というわけでもないのでその理由は皆目見当かいもくけんとうもつかない。


「奴らが歴史的文化遺産に興味があるとは思えないけどな」


 冗談交じりのルークの言葉にエマは返す。


「機械虫の出現場所は世界遺産も含まれている。可能性がないわけでもない」


 とは言え、日本の文化遺産と世界遺産の歴史の深さには大きな差がある。セガロイドが1万年前という古代の兵器だということを考えれば、数百年前のお寺ではあまりにスケールに差があり過ぎてピンとこない。


 そんな場所に未確認機動重機は降り立ち、琵琶湖の周囲を散歩するように移動していた。


 発進準備を済ませたGOTの機動部隊はすでに輸送ジェットに乗り込んでいる。その中には当然、新型機動重機であるナグラックとシェンダーも居た。


 彼らがGOT内でお披露目されてからは人命救助ばかりであり、まだ大きな戦闘での初陣を飾ってはいない。この未確認機動兵器は初陣の相手としては打って付けである一方、危険な相手でもあった。


 GOTの司令官である神王寺翔子は自爆による共倒れを注意しつつ機動部隊の発進を命じた。


 ガーディアンズは戦場が日本となる場合、超ド級潜水移動要塞グランドホエール号によって日本から遠く離れた沖合に出る。そこかイカロスを発進させて基地の場所を探られないように配慮している。そのため、現在は海中を亜音速で移動中だった。


「きっと日本政府はGOTが駆けつけても手を出させないんだろうな」


 というアクトの言葉にルークとエマが首を縦に振る。


「奴らがコテンパンにやられたら機動重機たちの出番で、もしそれがやばそうだったら俺たちの番だ」


「でも油断は駄目。わたしたちは上空で待機。ナグラックとシェンダーは初の強敵との実戦。きっと相手は強いからすぐに参戦できるようにしておく」


 エマの心配は過剰とも取れるがそれはアクトとルークも同じだった。それは、自分たちの不甲斐なさでガンバトラーはA国に奪取され、あまつさえ解体されて情報を取られた末に、機械虫に襲われたという事故をでっちあげて証拠を隠滅いんめつされたからだ。


 可愛らしく眉間みけんに小さなしわを寄せるエマをアクトなだめる。


「ここは日本だからガンバトラーのようなことはないだろうけど、日本政府はGOTを敵視しているから注意は必要か」


 そこでグランドホエール号の浮上地点に到着したとアナウンスが流れる。


「イカロス発進準備!」


 続いて流れた剛田の叫びを受けて、アクトたちは自分の共命体であるガイファルドと合身した。


 ちょうどその頃、未確認機動兵器と日本が誇る機動兵器ガンドールの戦闘が開始されるのだった。

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