Scene13 -3-

 世界の国々が次々に巨大人型機動兵器を開発していくことで、機械虫の脅威は脅威ではなくなりつつあった。とは言え、連結機械虫には対抗できず、何度か発電施設やエネルギー実験施設から奪われることがあったのだが、機動兵器を導入したことで同盟軍は極力他国の協力を受けないような体制を作るよになっていった。それはGOTやガーディアンズに対しても同様である。


 そんな世界情勢の中、GOTでは新たな機動重機2体が産声を上げた。


 そこは本部研究所近くの第1倉庫の地下。そこに集められたGOTに携わる隊員とGOTを支える神王寺グループの代表者たち。


 仮設の舞台には重機技総の長谷川が立ち、挨拶をおこなっていた。


「……話が長くなってしまいましたが、新たな仲間に登場してもらいましょう!」


 長谷川が元気よく叫ぶと20メートルあるふたつの巨大なシャッターが上がっていき、足元から2体の機動重機の姿が見えてくる。


 傷ひとつないピカピカのボディーの2体の機動重機が姿を現し、隊員たちが集まる会場へ向けて歩き出す。


「おーーーー」という低い声を受けながら司会を務める対機械虫防衛機動重機技術開発関連総合部門部長の長谷川の横で立ち止まった。


「向かって右がナグラック。近接格闘をメインとした機動重機です。そして左がシェンダー。近中距離支援型ですがナグラックと共に近接戦もおこなえます」


 紹介を受けた2体は半歩前に出た。


「ナグラックです。偉大な先輩ゼインとガンバトラー、そして勇敢なる大隊長ライトに負けないよう、死力を尽くして戦います。この体は世界の人々のために!」


 拍手と歓声が上がる。


「俺の名はシェンダー。先代の隊長ガンバトラーと共に仲間の支援をおこなうために造られたはずだった。だが、A国の陰謀によってガンバトラーは……」


 不穏な発言に社員たちはどよめく。


「とは言え、そんな理由でA国に対して偏見をぶつけたりはしない。そんな陰謀があったとしてもその国に住む人たちとは関係ないことは重々承知している。この気持ちは機械虫にぶつける所存だ。だからGOTと神王寺グループの方々は、俺たちの支援をよろしく頼む」


 再び拍手と歓声が上がった。


「やれやれ、ちょっと感情を出すように育てすぎたかな?」


 神王寺一族の横で博士が剛田に耳打ちした。


「いや、そんな心意気を持った奴がいたっていいさ。そういった個性を持つのが我らがGOTの機動重機だろ?」


 その後、正式に隊長に就任したガードロンの挨拶や神王寺一族の挨拶がおこなわれ、式典は締めくくられた。


 新たな機動重機の発表は世界の人々を喜ばせた。やはりいままでGOTが世界に貢献してきたことは大きく、多くの支持を集めるのだが、対機械虫世界軍事同盟軍、特に日本政府はそれを快く思わない。


 日本は同盟に加入してはいても今までは自国の戦力で他国への支援をおこなったことはなかった。その代わり日本が持つ高い技術力と人員を使って貢献してきたのだ。しかし、世界に機動兵器が配備されたことで、そういった支援はほぼ必要となくなってしまった。これでは日本の同盟軍内での立場が弱くなる一方だった。


 ガンドールによる戦力援助をしたくとも小さな島国である日本が他国へ戦力を送るのは簡単ではない。ましてや機動兵器は現在3体しかないため、その3体を送り出してしまえば自国の防衛が手薄になる。そうなるとGOTの存在が大きくなってしまい、GOT解体を推し進めることができなくなるため、日本はその力を世界に見せつけることができずにいた。


 つまるところ戦力増強資金を捻出できない。量産体制を整えることもできず、量産できず出兵もできないの堂々巡り。


 日本政府が頭を抱えているあいだでもGOTは機械虫に苦しむ人々のために世界を飛び回っていた。世界軍事同盟には邪魔者扱いされるが、人命救助をメインに活動し、ときにはその強さを見せつける。やはり技術力は一日の長であり、元祖巨大人型機動重機としての貫禄を見せつけた。


 こうした戦いの中で小さいながら問題は起こっていた。それはGOTにではなく、世界の機動兵器に対してである。


 世界の機動兵器が1体、また1体と消息を絶っていた。それは機械虫との戦いで中破、大破した機体だったため、幸運にもパイロットは脱出しており人的被害はない。しかし、戦闘が終了したときにはその残骸はなくなっているのだ。もちろんその理由は機械虫が持ち去っていたからに他ならない。


「粗悪品とまではいかないがセガロイドたちからしたら機動兵器なんてたいした価値はないと僕は思うんだがね」


「確かに粗悪品とは言わないが俺たちの機動重機に比べれば70点ってところだからな」


 機動兵器をそう評価し、機械虫の行動を推察する博士と剛田。


 火力に関してはそれなりだが、まだまだ装甲強度や運動性に難がある。そしてやはり一番の違いはスピリッツリアクターが搭載されていないことだった。


 エネルギーシステムは各国で独自開発しているようだが、現在のところは機械虫から得たコアを解析したシステムを組み込んでいることがわかった。それがわかった理由は機動兵器から機械虫と同じ波動が出ているからだ。


「機械虫のコアは充電式。つまり機動兵器は戦闘継続や強力なエネルギー兵器を使うには充電や電池の交換が必要なわけ」


 機械虫と機動重機の劣化版のような技術を搭載した機動兵器を回収してどうするつもりなのか?


 機械虫の体は鉱物で構成されているが特別なものではない。様々な鉱物で構成されていながらも破壊すると砂のように小さな粒になる。海水でも錆びることがないのはコアが作り出すDゾーンが関与しているんだろうと推測している。推測なのは機械虫の生け捕りは成功例がないために分析することができないからだ。なぜ生け捕りできないかと言うと行動不能になると自ら崩壊してしまうからだった。


「そして残ったコアもただの電池ってだけでそれ以上の何モノでもなんだもんなぁ」


 これが機械虫から軍事利用できる技術を得ることができない理由だった。


「博士、ってことは超高効率のエネルギー変換や強力な兵装などなどもコア以外の部分がおこなっているから、活動停止すると体と共にすべて砂状になってしまうってことだよな?」


「おそらくね」


 コアを除いた主要部分でさえその扱いとは、機械虫はいまだ謎が多いとふたりは困りながらもその未知の技術に関心した。


「奪われた機動兵器の残骸は機械虫を作る材料にされるのか?」


「奴らも地上で破壊されて我々のために鉱物を残していくんだから互いにリサイクルし合ってるってことだ」


 と、ここまでは笑い話で済んでいたのだが、後日笑えない事態が起こってしまう。

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