Scene3 -4-
「ガイファルド……ですか」
アクトはその名の響きが気に入ったようだ。
「ではそのガイファルドたちについてですけど、ロボットではない共命体の巨人でどうやって一緒に戦うんですか?」
「なんだそんなことか」
博士は口角を少し上げてから説明した。
「簡単なことだよ。ガイファルドと融合して、君が彼らの体を使って戦うんだ」
「それってモーショントレースシステム的な感じでオレが動いたようにガイファルドが動くってことですよね?」
「そうとも言えるが原理は全然違う。ガイファルドの胸部にある彼らの動力炉たるソールリアクターと融合して、君自身が動力源になるんだ」
「オレが動力源にですか?」
「そうなることで彼らの体は完全に君の体になって、今自分の体を動かしているとの同じような感覚になる」
「まだよく理解できないんですけど、自分が巨人になって機械虫たちと戦えるということですよね?」
「端的に言えばそういうことだな」
アクトの目は驚きの目から喜びの目に変わった。
「オレ、神王寺コンツェルンに入社が決まっていてそこでライゼインのような対機械虫用防衛機動重機に乗って戦うことが目標だったんです。どうしても戦いで行方不明の神王寺雷翔さんの代わりに機械虫共を倒したかった。でも神王寺の極秘事項だから一般の人間じゃ重機に乗って戦うなんて無理だって言われてて。この巨人が居ればそれができるってことですよね。オレ、うれしいです!」
アクトは不可能と言われ続けていた野望が別の形になって叶う喜びの気持ちを早口に言葉にした。
「喜んでいるところ悪いがな、ひとつ残念なお知らせがある」
突然残念なお知らせと言われアクトはギョッとする。
「まさか、ここまで来てやっぱりダメとか言うんですか」
「博士、そんな言い方はやめてください。アクトが悪い想像をして精神が乱れています」
白い巨人はアクトの状態を察知して柳生博士に釘を刺す。
「すまん、すまん。あまりオブラートに包んで話すのは得意じゃないんでね」
「博士、共命度の測定結果が出たんだな」
アーロンの問いに対して博士は目を閉じてうなずいた。
「アクト君、残念という言い方をしたのは君と共命体の共命度、つまり繋がり具合というのかな、そのランクがルークやエマに比べて
柳生博士は頭を掻きながら申し訳なさそうに話す。
「ルークとレオンの共命度はS3、エマとノエルはその上のS2。できればA以上の共命度であって欲しかったというのが正直なところだ」
「その共命度が低いと戦えないんですか?!」
肩を掴んで博士に問いただす。
「いや、戦えないというわけじゃない。さっきも強さに直結すると言った通りガイファルドたちのソールリアクターの出力や合身状態の感度というのかな、反応速度とかそういったことに違いが出てくる」
「リアクター出力の予想値も出たのか?」
「ルークとレオンを100パーセントとすると、良くて70パーセント前後というところですな」
「それじゃダメなんですか? オレ努力します。どんな厳しい訓練もしますから。だから俺をここに置いてください!」
アクトは己が手で機械虫と戦えるチャンスを逃さないために必死に懇願した。そんなアクトにアーロンはこう言葉を掛けた。
「君が望むならもちろんここから追い出すようなことはしない。君が共命者になった以上その秘密や身の安全のためにここで厳重に監視、保護する必要がある。最初に3つの選択肢を提示したが、あれは冗談ではない」
「!?」
「1、ここで殺されて生涯を終える。それは君が死なない限りそのダブルハートは外すことができないからだ」
アクトはこの説明を受けて今の自分の状況を初めて理解した。
「君が共命者になったのは事故だ。だが、別の誰かにダブルハートを託すために君を殺して取り外すなんてことはできない」
アクトはこの額にハマったダブルハートの重さを今実感している。この力を使って自分の手で機械虫と戦い世界を守りたい、ライトとゼインの仇を討ちたいと。だがこの思いはもしかしたら軽いのではないか? 自分でない他の者に託せたなら、そのアクトの思いはより高い確率で完遂されるのではないか? 今までどんなことを言われても、どれだけ困難な目標であってもブレなかった思いが、今わずかに揺れていた。
「2、君が外に出たならばきっとあのピラーロボットたちがそのダブルハートを狙って襲ってくるだろう」
ガイファルドのことですっかり頭から抜け落ちていたことを思い出した。あのピラーロボットはなんなのか? なんでこのダブルハートを手に入れようとしているのか?
「何者かはわからん。ただガイファルドの秘密を知った者がその力を手に入れようとしているのは間違いない。その力を奪われないためにも我々は共命者の安全を確保する必要がある」
アーロンの言葉がさらに胸に突き刺さる。機械虫と戦いたい思いはある。だが共命度というものが望まれた値ではなく、戦いの足手まといになるなら、戦いには出ずにここに匿われていた方がいいのではないだろうか? そんな風に思い悩んでいるアクトに、エマは言った。
「例え共命度が高くなくても、あなたに戦う意思があるのなら共に戦うことはできると思う。前線で戦うわたしたちを後方支援してくれるだけでも助けになることは明白。ふたりより三人が良いに決まっているのだから」
「エマ……」
「そうだな、新しい武装なんかのテストモデルとしていろいろ協力してもらいたいし、貴重なガイファルドを寝かしておくのは勿体ない」
「それによ、いくら共命度がB1だって言っても対機械虫用防衛機動重機よりもこいつの方がよっぽど強いんだぜ。神王寺の仇討ちだって無理な話じゃないだろ」
『そうだ、迷う必要はない。共命者となった今、戦わないという選択肢はないというのはここに来たときに突き付けられたことだ。共命度が望むものではないとか、事故で共命者になったこととかはもう後の祭りでしかない。今はこの状況からどうするかを考えるべきなんだ。白い巨人がいれば戦える。これが一番の望みだったのだから』
アクトは改めて自分の意志を確認した。
「お願いします。オレもみんなと共に戦わせてください。それがオレの意志です」
みんながやれやれとばかりに笑い、アーロンはその目でアクトの意志を受け止めた。
「今より天瀬空翔は我々秘密結社ガーディアンズの一員として正式に迎え入れる。明日よりガイファルドとの合身テストを開始して、早期実践投入できるよう訓練もおこなっていく」
「「了解!」」
ルーク、エマ、レオン、ノエル、博士に白い巨人、そしてアクトは声を揃えて応えた。
「肩も自然治癒を促すのではなく積極的に取り組んでなるだけ早く戦闘訓練に入らないとな。アクトは格闘技素人なんだろ? 俺とエマで鍛えてやるから覚悟しろよ」
ルークはニカっと笑った。
「あぁ、望むところだ」
拳を突き出して返した。
「では、明日の九時から合身訓練を開始する。なので今日は早めに休むように。では解散」
アーロンの一言でみなそれぞれの場所に戻っていく。
「アクト、部屋に案内する。わたしたち共命者用の部屋は別にあるの」
「ありがとう、お願いするよ」
「あぁ、アクト君」
エマのあとに付いていこうとするアクトを博士が呼び止めた。
「大事なことをひとつ」
「なんですか博士?」
「明日までに共命体の名前を考えておくように! これ大事なことだから頼むよ」
「名前ですか? はい、わかりました」
『確かに名前がないと呼ぶときに困るしな』
巨人たちの部屋と思われるナンバーの付いたシャッターの奥に戻っていく白い巨人に向かってアクトは叫んだ。
「おーい、白い巨人。かっこいい名前考えてやるからな!」
その言葉に白い巨人は、
「期待して待っています」
と丁寧な口調で返した。
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