Scene10 -8-
「役者が揃ったようですので早速始めましょう」
そう言って彼らはコンソールに向かいキーボードを叩いた。
博士に何か言いかけた長谷川だったが口をつぐんでモニターに目を移す。
「今朝開始して深夜に精製が完了したこのラボの集大成、超合金ガンドラニュームZα改です」
「そんな名前じゃないだろ」
と小声で突っ込んたことは無視してリンは続けた。
「見てくださいその性能を」
分析結果がスクリーンに表示される。
「既存の超合金ガンドラニュームZαと比べて硬度で九パーセント、強度で十四パーセント、耐熱温度三四〇〇度から三八〇〇度へ。でも残念ながら重量は二パーセントアップ。という結果です」
博士も剛田もアクトも「おー」と、当初予想していた数値を上回る完成度に驚きと満足の声を発した。
「凄いじゃなかリン。これなら機動重機の強化計画も予定通りやれそうだな」
「凄い? これが凄いっていうならそれはここで働くすべての人たちがってことだよね。私たちはそのひとりに過ぎないよ」
リンの言っていることはもっともだが、リンの頑張りは本物である。
ミスもあったがこれだけの精度で装甲強化ができたのはリンの功績であると上司の長谷川も認めていた。
「この装甲材で機動重機の強化をすればライゼインを倒したA級にも太刀打ちできますか? それよりも強い新たに現れた奴らに勝てますか?」
いつもよりも低い声で話す彼女に誰も即答はしない。
ライトが搭乗するライゼインならともかく、これで他の機動重機がA級と渡り合えるかと言ったらそうとは言い切れない。
「納得いくような性能だと言えますか?」
例え一パーセントでも性能アップするのは喜ばしいことだが、A級機械虫に勝てるかというような具体的なことを言われると安易に勝てるとは答えられなかった。
「そう……、そうだよね」
うつむくリン。予想を超える完成度であり、リンが倒れるほど頑張った結果は『A級機械虫に勝てるかどうかはわからない』というものだったのだから、今のリンの心情は複雑だろう。
しばしの沈黙の中アクトは思い出す。
【度肝を抜け!】
リンから届いたこのメッセージだ。
そのとき、リンが顔を上げてギョロリとした目でアクトを見る。
「そうです、こんな既存の物に毛が生えた程度の同世代品など、これからの戦いにはついていけない骨董品です!」
突然のリンのハイテンションに一同仰天。
「これを見てください」
新たにな物がスクリーンに映し出される。
【超絶合金ガンドラニュームZZβ】
と記されたその数値にアクトはまさしく度肝を抜かれたのだった。
硬度、靭性ともに四十パーセントを超え、耐熱温度はも四二〇〇度。そして重量は三パーセントダウンと顎が外れそうになるほど驚きの数値だった。
「男ってこういう数値を見るの好きでしょ? とくとご覧あれ!」
得意気に言うリンに対して博士は冷静に言った。
「で、この超合金ガンドラニュームZZβっていう夢のような合金って何なんだい?」
そう、リンの言う超合金ガンドラニュームZα(以後=超合金)とは既存の装甲に使われている物で、改は(以後=超合金改)今回強化された物だ。では超絶合金ガンドラニュームZZβ(以後=超絶合金)とはなんなのか?
数値を見れば正に夢のような性能なのだが、なぜ今それを発表したのかその真意がわからず皆困惑していた。
「夢のような? 何を言っているんですか。理想的じゃないですか!」
「理想的だが現実的じゃない。こんな合金があったらガイファ……、機動重機の第二世代を通り越して第三世代と言ってもいいようなボディーが作れてしまうって話だ。それが無いから我々は日々研究しているのだけどね」
「作りましょうよ、その第二世代をすっ飛ばした第三世代のボディーって物を。私たちももっと頑張りますから!」
リンは寝不足と疲労のある目で力強くそう話した。
「ヤル気十分だね。才能もあるようだしこの部署に配属させた甲斐があったよ。今回は本当によくやってくれた」
「ありがとうございます!」
リンとふたりの所員は寝不足と疲労でハイテンションになっているようで、博士の言葉に大きな返事と敬礼で返した。
「ではまずは超合金改のテストをおこなって問題なければ機動重機たちの装甲を換装してもう一度テストをおこなう。そのあと本部にて量産に入るとしよう」
長谷川にそう告げると博士振り向いて帰ろとする。
だが剛田とアクトは不思議な表情をしており長谷川も同じような感じだったことに博士は気が付く。
「あのう、超絶合金ガンドラニュームZZβはどうするんですか?」
リンが柔らかい声で博士に聞いた。
「だからその夢のような合金が完成したらまた呼んでください。今は新合金の開発よりも既存の物の強化が優先されますからね。超合金改を早く実践投入しましょう」
博士は当たり前のことを言っているのだが、場の空気がなぜかおかしい。そのおかしな空気の中でアクトはリンに問い掛ける。
「なぁリン」
「ん?」
「もしかして、もしかしてなんだけどさ。その超絶合金なんちゃらβって」
「超絶合金ガンドラニュームZZβね」
「そう、そのβってさ、製造の構想が立っているのか?」
「え?」
リンの口ぶりからその可能性を考えての問いかけに、博士も驚きリンを見た。
「何言ってんのよ」
「だ、だよな。さすがにそんなわけないよな」
「あるわよ」
と真顔で答える。
「馬鹿な。こんな超合金の構想が立っているっていうのかい?! 成功率は? この数値は完成予想値の平均値か? 最高値か?」
さすがの博士もこの合金が製造可能であると言われて平常心ではいられなかった。もし本当にこの合金が作れたならば、ガイファルドの切り札となりうるからだ。
「違います、超合金ではありません。超絶合金です」
「どっちでもいい」
「良くありません!」
「あぁわかった、その超絶合金の構想はあって計算上ではそこに出ているくらいの数値だと試算できているわけだな?」
博士はいつものような緩い落ち着きを失ってしまいなかなか話が進まないので、剛田が話をまとめにかかった。
「それも違います! さっきから何を言っているんですか? あるって言ったじゃないですか」
「だからその構想が……」
「だからここにあるって言ってるんです!」
と言ってリンはテーブルの上の四角い金属板を指さした。
「この数値は目の前にあるこれの分析結果です」
瞬間、この場の空気が凍り付いた。
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