Scene3 -3-

  「ああぁ!」


  そこから現れたアクトの度肝を抜いたモノの正体、それはなんと正体不明の青い巨人だ。今やGOTに代わって機械虫に対抗する人類の主戦力ではあったが、その正体は謎のままだった。

  さらに青い巨人の隣りの部屋の中からは初めて見る女性型の赤い巨人が現れた。二体の巨人は五十メートルあまりの距離を数歩で到達し、目の前で立ち止まるとアクトを見下ろした。


  「巨人」


  巨体が生み出す無言の威圧感、未知との遭遇による思考の混濁。あまりの驚きにそれ以上言葉が出ない。だが、アクトは次の瞬間さらに度肝を抜かれる。


  「よう、アクト。俺はレオンってんだ。よろしく頼むぜ」


  巨人がアクトの名を呼んで挨拶したのだ。


  「わたしはエマの共命体でノエルです」


  その横の赤い巨人はノエルと名乗った。


  「この巨人はここで作られたロボットだったのか」


  最先端技術を超えるオーバーテクノロジーによって作られた神王寺コンツェルンの対機械虫用防衛機動重機たちをも上回る性能を持つ、世間で巨人と呼ばれるロボットが目の前にいる。それを管理するのは秘密結社ガーディアンズという謎の組織だった。この事実に驚きを隠せず巨人を見上げているアクトにルークが笑いながら否定した。


  「ロボットじゃない、共命体だ」


  「キョウメイタイ?」


  さっきノエルと名乗った赤い巨人がエマのキョウメイタイだと言っていたのを思い出した。


  「そう思うよな! 俺も最初はロボットだと思ったんだよ。だけど違うんだなぁこれが」


  「俺はロボットじゃない。ルークの共命体だ」


  レオンはアクトが言ったロボットという言葉を力強く否定する。


  「共命体は共命者と命を共にする者よ。わたしと彼女は命を共有しているの」


  ノエルと名乗った巨人はエマを指さした。

  命の共有? 言っていることはわかるがまったく理解できずにノエルが指さした先のエマにその疑問の答えを求める視線を送った。

  その視線の意図を察してかエマが応える。


  「わたしたちの命を繋いでいるのがこれ」


  エマは両手で髪を上げて額にある宝石を見せた。宝飾品に興味のないアクトでさえその美しさ、緻密さ、輝き、そして未知なるエネルギーを発しているような不思議なオーラ感じる。ルークも額のバンドをまくり上げる。


  「これはダブルハート。共命者と共命体の心と命を繋ぐ宝石」


  「命ってことは巨人たちは生物なのか?」


  「生物、生きてるけどナマモノじゃぁないよな?」


  ルークは言葉尻を上げてレオンに話を振った。


  「ルークは自分を構成する物質を意識するのか?」


  という返答するレオン。どうやらエマもノエルも上手く説明できないようだった。


  『駆動音や熱排気音が聞こえない。未知の技術により小型化した核融合炉だとすると排熱処理の問題が出てきてしまうか。GOTの機動重機も機密とされてるけどそれよりもずっと高出力だし……、命の共有とか言ってもそれは比喩であって、あくまで巨人を稼働させるためのキーなのかもしれない』


  エンジニアとしての血か、アクトの脳内では巨人についての推測がおこなわれていた。


  「アクト? そういったことはあとで専門家に聞くといい」


  エマは自分の世界に浸りかけていたアクトの意識を呼び戻した。


  「ああ、専門家がいるんだね。じゃぁもうひとつ確認したいんだけど、この宝石を持つ共命者が共命体である巨人に命じて戦わせてるってことでいいのかな?」


  「いやいや、俺たちはレオンやノエルを戦わせているわけじゃないんだ」


  「ん?」


  ルークの言っている意味が分からずアクトの頭から疑問符が飛び出す。


  「だからレオンを戦わせているんじゃなくてレオンと一緒に俺も戦っているんだよ」


  アクトはレオンを見上げる。


  「それって、ルークがレオンに乗り込んで操縦しているってこと? ロボットじゃないんだろ?」


  「うーん、操縦とは違うな。俺がこんな風に動くとレオンも同じように動く。つまり俺自身が戦っているわけだ」


  ルークは左右のパンチを打って見せた。


  「何それ、ルークが動いた通りにレオンが動くの? モーショントレースしてリモートコントロールしてるってことか!」


  「モーショントレース、まぁそれに近いんだが……」


  「説明するより自分で体験してみる方がわかりやすい」


  上手く説明ができないルークの言葉をエマがさえぎった。


  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


  再びシャッターの上がる駆動音が響き、今度はⅢと書かれたシャッターが開いた。同じように倉庫の床を響かせて力強い足音で巨人が現れた。


  「あいつはあのときの白い巨人」


  「彼があなたの共命体」


  「オレの、共命体」


  アクトの額にダブルハートがあるということは、アクトの共命体が存在するということだ。それが白い巨人である。白い巨人はレオンやノエルと違って鎧のようなものを付けてはいなかった。突起の少ないヘルメット状の物を被り、ダイバースーツっぽいピチッとしてスーツを着ている感じで、すべてが真っ白だった。

  白い巨人はアクトの前までやってくると片膝を付いて座り顔を近づける。


  「あ」


  何か言おうにも言葉が出てこない。だが白い巨人の目を見ていると何かが伝わってくるような気がした。しばし見つめ合うアクトと白い巨人。このまま黙っているのもなんなので、とりあえず挨拶をしようとアクトは思った。


  「初めまして、アクト」


  その思いに先んじて共命体から言葉が発せられた。


  「は、初めまして!」


  虚を付かれてしまい裏返った声で挨拶を返す。


  「彼は物腰柔らかいんですよー。ルークの共命体と違って」


  ノエルが皮肉っぽく言った。


  「柔らかすぎて闘争心が感じられねぇよ。こいつは戦えるのか?」


  レオンがノエルに言い返す。


  「共命体は共命者の本質や潜在意識を映し出す。つまり、他人に見せている自分じゃなく、それが本来の自分だったりそういう自分でありたいと強く望んだものだったりするんだ」


  視線を落とすと白い巨人の下に眼鏡を掛けた中年の男性が立っていた。


  「博士お疲れ様です」


  エマが静かに挨拶する。


  「博士、お疲れ」


  ルークは軽く挨拶をする。


  「彼はガイファルドたちの父、柳生だ。ロボットで言えば製造者に近いメカニックということになる」


 アーロンが視線で柳生博士に自己紹介を促した。


  「改めましてこんにちは、天瀬空翔くん」


  「こんにちは」


  ここに来て何度目かの挨拶をする。


  「ガイファルドについては僕になんでも聞いてくれ。彼らに関するすべてのことは僕の管轄だからな」


  博士は中指で眼鏡を上げてレンズを光らせた。


  「あのガイファルドっていうのは?」


  「ガイファルドとは君が巨人と呼んでいる彼らの呼称だ」


  Gigantic

ギガンティック

  Ability

アビリティ

  Invincible

インヴィンシブル

  Fighting

ファイティング

  Assist

アシスト

  Living

リビング

  Doll

ドール


  【巨大な、能力を持った、無敵の、戦いを、支援する、生きた、人形】


  「正式な名称は不明だったから彼らの特性を英語に変換してアクロスティックによって【GAIFALD】とした。まぁ趣味で付けた仮称がそのまま浸透してしまったんだけどね」


  そう言いつつも博士はそのネーミングに満足気な表情だった。

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