Scene11 -10-
戦闘機としては大型の機動装甲戦闘機バルサー。強行型決戦兵装と呼ばれる機動装甲戦闘機がカタパルトに乗せられた。
イカロスの射出ハッチがオープンするとスリーカウントで射出され、搭載された簡易AIによってセイバーの支援へと飛び立った。
剛田や博士の覇気ある声を聞いたノエルとレオンだったが、イカロスから射出された強行型決戦兵装の戦闘機がこの状況を覆す一手になるとは到底思えなかった。
考えられるとすれば上空からの支援攻撃、もしくは高火力による殲滅兵器の搭載だ。もしセガロイドが飛行可能だとした場合でも高機動による空中戦で優位に戦えるならとノエルは戦略を立てた。
地上ではガイファルドが、空中ではバルサーが、という三次元攻撃によって起死回生が狙えるかもしれないが、それもレオンとノエルが完全だった場合に限られる。
そんなことに思考を裂いているふたりに、膨大な音量で剛田からの指示が飛んできた。
「30秒時間を稼げ! 死ぬ気で奴を抑えてお前たちは絶対に死ぬな!」
「おやっさん。今の俺たちには難しい注文だな、おい!」
「30秒、了解」
だが、ふたりは躊躇(躊躇)することなく行動に移った。
バルサーがマシンキャノンによる牽制したことを皮切りにイカロスが爆撃する。それに乗じて二体のガイファルドが突進し、わずかに回復した力でフォースフィールドを展開して決死の時間稼ぎが開始された。
「いくぜ、機甲合身!」
『「「機甲合身?!」」』
セイバーの叫びを聞いたイカロスの隊員とガイファルドの二体は、機甲合身という聞きなれない声に反応する。
「八島くん、合身オペレートのマニュアルとプログラムだ」
博士はコンソールのキーボードを叩いて八島にデータを転送した。
「こんな土壇場でー!」
泣き言を言いながらも八島は送られてきたデータを開いてマニュアルに目を通して合身フェイズを確認。その都度のオペレートプログラムを現状のセイバーとバルサーに当てはめる。
「オペレート開始します」
降下してきたバルサーが逆噴射を掛けて速度を落とし上向きに転身する。そこへ向かってセイバーが飛び上がった。
「合身フィールド展開」
スラスタージャンプで飛び上がったセイバーが目に見える特殊なフィールド形成してバルサーを引き込んで空中で静止する。
「バルサー、機甲合身モードへ移行します」
バルサーが機体を開くように変形してセイバーの下方から背面へ上昇してくる。
八島はセイバーの行動に合わせてバルサーの物理的な微調整をおこない、同時に博士はバルサーが実行するプログラム自体の微調整に集中していた。
「ブーツ展開、衝撃緩和システム作動OK」
セイバーの両足がバルサーへと挿入された。
「ロック完了」
続いてセイバーの両腕が肘からたたまれて、腕の付け根から背部に移動する。バックパックスラスターに被さるように機体が上昇して、背中と腕の付けにドキング。
「疑似神経接続開始」
機首が背中に折りたたまれ、残った部分が背中から胸部を覆って装甲板となる。
「(なんだあれは?)」
決死の覚悟で時間を稼ぐレオンとノエルをあしらいながら、ウォリアーは今までに見たことのないガイファルドの変化の様子を見上げていた。
頭部へ強化装甲が被さり手甲が上方へスライドすると解放された手が開かれてから力強く握り込まれる。
あまりのウォリアーの緩慢な動きにレオンとノエルもついに視線をセイバーへと向けてしまう。
「おいおい、まさかあれって」
そう、レオンだけでなくこの場に居る、いや超望遠で撮影された映像を見る世界の人々が思う。
両足で大地を踏みしめたその者が溜まった力を解放するように雄叫びをあげた。
「バルッ、セイバーーーー!」
怒号のごとき声は広大なA国大地のエリア132に響き渡った。
「機甲合身? バルセイバーだ?」
レオンよりもひと回り大きくウォリアーとほぼ同等のサイズとなり、今までにない威圧感を発するバルセイバー。
強行型決戦兵装とはオプション・スタイルのデータを元にそれぞれの共命体に合ったスタイルを特化させた兵装の総称。機動装甲戦闘機であるバルサーはセイバー専用の特殊強化外装であり、その機動装甲戦闘機が変形し、セイバーと機甲合身することでバルセイバーになるのだ。
「(なんだ、どういうことだ。飛行兵器とひとつになっただと?)」
変形合体などというヲタク心をくすぐるような非効率的なものを始めて見たウォリアーは大分混乱していた。このことにどんな意味を持つのか理解できずに思考ループに近い状態だった。
だが、突如眼前に迫ったバルセイバーによって豪快に殴り飛ばされたことで、ようやく思考のループから抜け出す。理屈はよくわからないがあの行為によって最弱だと思っていたオルガマーダの人形は、自分と同等の力量へと能力を向上させたのだと。
「殴り飛ばしやがった」
「わたしの分も殴っていい」
合身によって倍するほどの重量となったセイバーだったが、フォースインパルスドライブブースターによって直線的な加速であればセイバーとさして変わらない。その加速を乗せた剛腕を受け、ウォリアーは久しく感じていなかった戦いの喜びが溢れ出してきていた。
「機甲合身した感じはどうだ?」
セイバーは殴り付けた拳と合身した体を改めて確認する。
「正直これといって力が漲るとかはないんですけど、はち切れんばかりに気分は上々です! 合身中に腕の付け根とひざ下あたりに痛みがありましたが、今はほとんどありません。ただ両腕と足先の感覚が薄いですね」
「それは疑似神経の問題だろう。完成したばかりで調整ができていないからな」
「ならこいつをぶっ飛ばして戻ったらお願いしますよ」
アクトが感覚の薄い拳を握りしめると、バルセイバーの拳もギリギリと音を立てて握られた。
「これで対等。勝負だ!」
「(面白い、戦いとはこうでなくてはな)」
バルセイバーが一歩踏み出すとウォリアーも前に進み始める。二歩、三歩と進み、四歩、五歩と大きく踏み込んだ二体の巨人は互いの顔面へと拳を撃ち放った。
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