Scene11 -7-
「何をしているんです。戻ってください!」
無謀にもセガロイドに向かって行くガンバトラーにガードロンが叫ぶが、ガンバトラーは振り返りもせず走っていく。
『同盟軍の支援に向かうのが正解だ。だが、ライトなら、ゼインならきっと目の前で一方的にやられている彼らの見過ごすわけはない』
「それ以上はさせん!」
射程距離まで走り寄ったガンバトラーは両足を踏ん張り強い意思を込めて右腕に装備した二連装ビームキャノンを撃ち放つ。
射撃制度の高いそのエネルギー弾がウォリアーに向かって飛来するが振り向きざまに左腕で弾かれた。
動きを止めたセガロイドに向けてヘリ部隊はミサイルを一斉掃射。ミサイルはウォリアーへと着弾して次々爆発し黒煙を上げるのを見て、ガッツポーズを決めて叫ぶA国軍兵士。直後その彼らに向けて通信が入り、兵士たちの表情は悲痛なものへと変貌した。
「まだだ、まだ終わってない」
黒煙に向かって接近し左腕のガトリングガンを撃つガンバトラーに向かって戦車砲が撃たれ、その衝撃を受けて吹き飛んだガンバトラーは膝をつく。
日本のGTO本部で戦いをモニターしていた者たちが声を上げた。
「GOTの機動重機に告ぐ。直ちにエリア132から退去せよ。この警告を無視した場合は実力によって排除、または破壊する」
A国軍は支援に入ったガンバトラーを砲撃して警告してきた。
「しかし、貴国の戦力だけではその巨人を止めることは難しい。私に協力させてくれ」
ドンッ
再度火を噴いた戦車砲が胸部へと命中してガンバトラーは仰向けに倒れる。
「(なんだこいつらは味方ではないのか?)」
ウォリアーは支援に駆けつけたガンバトラーを攻撃するA国軍を見て不可解に思う。
「(やはりオルガマーダは理解できん)」
ヘリ部隊へ向かって跳んだセガロイドは槍の一振りでヘリを一機破壊し、再度スラスターを噴射して上昇するともう一機も貫いた。
それを見て両肩のキャノンを撃ち放ったのはガンバトラーだ。
四つん這いのままA国軍を圧倒するウォリアーに向かって攻撃するのだが、返ってくるものは感謝の言葉ではなく無機質な戦車砲やガトリング砲の嵐だった。
「ガンバトラー、エリア132から退去しなさい!」
GOT司令官の神王寺翔子は大きな声で通信機に向かって指示を出す。それでもガンバトラーはそのエリアに留まってセガロイドに攻撃していた。
「なぜです? このままではそこまでしてA国軍を助ける必要はないのに」
それはガンバトラーのAIに対するメンタルサポート不足からきていた。いや、メンタルサポートはしっかりおこなってはいたが、それでも改善されないほどのストレスだったということだ。
ライトとゼインを失ったショックに重ねて、彼から現場指揮権を引き継いだストレスにより、少しずつ思考システムループ現象が起こっていた。その現象は普段は現れないため通常チェックでは拾うことができず、ループから脱出するたびに感情システムコントローラーにゴミか蓄積していた。
そのゴミは蓄積するうちに独自のプログラムのように感情システムに小さな干渉を与え、それが処理を妨げたり、感情に別のベクトルを与えていた。
A国の攻撃を受けつつもガンバトラーはセガロイドに向けて攻撃を続けるのだが、現代兵器に対して強固な装甲を持っている機動重機とは言え、多くの被弾によって少しずつ損傷していた。
その様子をしばらく見ていたウォリアーもかなりの被弾をしてはいるのだが、見えない壁によって守られており、ダメージの跡は見受けられない。
「(なんと醜い)」
槍をぐるりと一回転させたウォリアーは先ほどよりも荒々しい槍さばきによって弾丸砲弾の雨を物ともせずに戦車を斬り裂き、ヘリ部隊を撃ち落していった。
「くそっ!」
フラフラと立ち上がったガンバトラーであったが、支援攻撃の甲斐もなくこの付近のA国軍の戦力の大半は壊滅されてしまった。その状況に歯噛みするガンバトラーの前にウォリアーが歩み寄ってきた。
「(なぜ貴様は奴らを守るために戦うのだ? その奴らの攻撃を受けて貴様はそのざまではないか)」
「これ以上お前の好きにはさせんぞ!」
「(だが、信念を持って戦う貴様は真の戦士であると認めよう。貴様の望みは俺を倒すことだろ? その挑戦受けてやる)」
「この身にかえてもお前を止める!」
「(さあ、全力でかかってこい」
その言葉に込められた意思が伝わったかのようにガンバトラーは攻撃を開始した。
オーバーテクノロジーを使った現代科学の結晶である機動重機ガンバトラー。バージョンアップを重ね現在の総合性能はライゼインに匹敵する。ただそれは中遠距離での優位性がライゼインよりも高いためであり、格闘戦ではやはり不利と言わざるを得ない。
相対するこの古代の科学力によ造られたであろうセガロイド。ガーディアンズによってウォリアーと名付けられた個体は、接近戦が戦闘スタイルだ。
ガンバトラーは終始距離を取って射撃するのだが、ウォリアーの運動性と機動性は非常に高く当たらない。だが、余裕を持ってかわしながらも距離を詰めてこなかった。
『やはり当たらないか』
ガンバトラーは距離があるときは大型ショルダーキャノン、接近してきたときは二連装ビームキャノンとガトリングガンで攻撃。
壊滅状態のA国軍は現在沈黙しているが、きっと大戦力がここに向かっているはずである。その援軍が到着すればまた攻撃を再開してくるだろう。
戦力が増強されるまでにこの巨人に少しでもダメージを与えられれば勝機はあるとガンバトラーは踏んでいた。
「(やはり機動力は大したことはないな。出力に対して重すぎる。その上重武装。バランスが悪すぎだ。火力もあれが最大なら取るに足らん。オルガマーダが造りしモノとしてはバドルには遠く及ばんな)」
相手を分析し終えたウォリアーは今までとは違う動きを見せて回避と接近を瞬時におこなった。その動きに照準と射撃が間に合わないガンバトラーは、とうとう接近を許してしまう。
「(これで終わりだ)」
槍のひと突きがガンバトラーの装甲容易くを貫いた。
「?!」
だがそれは肩の大型装甲のひとつであり、ガンバトラーは体の動きを隠すようにあえてその装甲を差し出したのだ。
『スピリットリアクターオーバーロード!』
リアクターに多大な負荷がかかるオーバーロード。出力アップによて十数秒だけ機動重機の性能を底上げする奥の手、というより禁じ手だった。
「(罠か!)」
ウォリアーに及ばないまでも急激に増した機動性によって大型のショルダーアーマーをで視界を塞ぎ死角に入る。
視界を塞ぎ回避して距離を取り、最大火力を叩き込む作戦だろうと思ったウォリアーだったのだが、ガンバトラーは背後に留まっていた。
「ハンマーナックル!」
腕に折りたたまれた二連装ビームキャノンの重量も加算されたスピリットリアクターのオーバーロードによるハンマーナックルがウォリアーの脇腹に炸裂した。
バージョンアップによってゼインと同じ近接格闘武装であるハンマーナックルを追加していたのだ。
インパクトと同時に前腕に装着されたリングが前方にスライドして衝撃を倍増させた。
「もう一発!」
ガトリングガンの外された左腕から繰り出された拳も振り向いたウォーリアの脇腹へ衝撃を与える。
「サンダーボルト!」
これもゼインと同様の武装である。
ブーストされた大出力の電撃がウォリアーへと流れるとガンバトラーの左腕の機構が耐え切れずショートして煙を上げた。
「まだまだ!」
後退しながら二連装ビームキャノンと大型ショルダーキャノンの照準付け、さらに脚部や背部のミサイルコンテナを展開。
「フルバースト!」
ありったけの弾薬とエネルギーをウォリアーへと撃ち込んだ。
オーバーロードさせたスピリットリアクターを使うことでGOTの機動重機単体での最大の火力を発揮する。
『二連装ビームキャノン、ショルダーキャノン、サンダーボルト使用不能。ミサイル残弾なし。リアクター出力72パーセント。各アクチュエータークラスCの損傷。右腕部フレームに四パーセントの歪(ひず)み発生により精密射撃に問題あり』
自己診断によって状態の確認をおこなった結果、機体の損傷はともかく武装の損害と消耗が大きい。この状況ではこのあとに続く機械虫群との戦闘は不可能である。そうガンバトラーが判断したとき。
ピッピー
警報の情報がAIへ伝達された。いまだ立ち込める爆炎の中にゆらりと影が動く。
それを見ても動じることはなかったのは、今の攻撃で破壊できるとは考えていなかったからだ。問題はどれだけのダメージを与えられたのか。
「(不意を突いたいい作戦だ。油断したつもりはなかったがな。手を抜いて様子をうかがっていたいたのか? それとも一度きりの奥の手を使ったのか?)」
もちろん後者である。オーバードロードによる過負荷で全身の機構も武装もリアクター自体も損害を受けてしまっていた。
それに引き換えウォリアーは見た目でわかるようなダメージはなかった。
今にも倒れそうな体を起こして一歩二歩と前に出るガンバトラー。
「(貴様は大した戦士だ。オルガマーダなんかのために戦うのは止めて俺と来ないか?)」
軋む体を動かして構えるガンバトラーは使用不能になってしまったすべての武装をパージする。
「ライゼインはどんな状況でも諦めはしなかった。ならば、おれも諦めるわけにはいかん」
残された武装は壊れかけの左右の拳だけ。明らかに不得手な格闘戦を挑むガンバトラーに対してウォリアーもその拳のみで迎え撃った。
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