Scene2 -2-

「なによ。どういうことかさっぱりわからない」


「オレもわからないけど、とにかくやばそうだ」


 自転車をぎながら振り向いたアクトが見たのは、ヘリの墜落現場にたたずむ妙な柱状の物体だった。


「全力で!」


 そう叫んだときにはすでに奇妙な柱はすぐそこまで追いかけて来ていた。


「止まりなさい。言う通りにすれば手荒なことはしません」


 優しい女性の声ながら、どこか無機質な声色で警告してきたが、かまわずペダルを続けると、警告から三秒後にふたりは自転車から投げ出されて地面を転がった。


「ってぇ」


 リンはそのまま横向けに倒れ、アクトはゴロゴロ回転しつつもすぐさま立ち上がり、右手に持ったままだった銃を構えた。


「リン!」


 横目で見ると痛がってはいるが大きな怪我はなさそうでアクトはほっとするも、自転車は前輪が切断されてもう使えない。その自転車のそばにはあの男に託された鞄が落ちている。


「銃を捨てなさい。攻撃的行動は敵意があるとみなし排除します」


「おまえはなんだ? なんでこんなことをする!」


 アクトは命の危険にあるとは思っていても、アドレナリンの問題か右手に持つ風変わりな銃のおかげか強気に質問を返した。だが、奇妙な柱状のメカは体から生えた触手のような腕をウネウネさせるだけで返答はなく、黄色く光るモノアイが右に左に動きアクトやリンや周囲を観察している。


『あの鞄の中身を探しているのか? でもまだそれに気が付いていないのかもしれない』


「リン、立てるか?」


 リンは痛々し気に上体を起こした。


 柱は立ち上がるリンにモノアイを向ける。


「ほら、リンは早くここを離れろ」


「でもアクトは」


「オレはやることがある。あとから行くから研究所まで走るんだ」


 アクトは手足を震えさせながらも気丈に振る舞ってリンを安心させようとしていた。


「アクトも絶対あとから来てよ」


 背中越しでもリンの声が震えていることが伝わってきた。その言葉にアクトはうなずいて応える。


 立ち去ろうと後ずさりするリンに、柱メカはモノアイの光を照射した。


「敵対行動なし、探索対象の未所持を確認しました。この場から立ち去ることを許可します」


 リンが柱メカの対象外だと知ってアクトはホッとする。


「青年はその場で待機してください。行動に不審な点がみられます。銃を捨ててこちらの指示に従ってください」


 こんな状況で一般人が銃を持っていれば、何かしらの関係があると疑われても無理はない。


 リンに興味を無くしたらしい柱メカはゆっくり移動を開始した。その方向にはジュラルミンケースがある。


『まずいな、鞄を調べに行ったか』


 二メートルまで近づくと黄色いモノアイから鞄に向かって光が照射された。

「透視不可能により鞄の解体をおこないます」


 二本の触手の他にさらに二本の凶器な触手が生えてくる。


『ちくしょう、頼むから効いてくれよ』


 心で叫びながら引き金を引くが右手の人差し指が動かない。もう一度全力で引くがびくともしなかった。そうこうしている間に、四本の触手を使ってジュラルミンケースは解体されていく。


『なんで撃てないんだよ?!』


 ふと、銃の側面を見ると小さなレバーがLOCKを指している。


『セーフティか!』


 親指でロックレバーを解除した途端、黄色だったモノアイが赤に変化した。

「敵対行動と認識しました。排除します、排除します」


 柱メカは解体作業をしつつ体の前面にあるシャッターを解放する。そこからギラリと光る銃口が露出した。


 ズガーン


 バシュッ、バシュッ


 二種類の発射音が鳴った直後にボンッと柱メカから火が噴いた。


 一瞬早くアクトが撃って相手の照準が狂ったことで、弾丸はアクトを逸れて空に向かって飛んでいった。すぐに走り寄りながらさらに二発撃ちこんで、解体されたジュラルミンケースに手を突っ込み中の物を掴み取った。


「それヲわタしなサイ。ワたさなケレばあなタを消去しマス」


 アクトは振り向いて銃を構えてしっかり狙いを定めると、照準が乱れた射撃を繰り返している柱メカのモノアイ付近に銃弾を撃ち込んだ。


「消去シ……まス」


 ボボンッ


 爆発が起こり柱メカは横転してようやく動かなくなった。それを見届けたアクトはすぐにその場を走り去った。その理由は柱メカがヘリが墜落した現場にあと何台かいたからだ。そいつらに追いつかれたもう逃げきれない。なにか乗り物を手に入れて研究所に行かなければと考えたアクトの前に二台の柱メカが滑るように現れ立ちはだかった。


「ちくしょう!」


 走りながら銃を撃つがさっきのように当たらない。走りながら動く物を狙撃することなど素人には土台無理なのだ。銃弾を避ける分だけ柱メカの射撃の的をずらすことができたのが幸いしていたが、それもこの一発が最後となった。


 ズガーン、カチン、カチン


『弾切れ?!』


 避ける必要のなくなった二台の柱はその場に止まり、赤く光るモノアイが冷たくアクトを狙いすます。そのときアクトの手に握りしめている物が淡く光っていることに彼は気が付いていなかった。


 バシュッ、バシュッ


 柱メカの腹の銃身から放たれた弾丸の一発がアクトの肩に命中し、アクトは体をねじらせながら倒れた。


「目標に命中、探索物の回収をおこないます」


 肩から流れた血が地面に血だまりを作るアクトに、二台の柱メカが寄ってくる。ぼんやりした視界の中で自分が握っている物がようやく宝石なのだということを彼は認識した。


 その宝石は握られた手の中で血だまりにかりながら、攻撃モードの赤い光を放つ柱メカのモノアイよりも強く輝き始めた。

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