Scene9 -8-
「こいつ、強い」
四足歩行の獣型機械虫(?)がセイバーに襲い掛かる。巨体の割りに素早く、まるで生き物のようであり、直線的な攻撃しかしてこなかった機械虫と違い、あらゆる方向から攻撃し、フェントまでしてくる。
「セイバー!」
辿り着いたノエルがセイバーの後方に着地する。
「気を付けろ、今までの機械虫とはまったく別物だ。いや、こいつはもう虫じゃない。機械虫じゃなくて機械獣だな」
「機械獣、確かに」
ふたりして納得したところにその機械獣は鋭い牙を備えたアギトを広げ、爆音と共に衝撃波を放った。それを予想したセイバーは一瞬早くその場を跳び退り、ノエルもそれに続いたが、強力な衝撃波は二体のガイファルドの全身を叩いて吹き飛ばす。
どうにか転倒は避け両足で踏みとどまったところに機械獣が詰め寄より獰猛な牙が襲い掛かった。
「こんのぅ!」
体を捻ってもう一度地面を蹴り飛ばしスラスターを吹かして上空に飛び上がるセイバーと、身をかがめて体側をすり抜けるノエル。
ギィィィィィ
ノエルは置き土産として腰に装備したダガーですれ違いざまに斬りつけるが、頑強な装甲には一筋の斬痕の跡を残すのみだった。
着地するセイバーの脳裏に再び戦いの恐怖が浮かび上がる。もうこの恐怖とは切っても切れないモノだと自覚しているのだが、やはりゾクリと背筋を冷やして一瞬体を硬直させてしまう。
そんな中でも口元にはほんのわずかに笑みがあった。
セイバーに対峙する機械獣が少しだけ身を屈めたとき、上空からイカロスの機銃が機械獣を襲い、続けて爆雷が投下された。
「ヘビーアームズを投下します。ノエルは後方に下がって受け取ってください」
イカロスが機械獣の上方を通過したときにオプションスタイルズボックスが射出され、ノエルは同じ方向に跳んでボックスと共に着地した。
「機械獣、こっちだ!」
機械獣に向かって走りながらもノエルと反対方向になるように横走りで接近するセイバーは、フォースフィールドを展開して本格的な戦闘状態へと移行する。その時間を使ってノエルはボックスのレバーを引きオプションボックスを展開させた。
ラックに引っ掛けるように収納されている兵装の床の印に両足を合わせ、バックパックに背中を押し当てる。両腕のガトリングアームに腕を通してグリップを握るとガトリングガンとバックパックがロックされ、レッグガードが立ち上がってブーツ状に装着される。バックパックと一体化している大きめの胸部装甲板が前面に降りて体を包みむとラックの固定機構が解除され、ヘビーアームズの重みがノエルに圧し掛かった。
「最初から全力攻撃」
セイバーに続いてフォースフィールドを展開したノエルはオプションボックスから跳び出した。
セイバーが引きつけている後方からフォースによって強化したガトリングガンを撃ちまくる。機械獣がその攻撃に気を取られると、セイバーは接近して顔面を拳で殴り付け、退避しざまにもう一度顔面を蹴り抜き距離を取るった。
「ついでにそいつも食らっとけ」
そこにノエルのミサイル攻撃が機械獣を爆炎に包む。
「どうだ?!」
だが、すぐに砂と煙が振り払われ、機械獣は何事もなかったように飛び出してノエルに噛みつきにかかった。
重量のあるアーマードヘビーアームズ・スタイルの運動性の悪さはこの機械獣とは相性が悪いのだが、スラスターと追加バーニアによって得た運動性によって、スピードは無いものの小刻みに動いて攻撃をかわしつつ乱射する。
セイバーの援護をするつもりで装着したオプションアームズだったのだが、逆にセイバーが援護する側となって、ノエルは回避後退しながらの戦いを強いられていた。
『やっぱりこいつは考えて行動している』
中遠距離支援の武器ではあるがノエルの戦闘センスにより不本意ながら近接状態での戦いを継続していた。それが幸いしてフォースによって強化された攻撃は至近距離ならこの凶悪な機械獣に効果があった。しかし、幸いあれば災いあり。全弾がフォースコーティングの連射はノエルを加速度的に消耗させていく。
何度となく弾かれながらセイバーは身をていしてノエルに回避する状況を作っていた。本来ならばセイバーのダメージは蓄積して動きは悪くなるはずなのだが、ダメージに反比例するかのように動きは良くなっていき、ふたり掛かりながらもよく戦っていると言える。
『ちくしょう、決定打がない。レオンが居れば』
セイバーはこの状況を打破する決定打を持っていなかった。『レオンが居れば』そう思うのはレオンにはそれがあるからだ。
フィーチャーフォース。ガイファルドが持つフォースの特色を顕現させたモノ。これまでにも機械虫戦で何度か使って見せた手のひらから繰り出したあの技だ。
セイバーも同じように両の拳にフォースを込めるが、レオンのように爆発的に攻撃力は上がらない。
無いものねだりをしながら機械獣との交戦から二分が経過したそのとき、近距離に落雷した音の何倍もの轟音と何かが弾ける衝撃が不規則に放たれて、同時に望んでいたレオンがセイバーの前を横切り砂の上を三度バウンドしながら転がって飛んでいった。
「レオンがこちらの空間に復帰っ……ピラミッドが!」
セイバーの目の前を通過していったレオンは地面にあお向けで倒れたまま動かない。体中が傷だらけで手痛いダメージを受けている。
「おい、レオン」
ノエルはミサイルで煙幕を作り、セイバーはレオンを抱きかかえて機械獣から距離を置いた。
「大丈夫か、しっかりしろ」
ありきたりの言葉で声を掛けると、どうにか反応したレオンはセイバーの耳元で囁く。
「That's dangerous.Get away from here quickly.」
「逃げろって?」
かすれる声をどうにか拾ったところでイカロスからの通信が入った。
「空間壁が崩壊します。気を付けて!」
イカロスはピラミッド上空から退避していった。セイバーも空中で再度スラスターを吹かしてピラミッドから離れた場所に着地すると、何度目かの落雷のような耳をつんざく音が轟いてピラミッドの方から強い光が閃いた。
強大なDゾーンによって息苦しかったその場所には静かな風が吹き、無数に立っていた機械虫の柱は、そのか細い風に吹かれただけでグズグズに崩れ落てしまう。
数キロ先からは同盟軍の戦う音が聞こえてくるが、ピラミッド周辺の機械虫はすべて灰のように崩れて消えてしまった。
先ほどまで荒ぶっていた機械獣も動かず立っている。
その後方、ピラミッドがあった場所は更地と化して上空も雲が吹き飛び穴が開いたような状態だ。そして、その直下には黒っぽい人影があった。
「あれは巨人。ガイファルド? レオンをこんなにしたのはあいつなのか?」
それを見ただけでアクトの心に戦慄が走った。
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