Scene14 -2-

 市街地とはいえ都心とは違い高い建物が少ない平地であったことから、ガンドールたちはそれほど周りの被害を気にせずに戦っていた。


 白兵戦もこなしながら付かず離れず間合いを取って戦うガンドール1号機ダーム。中距離から支援しつつ、強力な火力も振るうガンドール2号機カーノン。2号機よりさらに火力の高い遠距離砲撃仕様の3号機ダング。この3機の連携によって未確認機動兵器は押されていた。


 その地味なグレーのボディにはミサイルやビームによる損傷が多数刻まれている。1号機ダームが引きつけ、2号機が着実にダメージを与える。隙ができたところを3号機の高火力の砲撃が襲った。


「敵性未確認機動兵器沈黙」


 自衛隊の特務部隊の指令室に流れた報を受けて隊員たちの歓声が上がった。


「様子を見つつ接近。自爆に気を付けろ」


 隊長の支持どおりガンドール1号機ダームがゆっくりと近づいていく。


 少し前に上空に到着したGOTの輸送機からその状況を見ていたシェンダーが舌打ち。


「仕方がない、俺たちの初陣はまた今度だ」


 シェンダーの前で降下準備のために固定されているナグラックがいきり立つ彼をなだめる。

 自衛隊のガンドールで倒せる相手ならば自分たちの力を試せるほどの敵ではないとシェンダーが納得したところで、輸送機がキャッチした情報が3体の機動重機のAIに流れてきた。それは機能停止したと思われた未確認機動兵器が再起動したという知らせだ。


 起き上がろうとする未確認機動兵器を見て1号機は飛び下がり、近接白兵戦用の高電磁スティックを収納してハンドガンを構えなおす。


 未確認起動兵器は全身の各所から蒸気らしき物を噴出するとボンッという音と光を発して弾けた。しかし、それは自爆ではなく、ガンドールたちの攻撃によって損傷した装甲をパージするためのモノだった。


 地味なグレーの装甲の下からは機動兵器たちに似通ったまるで人間がデザインしたようなボディーが現れた。簡素ではあるが、今までののっぺりとした装甲とはあきらかに違う。


「隊長?!」


 不測の事態に隊長の指示を仰ぎ叫んだ1号機パイロットの日向ひゅうが。ハンドガンを突き出して照準したときには未確認機動兵器は肉薄していた。


「野郎!」


 ハンドガンのトリガーを引いたときにはすで強い衝撃を受けて1号機は打ち飛ばされていた。


 それを見て射撃を開始する2号機と3号機。しかし、これまではまったく違う動きを見せる未確認起動兵器には当たらない。


 あっという間に間合いに入られた2号機は肩に背負った砲塔を斬り落とされてしまう。


「機動重機部隊降下!」


 輸送機内に響いたのはGOTの司令官である翔子の声。その声で輸送機の床が展開されると、ガードロン、ナグラック、シェンダーの順にロックが外されて降下を開始した。


「うおーーーー!」


「やってやろうじゃん!」


「まずは僕が前に出る。いきなり突っ込むな」


 気合十分な新人に注意を促すガードロンはスラスターを噴射しつつ降下場所と速度を調整する。


「シェンダー、援護射撃だ」


「了解!」


 勢いよく返事をしたシェンダーはすでに照準していたらしく一拍も置かずに砲撃した。


 着弾したのは後退するガンドール2号機カーノンと未確認機動兵器との中間点。ガンドール2号機の砲塔を斬ったのは手刀から肘に掛けて生成された光の刃で、さらに2号機の右腕を斬り落とし、胸を斬り裂いていた。


 その手刀を振り上げていた未確認機動兵器は上空を見上げ、降下してくる機動重機部隊を見ながら一旦後ろに下がっていく。


 未確認機動兵器に牽制射撃をおこないながらGOTの機動部隊が着陸した。


「救援に来ました。異論は認めません」


 言い返される前に釘を刺すガードロン。そのまま両腕の分厚い盾のように大型手甲を前にして未確認機動兵器に突進し、その盾に隠れながらナグラックもついていく。


 未確認起動兵器は向かってくるガードロンの盾に光の刃を斬りつけた。


 ガンドール2号機の腕を斬り落とした光の刃だったが、ガードロンの盾はその刃をガッシリと受け止める。これまで世界の強国が作り上げた機動兵器をことごとく倒してきた未確認機動兵器だったが、日向凛の生み出した新素材の装甲をによって強化されたガードロンの盾を斬り裂くことはできない。


 2体が接触するその横から飛び出したナグラックがガードロンに変わって未確認機動兵器を殴り倒した。倒れたところをシェンダーがキャノン砲を撃つ。


「喰らえ!」

 転がり回避する未確認起動兵器に1発命中するが、吹き飛ぶ勢いで起き上がった。


「自衛隊の機動兵器。戦闘不能なら退避してください」


 ガードロンが2号機に退避を促す。


 一度は倒したかに見えた未確認機動兵器が立ち上がり真の姿を見せたことでガンドールは窮地に陥った。それを救うためにGOTの機動重機が降下してその闘いに割って入る。


 ネット上で新たな機動重機の登場に沸き上がっていると、神王寺コンツェルンからナグラックとシェンダーという新型機動重機についての紹介動画のバージョン2がネット場に流された。この宣伝は今後のGOTの活動を世界の人々に支持してもらうための一手だ。自国日本を含めた世界の軍事同盟の圧力から守ってくれるのは、やはり世論である。新型機動重機の活躍を見てもらい、安心感と共に好感を持ってもらうことは、今後の活動にも重要なことだった。


 同じような理由で自国の機動兵器ガンドールの性能を世界に見せつけたかった日本政府だったが、その思いは叶わずにそのインパクトも出番もGOTに奪われてしまう。


 ガンドール攻勢の第1ラウンド。未確認機動兵器が真の姿を見せた第2ラウンドが開始されてすぐにGOTが乱入し、強制的に第3ラウンドへと移行する。


 戦いの現場とそれを見守るGOTと自衛隊本部、そしてネット民たちの意識の外で、別の者が動いていた。


 京都で未確認機動兵器と戦う自衛隊のガンドールとGOTの機動重機たち。東京ではまた別の事件が起こっていたが、その発見は遅れていた。


「高速で移動する物体を確認。その数……100体以上です!」


 皆が京都での機動重機と未確認機動兵器の戦いに見入っていた中で、粛々と仕事をこなしていた八島美紀は、その高い情報処理能力を使って未確認機動兵器の戦力分析などをしつつ、世界から流れてくる情報に目を通していた。それによって世界各地の小さな機械虫情報の中からいち早くその情報を拾い上げることができた。


「その中に連結機械虫の反応……、いえ、これは機械獣かもしれません。飛行型の機械獣あり。映像を検索します」


「よし、共命者はハンガーで合身準備」


「了解!」


 博士の支持を受けて3人はイカロスの後部ハンガーに向かう。


 続けて剛田が館内放送を使ってハンガーのPRL《ピラーロボットレイバー》に向かって叫んだ。


「セイバーはジェット・スタイル。ノエルはヘビーアームズとドッキング。レオンはガン・スタイルの準備だ!」


 剛田の力のこもった声を受けたPRL《ピラーロボットレイバー》たちは休止状態から復帰していそいそと動き始めた。


「グランドホエール号浮上します。乗員は艦の傾きに注意してください」


 グランドホエール号が浮上してすぐに甲板上部が開口。


「ディストーションミラー展開、超速機動揚陸艦イカロス、発進!」


 艦長ヤマト=ウィルソンの発進指令を受けて、操舵士のジョー=ハワードがインパルスドライブの推力を上昇させて始動する。


 グランドホエール号の浮上した勢いのままに投げ出されたイカロスはそのまま上空へと舞い上がった。


 クジラが海面をジャンプするのと同じように飛び上がったグランドホエール号は、イカロスを射出するとすぐに甲板を閉じて着水。大きな波しぶきを上げたのち、再び海底へと潜水していった。


 その頃東京では、少し前に上陸した機械虫が踏み倒して作った荒野の道を使って再び進行していた。その機械虫群に先んじて飛行体の機械獣がY市に向かうのだが、その機械獣は四足歩行の獣型機械獣であるスフィンクスではない。索敵士であるミキが検索して得た動画には大空を駆る鳥の姿が映っていた。


「今度の飛行体は蜂じゃなくて鳥か」


 ルークの合身したレオンがその映像を見て感嘆の言葉を口にする。


「あんな巨大な物体が翼の羽ばたきで飛ぶわけない。いったいどんな仕組みなんだろう?」


 とアクトの合身したセイバーが首を傾げた。


「セイバーは飛行体の機械獣。わたしは地上から狙い撃つ。レオンはわたしの後方で援護」


「オーケー!」


「OK!」


 ふたりは発音の異なる同じ言葉で隊長に応えた。

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