第464話 工場自動化の手法
ガンマからの定期報告は特に問題が無いと言う事で、現在のところ落盤等の事故も無い。
ただ、抽出の効率の事だけで比較すると、俺達が抽出していたピーク時の60%ぐらいの産出量である。
これを、『40%も劣る』と考えるのか、それとも、『人の手間を取らずに待ってるだけで60%も産出』と考えるのかによる。
俺の考えでは、後者だな。 安全な所で待っているだけで60%も持って来てくれるのだから、最高だろう。
危険を伴う仕事やな場所での作業はゴーレムに任せ、人でなきゃ駄目な仕事を人がやれば棲み分けが出来る。
こうして考えると、ここ最近、何か、俺の周囲だけは地球よりも近未来の世界に突入している気がするな。
当初、文明的には随分遅れていると思ったこの世界だが、魔法のお陰で逆に進んで居るところもあるし。 公害問題とか温暖化とか無い分、こっちの
世界の方が良いのかな?
ただ、地球に比べて、明確に遅れている分野がある。そう、それは娯楽面である。 多少の楽器はあるみたいだけど、ラッパ系の楽器を見た事が無いし、弦楽器か、貧相な笛程度ぐらいしか無い。
俺も、皇帝君もその分野は無理なので、女神エスターシャ様には是非ともその分野の人材を送り込んで頂きたい物である・・・。
さて、ゴーレムの生産状況であるが、現状、1カ月間、約100機のペースでゴーレムを製産しているのだが、このままのペースで残り1400機製産するとなると、更に14ヵ月掛かる事になる。
つまり、1年以上である・・・新婚の子供らをこれに縛り付けている様で、非常に心苦しい状態なので、アタッチメントの製造等の増えた工程もある事だしと、皇帝君やドワーフの親方と話し合って、各国10名ずつ増員する事を検討したのだが、元々余裕の無い中人員を割いて此方に回しているので、これ以上は王宮の工房側が崩壊(廻らなくなる)とダメ出しされた。
正に、ご尤もである。どうするか?と考えて居たら、サチちゃんが、
「ケンジ兄ちゃん、単純な削り出し工程や、プレス工程なら、ゴーレムが使えるんじゃな?」と言う正に現代のファクトリーオートメーション化の様な提案をして来た。
「ほほう、それは確かにイケそうな提案だな。」と俺も親方も乗り気になって、組み立ての終わったゴーレムに簡単な削り出しやプレスの工程を教え込み、職人と交代させて、手の空いた職人を職人の必要な工程に回し、適材適所を最適化して行く。
必要に応じて、工作機械を追加して、更に生産効率を上げて行く。
「素晴らしいな!まるでSFの世界の工場じゃん!」と皇帝君が、大喜びして居る。
しかも、これらの製産工程を学んだ事で、ゴーレム自体の質が上がると言うおまけ付きである。
最終的に、単純作業の殆どをゴーレムが熟し、組み立て工程の最後の確認と微調整のみを職人が行う感じにまで製造ラインが最適化されてしまった。
本当にビックリである。
しかも、凄いのは、魔力充填装置での魔力補充時間のみの休憩で、ほぼ24時間働き続けるゴーレム軍団・・・。
毎朝工場に行くと、ズラリと並んだ完成品のゴーレムの最終確認と微調整から始まる日々である。
職人の1人がボソッと
「これじゃあ、どっちがどっちに使われているのか判らなくなりそうですね。」と呟いていた。
「うむ。確かに、俺もそんな気持ちになるな。」と俺もその呟きに思わず同意してしまい、全員が朝から苦笑いである。
ちなみに、人員に余裕が出来たお陰で、『抽出アタッチメント』と『広域攻撃アタッチメント』の製作にまで人員が回せる様になったのは幸いであった。
最初こそ、キツキツの人員で家内制手工業ライクだったのが、産業革命を経て一気にFA化に成功した様な感じである。
今では、最終確認と微調整を職人が行っていたのだが、1週間もせずに、その微調整すら不要である事が判明し、製造ラインに回す必要が無くなったゴーレムをドンドン鉱山に送り込んで居るお陰で、
今回1500機に必要だった分の鉱石は回収し終わり、現在はストック分を日々増やす状況である。
さて、まだ目標である1500機までは遠いが、この後の事について、皇帝君と話し、もっと余剰のゴーレムを製産要員用にストックして置こうと言う事になった。
現状、既に人の手を離れ、1日1回程度、秘密工場に確認に来るぐらいで事足りるぐらいになっている。
「しかし、ゴーレムがゴーレムを作るとなってしまうと、もう完全にSFやアニメの世界だよね。」と皇帝君が製産ラインで旋盤等で部品を削り出してたり、緻密な組み立て作業を行うゴーレムを眺めながら呟いていた。
「その内、もっとケーススタディを積むと、もっと今より複雑な製造まで出来てしまうんだろうな・・・。」と俺がそれに応える。
「だけど、人(職人)に取って代わる程の創造性のある事は無理だし、1機当たりの単価が材料費だけで莫大だから、そこ(俺の危惧している事)は大丈夫だよ。」と俺の心配を吹き飛ばす様に笑って、肩を軽くポンポンと叩いていた。
普段頼りないポンコツ気味の皇帝君だが、流石は生粋の皇帝教育を受けた人物だな。 確かに今だけは頼もしく見えてしまう・・・。
と言う事で、帝国側から、助手君、我が方からは、エリックかサチちゃんの何れかが順番で確認する様な流れとなった。
そう、ここの製産はゴーレムに任せてしまい、生身の人員は全員引き上げである。
引き上げの際の打ち上げ時、職人達が若干切なさそうな顔をしていたのだが、最後に俺と皇帝君が、
「君らにしか出来ない事は沢山あるし、ゴーレムには人の様に物を0から創造し作り上げる事も、芸術品を生み出す事も出来ないから、自分達の仕事に誇りと自信を持って欲しい。創造出来るのは女神様と我々生を受けた物の特権なのだから。」
と言うと、納得しつつも微妙な笑顔でそれぞれの国に戻ったのだった。
さて、出向していた職人達が本来の持ち場に戻ったので、この際に、我が国の工房の若い職人を増やす為の動きを本格化する事にした。
そう、兵士でも職人でも、有能な人材は一朝一夕では育たないのである。
必要になったからと急に言っても間に合わないのである。
なので、余力のある内に、次世代の人員の育成をして置かないと、下手すると、伝承が途切れ、ロストテクノロジーになったしまうのだ。
世代から世代への伝承は重要なのである。
と言う事で、工房の人材担当と相談し、学園都市の錬金科等の学生や卒業生に募集の声を掛ける様にして貰ったのだった。
◇◇◇◇
王宮の工房も若い人材が増えて来て、その中でエリックとサチちゃんは筆頭となって、新しい製品を作ったり、新しい魔方陣の研究をしたりしている。
1年が経つ頃には、目標の1500機は余裕で完成し、『スノーマン島』の鉱山から送られて来る鉱石を使って、それでも日々ゴーレムの製産を続けていた。
気付けば、ゴーレムのストックだけで、秘密基地の格納庫の下の倉庫に約1万機ぐらい貯まってしまった。
「皇帝君、もうそろそろ、ストック良いよね?十分過ぎるし。」と俺がいい加減ゴーレムの製産ストップを打診すると、「ああ、そうだよね。完全に取り分を貰って油断してた。もう十分だよね。」と素で忘れてたらしい皇帝君が通信機の向こうで笑ってた。
漸くこれで生産ラインの停止だ。
俺達は、久々の秘密工場で集まって、生産ラインの停止と必要な時に再開出来る様に万全の状態で工場を保管状態にするのであった。
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