Scene11 -6-

  「到着まであと五分。機械虫の第三派と同盟軍の第二部隊と第三部隊が交戦を開始しました」


  超速機動揚陸艦イカロスの館内に流れる放送を聞いた共命者は張りつめていた気持ちを少しだけ緩ませた。本来なら逆に気を引き締めるところだが、この放送がセガロイドの出現を知らせるものではなかったからだ。


  アクトは新兵装に合わせたバージョンアップのためにプログラムのインストールで動けないセイバーのそばに来ていた。


  「焦るな。奴が来なければセイバーの出番はないんだ」


  焦る気持ちを落ち着かせようと口にするが、早く終われと心の中で何度も唱えている。少しでも落ち着こうとペットボトルで給水していると、


  ビーーーーーー、ビーーーーーー


  けたたましい警戒音が鳴り響く。


  「セガロイド出現! 上空より降下中。場所はエリア132の西部でA国軍と機械虫第一派が交戦しているポイントの近くです」


  「来やがったか」


  レオンは左右のガントレットを叩き合う。


  到着まであと四分のところでついにセガロイドが現れた。


  セガロイドはスフィンクスと呼称される機械獣から飛び降りて地表を目指す。地表付近でスラスターを吹かして減速するとゆっくりと大地に降り立った。


  一ヶ月前にガイファルドたちとの戦いで失った右腕も修復され、くすんでいたボディーもキメ細かく深い落ち着きのある色で光を受けていた。


  「(ビストールたちがここに何か発見したのか)」


  エリア132の内地に降り立ったウォリアーと呼称されるセガロイドは四方で交戦する機械虫と人類の戦いを見回した。


  「(ん、あれは)」


  一番近い戦場に何かを見つけ、腰部と背部のスラスターを展開。高速で地表を滑るように飛ぶウォリアーは、目的のモノに向かってぐんぐんと迫っていた。


  「(あれはバドルか。ならば先日の決着を付けてやるとしよう)」


  ピッピー、ピッピー


  警戒信号がガンバトラーとガードロンのセンサーから発せられ内蔵されたレーダーが示す方向へと意識を向ける。


  広がる空と大地の地平線に砂煙が立ち込め、その発生源が警戒信号の主であることを確認した。


  地表を時速四〇〇キロメートル以上の速度で移動できる物はそうはない。データ照合で三体の巨人たちでないことを確認した機動重機は、一旦目の前の機械虫と距離を置いて照準をそちらに向けて警戒態勢に入った。


  十数秒後機動重機たちの前に現れたセガロイドは大きく一度逆噴射して速度を落とし、ゆっくりと減速して大地に足を付く。


  「データ照合。対象は二十八日前E国領土のピラミッド周辺で目撃された新たな巨人と一致。三体の巨人と戦闘行動をとったことから、敵対行動を取る可能性大」


  すぐにガードロンやサポートツールロボと情報を共有して臨戦態勢へと移った。


  「(おまえたちはバドルではないのか。この時代の機械人形のようだな)」


  ガンバトラーたち機動重機がガイファルドではないことを確認したウォリアーは再度辺りを見回した。


  「おい、お前は何者だ。どこの国の所属だ。攻撃の意志を見せた場合は直ちに攻撃を開始する」


  ある程度定型的な言葉で警告したガンバトラーに対してウォリアーは視線を向けて一歩前へと踏み出した。


  「(貴様らはバドルの仲間か? やつらはどこにいる?)」


  互いに意思疎通の取れない言語で言葉を発するがそれが逆に警戒心を高める。


  「動くな!」


  一歩後ろに後退したガンバトラーは威嚇射撃も考えてバックパックから伸びるショルダーキャノンへと動力の伝達を開始した。するとA国軍が発砲を開始し、ウォリアーの周辺へ次々と戦車砲が着弾する。


  不可侵領域のエリア132へ直接降下して表れた所属不明の人型兵器と思しき者に対して、A国は即刻攻撃を開始したのだ。


  それを見た機動重機たちは巻き添えを食わないように二歩三歩と後退するのだが、ロックオンされているウォリアーは動かない。


  土砂が巻き上がり視界が悪くなったとき、一発の戦車砲がウォリアーに直撃した。

  機動重機たちとほぼ同じ二〇メートル弱の巨体がグラリとよろつき、広がる煙からチラリとその姿が見えたとたん。


  「(まずはあれから黙らせるか)」


  噴射されたスラスターによって加速した勢いで煙を散らし、A国軍の高機動戦車部隊に向かって走り出した。


  「待て!」


  ガンバトラーは追いかけようとするが、すぐにその行動選択に対してキャンセルの指令を自らに発する。なぜなら、今いる場所から数十メートル先はエリア132の境があるからだ。


  戦車部隊に襲い掛かるウォリアーは背中に背負った二本の棒を繋ぎ合わせて槍として、A国の不可侵領域へと突入し、そのまま戦車隊部隊へ攻撃を開始。高速で接近するウォリアーに戦車砲を当てることは容易ではなく、サブウェポンであるガトリングガンを撃つのだが、あっという間に距離を詰めた古代の巨人兵器が槍を振り回し、その回数だけ戦車は破壊されていった。


  「やめろ!」


  戦車部隊への誤射を気にして自慢の遠距離火力兵器を使えないガンバトラーは数歩前に進んだところで足を止める。


  『どうする。エリア内はA国軍に任せて我々は続く機械虫群を相手にするべきか。それが正解のはずだ』


  同盟軍で苦戦している部隊もあるのでそちらの支援に向かうという選択肢もある。だが目の前に蹴散らされるA国軍を放っておいていいものだろうかという考えが頭を離れなかった。一歩踏み込めばGOTでさえ攻撃の対象にされかねない。


  『そうさ、ここはA国軍の指示に従うべきだ』


  そう結論付けたガンバトラーは機動重機隊に同盟軍支援の指示を出す。


  「了解しました」


  指示を受けたガードロンはサポートツールロボを連れて苦戦する同盟軍の支援へと向かった。


 『そう、これでいいんだ』


  そう言い聞かせてガンバトラーも支援へと向かい移動を開始する。しかし、その向かった先は、


  「ガンバトラー?!」


  異変に気付きガードロンが振り向くと、ガンバトラーは同盟軍ではなくエリア132内のA国軍の支援へと向かっていた。


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