Scene11 -9-

「やったぜ、セガロイドを倒した」


 肩を貫いた槍を引き抜いて投げ捨てたレオンは一歩踏み出したところで膝を付いた。


 フォースを使った全開の三連撃は初めてのことで、連撃ともなれば予想を超えてレオンを消耗させた。ノエルもレオンと同様にしゃがんだ状態のまま立ち上がれない。


 フォースバーストは言わずもがな、大量のフォースを放出した直後に回復を待たずしてフォーリーフ・クローバーを使ったことで、めまいを起こすほどの状態に陥っていた。


 やはり戦闘力はセガロイドの方が上であり、フォースを酷使した攻撃と作戦がハマったことでの勝利だった。


「このあとは虫共をやらないといけないし、トドメを刺しておかねぇと」


 ゆっくりとした動きで急ぐレオンは大の字で倒れるウォリアーのそばに立って左手に残ったフォースをかき集める。


「こいつの仲間が他にいないことを祈るぜ」


 第四位だというウォリアーでこの強さだと思うと、きわどい戦いをした直後ということもありレオンは肝が冷える思いだった。


 そんな思いからトドメの一撃は残りの力をすべてを注いで振りかぶったその手を胸に打ち下ろした。傷ついたウォリアーの胸部に接触したフォースが激しく弾ける。それによってウォリアーは爆発し吹き飛んだかに思われたのだが、レオンの腕は胸部に当たる直前で赤熱した手でガッチリと受け止められていた。


「こいつまだっ?!」


 両手の高エネルギーによってレオンの左腕に装備されたピンポイントガーダーの手甲が握り潰されていき、溜まらずその腕を引き抜いてレオンは尻もちをついた。


「ぐうっ」


 ガーダーの接合部はひしゃげて握った手形の跡がくっきりと残り、生体装甲も砕いて素体までも損傷が及んでいた。


「(危うかった。よもやお前らがギソーン級だったとは。以前はあまりの弱さに確認すらしなかったが、その輝きを見るまでは夢にも思わなかったぞ)」


 ガイファルドたちの額にあるダブルハートの色はその階級によって異なっている。赤い宝石は第二位のガーディアンの証だった。


 脇腹を抑えて立ち上がったウォリアーは少し体を動かして状態を確認していた。


「(バトルモードへ変更しなかったらもっと手痛いダメージを受けていただろう。だからここからは今までのようにはいかんぞ。オルガマーダの戦士は未熟のようだがバドルがギソーン級だと言うなら全力でかからなければな)」


 目に見えない力が広がりフォースフィールドの弱まったガイファルドたちの体に圧力をかけた。


「あきらかに雰囲気が変わりやがった」


「今の私たちのフォースでは破るのが難しい」


 ダメージはともかく消耗の少ない セガロイドは自身の持つ動力炉のリミッターを外したことで、今までに倍する力場を生み出した。


「(さぁ、もう一度抗って見せろ。オルガマーダの人形たち)」


 その驚異的な力に当てられながら二体のガイファルドは力と気持ちを振り絞って立ち上がる。イカロスでは撤退を考え司令の指示を待っているところだった。


「セイバーのプログラムインストール完了しました。セイバーを救援に」


「いや、今セイバーを行かせても状況を変えるには至らない。司令もきっと撤退を選択するばずだ。イカロスで支援に向かう。限界高度まで降下してガイファルドたちを回収する準備だ」


 博士がそう指示したとき。


「アクトとセイバーの合身を確認」


「なんだって?」


 セイバーが目を覚ましたことでアクトはすぐに合身を済ませて救援へ向かう準備を開始しした。


「ブレード・スタイルに換装完了。セイバー発進します」


「待て、アクト君。まだ司令の指示が」


「状況は悪化してます。待っている時間はありません」


 セイバーは言葉を待たずに飛び降りた。幸いイカロスはガイファルドの回収のために接近していたのでその加速に乗ってセイバーは急降下して戦場へと向かっていった。

 

 地上ではバトルモードを解放してより強力になったウォリアーと著しく戦闘能力を下げた二体のガイファルドが戦っていた。いや、もはや戦いではない。二体のガイファルドはかろうじて攻撃に耐えているだけだ。


 右肩を貫かれたレオンは弱まったフォースによってその傷の修復が遅れ、左腕もウォーリーアの赤熱した手によって握り潰されて使えない。ノエルはオプションスタイルを失って兵装はダガーのみ。


 そんな状況の中で戦いながら、ノエルは打開策を模索していた。


『もしこの不利な戦況を打破する策があるとすればセイバーを含めた三体での共闘。でもすでにわたしたちに余力は残っていない。イカロスに残ったオプション・スタイルで一番効果がありそうなのがガン・スタイルで放つフルバースト。でもそれは撃てても三発。それもわたしのフォースがあったとして。レオンにはもう決定的な攻撃を繰り出せない』


 今打てる手を必死で模索するエマだったがどれもウォリアーと戦いにすらならないものだった。例え今A国軍の大戦力が集まってきても先ほどまでと雰囲気が一変したセガロイドには太刀打ちできないだろう。それほどにバトルモードとなったセガロイドの力は圧倒的だった。


『やはりなんとかできるのはわたしたちだけ。でもそれは完全完調でなければ……』


 ”不可能”という言葉を使うことを拒むことが、今のエマにできる精一杯だった。


「メテオストラーイク!」


 レオン同様に上空から落下してきたセイバーの攻撃をウォリアーはひらりとかわして見せた。レオンよりも派手に大地を破壊たセイバーはブレードロッドを抜き放ってウォリアーと対峙した。


 バージョンアップしたセイバーは両腕に手甲のような小さな盾が生成されており、腕の付け根の形状が少し変化していた。よく見れば太もももひと回り太くなるなど細かな部分も変化している。


「待たせたな」


「あぁ待ってたぜ」


 「うん、待ち過ぎてもう普通のやり方では戦況をひっくり返せる手段がない」


 セイバーも以前と雰囲気の違うウォリアーにノエルの言葉が冗談ではないのだと察した。察してなおセイバーは前に踏み出した。


 打ち下ろしたブレードロッドを受けられた手ごたえ。それに対する反撃の反応。下がって距離を取ったセイバーとの間合いの詰める速さ。繰り出した攻撃の鋭さと重さ。立っているだけで気圧されそうな力場。どれを取っても勝る要素が見つけられない。いつものように心と体がしびれる感覚がアクトを襲う。ノエルが「手段がない」と言い切っただけのことはある。


「(最弱の貴様もギソーン級だったとはな。この時代のバドルは軟弱だ)」

 そのしぐさからなんとなく言っていることを感じ取ったアクトの心に小さな火がチロリと灯った。


「こいつに勝てる可能性はふたつある」


 ノエルがあらゆる手段をシミュレートしたが有効な手はなかった。それをセイバーはふたつもあるというのだ。この言葉にレオンもノエルも驚き疑い、そして小さな期待を持つのだった。


「あの力か?」


 レオン言った”あの力”とは、無理だろうとノエルが手段から外したモノだ。


 セイバーは無謀とも思えるアタックをおこなった。一歩間違えれば一瞬で終わりかねない行動だったが、攻撃しなければ勝利することはできない。アクトが言ったふたつの手段の内のひとつは、レオンたちが期待する”あの力”である。


 ソールリアクターが高出力を叩き出すあの現象であれば、セイバーの身を引き換えにウォリアーを倒すことが可能だろうと予測できる。だが、残念ながらアクトの意志で発揮できるものではなかった。


「あっ!」


 ノエルが声を上げたのはウォリアーの拳があわやセイバーの頭に直撃すると思われたからだ。セイバー自身も肝を冷やし踏ん張った膝がガクリと崩れる。それが幸いして追い打ちの攻撃も偶然回避することができた。


 この無謀な戦い方は自分を追い込むことで”あの力”が発揮することを期待するための行為だった。


 きっと今回ならすんなりと撤退することは可能であったはずなのだが、可能性を残して撤退してしまえばまた次も同じような選択をしてしまい、この者に勝つことはできなくなってしまう。そうなるのではないかとアクトは不安を抱いていた。


 一撃でもクリーンヒットすれば戦闘不能になりかねない。そうなれば強制的に撤退となる。もちろん生きていられればだ。


 身を裂かれるような思いと逃げ出すものかという思いがせめぎ合う中で、いつしかセイバーはウォリアーの強さに順応し始めていた。


「セイバーのリアクター出力が少しずつ上昇しています」


 オペレーターの言葉に隊員たちの期待が膨らむ。だが博士はそれを冷静に分析していた。


「いや、これはあのときとは違う。純粋にアクト君がセイバーの力を引き出しているんだ」


 ギーーーーン


 セイバーが振り下ろしたブレードロッドが弾かて地面に突き刺さる。反撃の上段蹴りがショルダーシールドを蹴り抜いてセイバーをレオンの足もとまで吹き飛ばした。


 駆け寄ろうとするレオンだったが追い打ちをかけるウォリアーの動きについていけない。素早く立ち上がったセイバーは予備のブレードロッドを抜くのだが、再び弾かれたのち前蹴りを受けて横転する。


 どうにか保たれていた均衡が崩れ始めた。


 このまま戦っていても勝算はない。あるとすれば”あの力”の発現だが、自分の意志では無理なのだ。なのにセイバーは歯を食いしばって粘っている。その意図とは?


 三本目のブレードロッドを構え突進してくるウォリアーの攻撃を掻い潜り、振り切った攻撃が浅いながらも脇腹にヒットする。そこがこの戦い限定のウォリアーのウィークポイントだ。


 ほんのわずかな勝機を見出したとき、


「強行型決戦兵装完成だ!」


 剛田の叫びは艦内とガイファルドにも轟き、 博士の眼鏡がギラリと光る。


「強行型決戦兵装バルサー、緊急発進!」


 完成したばかりの起動装甲戦闘機がカタパルトデッキへと運ばれていく。


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